―― TENTからは具体的にどのようなデザインの提案があったのでしょうか?
本田 iPhoneに後付けケースを装着している人が多いので、「本体デザインと一体化し、ケース付きでもシンプルで美しい姿を実現しよう」というのが、オリジナルのコンセプトとしてありました。
それに対してTENTが持ってきたのは、1つは薄い2枚の板でカバー素材をサンドイッチにしたようなデザインでした。ミルフィーユのように異素材が重ねられたように見える設計で、真ん中のカバー素材を折り曲げると画面カバーになります。
もう1つのアイデアは、デザイン提案というよりも、機能性をデザインアプローチから高めたもので、カーマウンターや自宅でのスタンドなどで活用し、あまり意識せずに充電までを可能にするというコンセプトでした。
これらに混じってあったのが、「2TONE(当時はTWOではなかった)」と「ROLL」でした。ROLLが後のFLIPへと発展していきますが、いずれもまだ原型でしたし、現在のような統一感のあるデザインにはなっていません。ROLLにはストレート型のデザインがなく、2TONEはフリップ型もありましたが、現在のものとは違います。
ROLLは発表済みだったNuAns製品に共通するコンセプトを感じましたし、2TONEは斬新さや個性を出す手段としても優れていました。「さて、どうしようか?」というところで、COREコンセプトを思い付きました。
別々にデザインされていた2TONEのストレート型とROLL、両方をCOREに装着するカバーにして切り替えることができれば、CORE部分を共通化できます。このアイデアを持ち帰ってもらい、最初の3Dプリンターのモックが出来上がってきたのは7月14日ですね。
この先も、FLIPでカメラレンズを隠すべきか、隠さないべきかとか、FLIPで本体を自立させるために構造的にどう工夫すべきかなど、細かい検討はかなりやったのですが、基本的なデザインが固まったのは7月14日のミーティングです。
―― コンセプトやデザインを丁寧に積み上げていっても、実際にそれを実現できるわけではありませんよね。(前編でも)TWOTONEカバーの成型が大変だったと話されていましたが、どのように問題解決したのでしょうか?
本田 結果的に……なのですが、作りたい製品のビジョンやストーリー、デザインについて語りかけ、共感してもらい、一緒にモノ作りするプロセスに参加してもらうことが近道でした。
今どきスペックや機能の話をしても「ふーん」で終わってしまいます。では、デザイン要素を加えればいいかというと、それだけでもダメです。そこにストーリーテリングを加えて、最終製品とそれが世の中に投入されたときのことをイメージしてもらい、そのプロジェクトに加わりたい、と思ってもらえるかどうかが重要です。
例えばFeliCaネットワークスを訪問したとき、結論として僕ら単独ではおサイフケータイは無理と判断しました。Microsoftがおサイフケータイを実現する基礎部分のソフトウェアを作ったとしても、その先にさまざまな困難があることが見えてきたのです。
しかし、そうした話し合いをする中で、先方も僕らのプロジェクトに積極的に巻き込まれてくれて、「おサイフケータイが無理でも、PaSoRi(パソリ)の手法なら何とかなるかも?」という話が出てきました。
そこで僕らも、それなら可能性があるかもしれないということで、おサイフケータイにはならないけれど、FeliCa互換のNFC TYPE-Fを搭載しておき、内蔵用スロットに入れたカードとNuAns NEOが通信できるよう設計することにしました。
TWOTONEの成型技術も同じですね。K'sさんから紹介されて多くの素材屋さんとミーティングを重ね、素材感や耐久性などについて検討して可能性を探っていました。
最終的に残ったのは木製シート(テナージュ)、クラリーノ、ウルトラスエードといった素材ですが、他にもエコレザー(革なめしで出てくる革廃材をラテックスで固めたもの)、ソフトフィール印刷などが候補となりました。それぞれ日本はもちろん、中国のパートナー企業などと作り方を検討しましたが、とても作れそうにないのが課題でした。
―― それで、結局はどのようにしてTWOTONEを成型したのですか?
本田 最終的に実現できたのは、ART&TECHという会社が持っている「SOLIDUX」という加飾成型技術を使えたからです。ここのトップの人たちは、今までにないものを作るのが本当に大好きで、積極的に乗ってくれました。
「本当は中国でも作れるでしょ?」と言われることがあるのですが、物事には向き不向きがあります。縫い物のコストが大きいFLIPは中国生産の方がよいのですが、TWOTONEのようなカバーは日本の方がよい場合もあるのです。
例えば、テナージュを使った成型の場合、そのまま放っておくと激しい反りが出ます。高温、高圧で加工され、薄いとはいえ、木材から水分が飛んで縮むためです。その部分をある工夫を経て、さらに調整を生産時にかけていかないとダメなのですが、細かな条件設定が必要になるので中国でやっていたら開発は間に合わなかったでしょう。そもそもPL(接合線)なしの成型はできなかったと思います。
EMSパートナーについては、ビジョンを共有するパートナーを中国で見つけられましたが、外装に関しては日本にそうした会社があったから日本製になったとも言えますね。
他にもいろいろあるのですが、素材屋さんや成型技術などの企業が、僕らと一緒にやりやすかったのは、最初から「どんな技術を使ったかを明らかにする」と明言して、「一緒に新しいことを実現しよう」と語りかけたことと、価格設定をハイエンドではなくミドルクラスにしたことがあります。
円安などの影響もあって、ハイエンドのスマートフォンは軒並み10万円近くになっていますが、コストをかけられるのであれば、デザインや外装を改善できるのは当たり前です。しかし、4万円程度の価格でデザインや質感で納得感のあるものを出せれば、別の仕事にもNuAns NEOでの経験を生かせますからね。
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