映像業界3つのトレンドと、25年目の「Premiere」が目指す次の1歩林信行が見る(3/3 ページ)

» 2016年05月26日 19時37分 公開
[林信行ITmedia]
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25年目のPremiereはどこへ向かうのか?

 NAB ShowのAdobeブースでは、Adobe Premiere Pro CCの最新機能が4つ紹介されていた。その多くはプロフェッショナル向けの、地味だがじわじわ効いてくる変更が多い。このうち、一般の人でも分かりやすいのは、HLSセカンダリーカラーコレクションという機能だろう。

 カラーコレクションというのは、ここ数バージョンのPremiere Proがこだわってきた部分だ。Premiere Proは、わずかな撮影条件の違いによって変わってしまう映像の色味を、制作者の望み通りに合わせる「HLSカラーコレクション」という機能をこれまでにも提供してきた。今回の新機能では、色を補正した映像で、特定の色を選択すると、その色だけ別系統の色に差し替えができるという機能だ。

 デモ映像に使われたのは日本人クリエイター、Takehiro Tobinagaさんが自然の中を歩き回るシーンの映像。一度、この映像の色補正をした上で、ピンク色だったジャケットを「クライアントの意向で」という設定で紫色に変更してみせた。一度、撮影してしまったものを後から撮り直しが決まっても予算的に難しい場合、Premiere Pro CCがあれば、映像全体の色調を崩さずに簡単に色の「調整」が可能になる。

色を補正するデモ

ピンクのジャケットを紫色に変更しても破たんがない

 二つ目の新機能はプロキシー編集機能の充実だ。常に映像編集の最先端を走るAdobe Premiere Proは、次世代の映像スタンダードになる4Kビデオや、さらにその先のまだ表示装置もほとんどなく、配信方法も定まらない8Kビデオの編集にも対応しなければならない。Premiere Pro CCは新たに人気カメラのRED Weaponの8192×4320ピクセル(60fps)にも対応して直接取り込みが可能になった。

 これら超高解像度の映像は、映像ファイルの容量も巨大となり、HDDも圧迫すれば、今日のパソコンでも滑らかな再生が難しいこともある。そこで登場するのがプロキシー編集だ。映像をそのまま編集するのではなく、快適に編集できるように、編集用の解像度の低い(といっても、かなり高解像度)映像に差し替えて作業し、すべての編集が終わった後に、本物の映像に差し替え直すという方法で、これまでにもよく行われていたが、これがクリエイティブクラウド仕様に進化した。

 低解像度映像への差し替え作業はバックグラウンドで自動的に行われ、クリエイティブクラウドを通して、共同作業をしているチームメンバーの映像も自動的に差し替えられるのだ。

プロキシー編集機能がクリエイティブクラウド仕様に進化した

 三つ目はVR映像編集への対応。今年の映像界で1番の話題といえば、やはりVRだろう。同じNAB Showでは、Nokia社が発表した高精細でリアルタイム撮影も可能なカメラ「Ozo」も話題になっていた。

 映像の最先端を目指すPremiere Pro CCでは、こうしたVR向け映像の編集にも対応しなければならない。最新版のPremiere Pro CCでは、全天周カメラで生成されたEqui-rectangular(正距円筒図法)形式のVRビデオの編集に対応。同方式の映像をパソコン画面上の長方形のウィンドウに展開してしまうと、どうしても歪みが生じてしまうが、これをVRゴーグルなどでの見る映像に近い歪み補正した形で表示をする機能を搭載した。GPU高速処理に対応したVRフィールドモニター機能も搭載されているが、パソコン上でマウス操作などで好きな方向に視線の先を変えることができる。最終映像の確認に使えるほか、YouTubeへの書き出しにも対応する予定だ(VR映像の書き出しにはメタタグと呼ばれる情報の追加が必要)。また、MettleのSkybox、KolorなどVR編集に役立つ他社製のプラグインもサポートしている。

 iPhoneの画面でもお馴染み、人間の目の解像度を超える「Retina」な体験をVRの全天周で実現するには8Kをはるかに超える映像品質が必要だそうだが、Adobeはそれを見据えた第一歩として、まずは表示と書き出しに対応した。

 Premiere Proで、もう1つ大きいトピックがAdobeのストック素材サービス、Adobe Stockと融合を果たしたことだろう。これまで写真やイラストなどが中心だった、Adobe Stockに新たに4K品質を含む膨大な映像ストックが追加された。これらストック映像は、Premiere Proの編集画面内から簡単に検索し、プレビューして、透かし入りのプレビュー映像を取り込むことができる。

Adobe Stockに4K品質の映像が加わった

 これを使って映像の編集を進め、クライアントの確認が取れたところで、Adobe Stockの映像を正式に購入すると、透かしがとれた映像に差し代わる、というワークフローで、映像制作の手間を劇的に改善してくれそうだ。

 これ以外にもNAB Showの展示ブースでは、さまざまな新種の操作ツールに対応していることや、GPUを使った表示の高速化などの紹介も行われていた。小さな小さな160×100ピクセルの映像を編集するホビーツールとしてスタートしたAdobe Premiereだが、四半世紀を超えた今、新たな映像の世紀を生み出すツールとして大きな進化を遂げているようだ。

このほかAdobeブースでは様々な映像編集用の入力インタフェースも展示されていた
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