稲作農家の日常業務は、田んぼの水位と水温モニターの管理が4分の1を占め、大規模農家にとっては水管理が大きな負担となっています。
特に内田農場では、55ヘクタールという敷地を持っており、事務所から5〜6キロほど離れている場所もあります。もし1日3回の見回りを1日1〜2回まで減らすことができれば、燃料代や見回りにかかる時間をカットし、効率的な仕事が可能になります。
そこで内田農場では、ベジタリアとイーラボ・エクスペリエンスの2社が開発した水管理支援システム「Paddy Watch」(パディウォッチ)を導入。このPaddy Watchでは水田センサーを一定の間隔で田んぼに差し込み、水位や水温を自動計測します。計測データは本体の記憶装置に記録され、専用サーバに蓄積したり、iOSデバイスのアプリに配信されます。
アプリでは水田センサーが計測した、水位・水温・湿度などが一覧で表示され、ひと目で現在の田んぼの状態が確認できます。外部天候予測もチェックできるため、今後の降雨情報や外注発生予測などをリアルタイムに把握し、あらかじめ対策を立てることで、冒頭のような災害時にも、早めに手が打ちやすくなります。
さらに計測データはiPhoneを経由して、Apple Watchのアプリでも確認できるようになっています。スタッフには振動による警報喚起がなされるため、両手が塞がる作業中でも手元でさっと田んぼの状態や通知を受け取ることが可能。一分一秒を争う事態にもすぐに対処しやすくなります。スワイプで水温・水位の数値を直感的な見た目で確認できるため、業務中でも視認性を高める工夫がなされています。
ITと農業という一見縁が遠そうな現場にこうした技術を導入するのはハードルが高そうな気もしますが、内田さんやスタッフは以前からiPhoneユーザーだったこともあり、特に難しさは感じなかったといいます。サクサク動き、使いやすく、グラフィックスが優れているという理由で、スタッフ全員がiOSデバイスを活用しているそうです。
農業では古来から、「作物に足音を聞かせるほどよく育つ」といわれるほど、手間をかけることが美徳とされてきました。製造業などの他業界が効率化・省力化を進める中、“スマート農業”がなかなか進まない要因の1つといえます。
内田さんは「“日本一作物に足音を聞かせている”とアピールする農家もありますが、いちばん大切なことはおいしいお米をお客さまにきちんとお届けすること」と語ります。現在はわざわざ足を運ばなくても各種センサーによって確認できる情報は多く、そもそも災害で稲がだめになれば、取引先へ、ひいてはお客さまへ商品を届けることすらできません。ITにまかせられる部分はまかせて、データで事前に防げることは防ぎ、作物を守って確実に届けることも重要なのです。
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