ここでは、法人向けのモデルに用意されているさまざまな機能を見ていこう。これらの機能は個人/SOHO向けの製品だけを使っているとなかなかお目にかかる機会がないため、中にはあまり知られていない機能も多い。中小企業やSOHOでドキュメントスキャナを探す場合は、こうした機能の存在を知ったうえで、製品を選ぶことをおすすめする。
多くのドキュメントスキャナは本体のボタン操作でスキャンを開始できる設計になっているが、ボタンが1つだけだと、決められた1つのジョブ設定でしかスキャンできない。法人向けモデルでは、本体に複数のジョブボタンがあるか、もしくは複数のジョブを切り替えボタンで選べることが多い。ちなみに後者の場合、どのジョブが選択状態にあるかは、ボタン横に数字で表示される製品が多い。
原稿から特定の色だけを除外する機能。例えば手書きの書類からけい線の色を飛ばして文字だけを見やすくしたり、あるいは印鑑の朱色だけを除去するといった処理が行える。OCRの読み取り精度を向上させる目的で使われることが多い。なお、これとは逆に特定の色を強調する機能もあり、薄く読み取りづらい押印を強調する用途などで使われる。
白黒とカラー、高解像度と低解像度など、同時に2種類の読み取り設定でスキャンする機能。マルチストリームなどとも呼ばれる。先ほどのドロップアウトカラーなどと組み合わせれば、OCR処理用に背景色を飛ばしたデータを作成しつつ、保存用に通常のカラーモードでもデータを作成するといった処理が同時に行える。設定を変えつつ、スキャンを2度繰り返すのではなく、1度のスキャンで両方のデータを生成するのが肝だ。
原稿を半分に折った状態でスキャンすると、ソフトウェア上で表面と裏面とを結合させ、1枚の原稿として出力できる機能。これにより、ドキュメントスキャナの給排紙機構がA4の幅しかなくても、A3原稿を読み取ることが可能だ。折りたたんだ状態そのままでスキャンできる製品と、キャリアシートなどと呼ばれる2層の透明フィルムで原稿をサンドイッチすることが必要な製品がある。個人/SOHO向け製品の一部にも見られる機能だ。
ドキュメントスキャナはその構造上、給紙から排紙までに原稿がカールするか、あるいはUターンすることが多い。原稿を真っ直ぐな状態で読み取り、背面もしくは前面にストレートで排出できる製品であれば、厚手の原稿や、カード類などのスキャンも行える。個人/SOHO向け製品の一部にも搭載されているが、法人向けモデルでは原稿を傷つけないことを目的に、前述のキャリアシートと組み合わせて使われることが多い。
パンチ穴やモアレの除去といった補正機能は、その性格上、個人/SOHO向けモデルでの実装例は少なく、法人向けモデルにのみ搭載されていることが多い。特にモアレの除去機能やページ全体のコントラストを調整する機能は、相応の処理能力がないとスキャンそのものよりも時間がかかり、処理待ちの状態が長引くことになりかねないため、接続先PCのCPUやメモリなども重要な要素となる。
原稿と原稿の間に仕切りを挟んでおくことで、区切られた位置ごとにフォルダを作成して保存したり、仕切り紙に書かれたバーコード情報を基にファイル名を付与する機能。この機能があれば、後でユーザーが書類ごとにフォルダに分類する必要がなくなるほか、異なるグループの原稿でもまとめてセットできる利点がある。製品によっては有償のオプションとして提供されていることもある。このほか、OCR処理したページに含まれているキーワードを基に保存先を振り分けられる製品もある。
スキャン後に特定のネットワークフォルダにデータを保存する機能。ドキュメントスキャナがネットワークに対応していれば、この機能を使うことで、個人PCのフォルダや共有フォルダなどに直接スキャンデータを保存できるようになり、スキャン後に手作業で分類する必要がなくなる。ネットワーク接続に対応したドキュメントスキャナはそれほど多くないが、こうした機能がオプションで提供されている場合もある。またもともとネットワークに対応している複合機では、標準でこの機能を搭載していることが多い。
スキャンデータを誰かにのぞき見られないようにするためには、保存先のフォルダもしくはドライブにアクセス権限を設定する方法もあるが、PDFファイルそのものをパスワード保護するのも有力な方法だ。PDF化して保存が完了した後に手動でパスワードを追加するのは手間もかかり、またAcrobatなどの編集ソフトが必要になるので、多くのスキャナにはスキャン時に自動でパスワード暗号化してくれる機能がある。アクセス権限の及ばない外部にデータを転送する場合などにも有用だ。
パスワード暗号化など、特定の環境でしか表示できない特殊な処理を禁止したPDFのフォーマットが「PDF/A」形式だ。このPDF/A形式でスキャンデータを生成する機能は、互換性などで要件が定められている場合は重要で、法人向けモデルでの搭載例が多い。
ドキュメントスキャナはその構造上、本のようにとじられた状態の原稿はスキャンできず、また厚みのある原稿も苦手だ。こうした原稿を読み取る場合に活躍するのがフラットベッドスキャナだが、ドキュメントスキャナとフラットベッドスキャナで別々に読み取るとなると、後からPDFを結合させる必要が生じるなど一苦労だ。そのためドキュメントスキャナの中には、フラットベッドスキャナを増設して併用できる製品や、本体がフラットベッドスキャナと一体化した製品がある。
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