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今のPC市場で「匠の技」は本当に必要か 富士通の島根工場を訪ねて本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/2 ページ)

» 2017年03月29日 06時00分 公開
[本田雅一ITmedia]
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生産技術にどのような付加価値を見いだすか

 しかし、ここまで書いておきながら……ではあるが、「組み立て」すなわち生産技術に回答を求めることも、正解の一つではないか、と取材を通じて感じている。生産技術に依存しないPC生産を追い求め、高付加価値モデルを含めて海外生産化を推し進めても、LenovoやHP、Dellに太刀打ちできるわけではない。

 「組み立てスキルの高さ」を生かした事業の組み立て方があるのだとしたら、そこには挑戦すべきだろう。FCCL代表取締役社長の齋藤邦彰氏は「顧客に対してピッタリの製品を作ることに関しては、他社に負けない自負がある。1台ごとに異なる仕様、モデルのPCを効率を落とさず生産できるため、顧客が求める納期短縮と多様性を両立可能だ。開発から生産、サポートまで、完全に国内で完結できることが匠の価値を生み出している」と話した。

FCCL 11 FCCL代表取締役社長の齋藤邦彰氏

 筆者はこうしたFCCLの発信に対して100%賛同できるわけではない。しかし、一方で「組み立て」に付加価値を見いだす手段があるならば、そこは一つ目指すべき目標なのだとも思う。

 ここで再びビジュアル機器業界の事例を挙げたい。

 ソニーはさまざまなディスプレイ技術に対する投資を行ってきたが、その大多数を放棄した。業務用マスターモニターに使われているOLEDパネルは自社技術の結晶だが、テレビ向けは前述したようにLG Display製を購入している。しかし、一つだけ残している技術がある。それがCLED(Crystal LED)ディスプレイ技術を元にした「CLEDIS」というブランドだ。

 CLEDISはRGB個々の発光特性を持つ発光ダイオードを基板上に整列させる技術を用いたディスプレイで、色再現域、ダイナミックレンジ、コントラスト、動画応答性など、あらゆる面で極めて優れた特性を持っている。ただし、画素密度を向上させることが困難で、現在は業務用の大画面ディスプレイを構築する際に使われる特殊なディスプレイだ。

 ソニーがこの技術だけを残した理由は、CLEDISが物理的な組み立て工程に独自性があるからである。液晶やOLEDなどは、単一の生産プロセスをより大きなガラス基板に施すことで生産性を高められる。言い換えると、将来的には生産投資規模の競争になっていく。

 しかし、CLEDISのように物理的な部品整列と組み立てが生産性向上のボトルネックの場合は、そう簡単にはいかない。常に生産技術に挑戦し、実際の商品を出荷しているメーカーに分があり、投資規模を増やしたからと言って追い付けるものではない。

 ジャンルは異なるが、FCCLが目指すとしたならば、やはり「少量・多品種の組み立て」を効率的に行えるという部分を生かし、商品力へと転換できる製品を企画・生み出していくことだ。富士通は超軽量モバイルノートPCを発売するなど気を吐いているが、それだけではNECパーソナルコンピュータがフィーチャーする米沢工場のケースをなぞっているにすぎない。FCCLが組み立てることで、どのような商品価値の向上が得られるのか。

FCCL 12 超軽量のモバイルノートPC「FMV LIFEBOOK UH75/B1」

 企業向けには多数の答えを用意しているように見受けられるが、果たしてコンシューマー向けにどんな答えが出されるのか。次回、出雲を訪れる際には、明確な答えが用意されていることを期待したい。

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