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ソフトバンクのARM買収は正しい選択か?本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/3 ページ)

» 2016年07月20日 14時30分 公開
[本田雅一ITmedia]
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方向性は正しくとも、買収戦略が正しいわけではない?

 ソフトバンクグループによるARM買収の話を聞いて真っ先に思い付いたのは、1996年にまだ小さかったソフトバンクが米Kingston Technologyというメモリモジュールメーカーを買収したときの話だ(1999年にソフトバンクはKingston株を売却した)。

 このときもたっぷりと株価にプレミアムを乗せて買収した。創業者オーナーは全社員に向けて歓びのメッセージとともに(買収で得た巨額の利益を分配するため)、ボーナスを全社員に支給するとメールしたことがニュースになったほどだ。

 筆者がこのときのことを思い出した理由は、「方向性は正しくとも、買収戦略が正しいわけではない」という典型的な事例だったからだ。孫氏は質の高い情報源との連絡網の中で、適切な投資先を見つけてきたが、今回は狙いすぎて失敗ではないかと思えるのだ。

 Kingstonという企業は日本ではマイナーだったが、PCやプリンタの増設メモリでは最大手の1社だった。一方、コンピューティング技術の進歩は要求メモリ量の増加を促し、当時のDRAM(メモリの一種)売り上げは上昇の一途をたどっていた。

 当時、Kingstonの買収を進めた役員と話をしたことがあったが、半導体生産という意味でのメモリ事業のトレンドと、B2C、B2Bに限らずメモリモジュールの販売トレンドとは同じではないということが、いまひとつ理解されていない印象を受けた。

 メモリモジュールのビジネスは、今は完全に下火になってしまったが、デスクトップPCが主流でプリンタにも増設メモリが用意されていた当時、必要なメモリ容量の急増からニーズ拡大が見込まれていた。実際、1995年ぐらいは16MBのメモリ容量がぜいたくと言われていたのに対して、2016年現在は16GB(すなわち1024倍)のメモリ容量でも普通とされている。孫氏の見立ては正しかったことになる。

 孫氏は、業界のメガトレンドを読みながら次の事業を模索するのが得意な人物だ。ブロードバンドインターネットの時代を加速させつつ、電子商取引やネットメディアの企業に投資を行った。そうした時代の流れを読むのは得意だが、ディテールに関してはよく知っている部分と、情報が不足している領域が明確に分かれているように思う。

 まだソフトバンクが小さかった頃と比較するのはアンフェアかもしれないが、業界トレンドに近そうでいて、全く異なる立ち位置のKingstonを買収したときと同じように、今回も「投資先分野の選択は正しい」と言える。

 今後、世の中にあるさまざまなものがインターネットに直接的、間接的につながっていくだろう。爆発的にIoT関連商品や技術は伸びていくはずだ。孫氏が話すように「将来、振り返ると安いと言える買い物」になるだろう、IoT関連企業はいくつもあるはずだ。

 しかし、その投資先としてARMが本当に正しいのか。孫氏は、直観的に将来のビジョンが見えているのかもしれないが、そこには決して小さくはない疑問符が残る。ARMは成長を続けるだろう。しかし、3兆円を超える投資に見合う成果を引き出せるかどうか、確実なビジョンは恐らくない。

 そんな中にあって、ソフトバンクグループは次世代に向けて、大きな賭けに打って出た。OSというコミュニケーションの核となるプラットフォームを持たないソフトバンクグループが勝つシナリオを、果たして孫氏は持っているのだろうか。



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