LinkedInの買収にあたってMicrosoftのナデラ氏は従業員向けのメッセージを出しており、この全文が同社サイトに公開されている。要約すれば、LinkedInで提供されるソーシャルグラフと、MicrosoftのOffice 365およびDynamicsの業務アプリケーション群を組み合わせることで、よりビジネスユーザーが役立つ情報を提供できるようになるというものだ。
例えば、LinkedInのニュースフィード上に現在ユーザーが関わっているプロジェクトに役立つ情報が(Office 365やDynamics経由で引き出されて)出てきたり、あるいは当該のプロジェクトに必要な人員やリソースをLinkedInで探してきたり、といったことも可能だという。いずれにせよ、両者で若干異なる性質を持つソーシャルグラフが組み合わされることで、より強力なビジネスツールになるというのがナデラ氏の主張だ。
Wall Street Journalの報道によれば、もともとは2016年初頭に両社提携の可能性を探るべくナデラ氏がLinkedIn本社のウェイナー氏を訪問したのがきっかけで、共通のビジョンがあったことから両社の交渉はすぐに合併へと傾いていったという。
筆者は買収の話を聞いた当初、その目的は「Microsoft Graphの強化とSkypeの補強」程度に考えていたのだが、実際にはもう少し深い部分でのソフトウェアの統合が検討されているようだ。
特にOffice 365とDynamics CRM(顧客関係管理)/ERP(企業資源計画)のクラウドをベースとしたアプリケーション・プラットフォームでの機能強化を目指しており、これらツールの情報ソースや連携先としてLinkedInを割り当てていくという。Dynamics ERPにはHRM(人材管理)が含まれているほか、Dynamics CRMにはセールス対象のアタックリストをLinkedInから引き出せるなど、相互運用が可能な部分が多い。
Wall Street Journalが紹介している調査会社Gartnerのコメントによれば、今回の買収で最も影響を受けるのはHRMをクラウドサービスとして提供している「Workday」だという。
Workdayは2005年設立のクラウドサービス企業で、特にHRMをサービスの主力としている。もともとはOracleが2005年に買収したPeopleSoftの創業者であるデビッド・ダフィールド氏と、同社に在籍していたアニール・ブースリ氏が立ち上げた企業であり、PeopleSoft自体がHRMに強みを持っていたという系譜をそのまま引き継いでいる。
WorkdayはERP市場全体の3%程度の市場シェアしかないものの、HRMに強いという特徴と、クラウドサービスという共通点で、Microsoft+LinkedInと直接競合する可能性が高いと指摘されている。提供するアプリケーションの種類が多く、オンプレミスの顧客も多いという点で、WorkdayはOracleやSAPといった大手よりも競争にさらされやすいという。
また、同じクラウドサービス企業のSalesforce.comとの競争も有利になるという見方があるが、一方でMicrosoftとSalesforce.comは2015年9月にさらなる提携強化を打ち出すなど、互いの弱点を補完するパートナーでもある。Microsoftにとっては「クラウド事業への本気」を示したことが、今回の提携の背景にあったのかもしれない。
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