さて、本製品の売りの1つに、2台のPCを一組のマウス・キーボードで操作できる同社の独自技術「FLOW」への対応が挙げられる。読者諸氏の中にはすでに「FLOW」対応のマウスを使っている人もいるはずなので、今回は既存の「FLOW」環境に本製品を組み込む手順を紹介しよう。
手順そのものはとくに特殊でもなく、難しいわけでもない。前述の手順で、2台目の入力デバイスとなる本製品を「Logicool Option」に追加で認識させたのち、「FLOW」タブから有効化するだけだ。すでに「FLOW」の設定が完了しているもう1つのデバイスが自動的に検出されるので、あとはウィンドウの配置を決定するだけで、ポインタが両方の画面をまたいで移動できるようになる。
「FLOW」そのものの使い勝手についてはすでに過去の記事で触れられているので割愛するが、ポインタが画面の端まで到達した時点で、ペアリング先がもう一方のPCへと自動的に切り替えることにより、擬似的に画面をまたいでポインタが移動したように見せるというのが基本的な仕組みだ。
ペアリング先が切り替わる際にほんのわずかなタイムラグがあり、このタイムラグはポインタを高速に動かしている時ほど感じやすいため、マルチディスプレイやWindowsのリモートデスクトップ接続のようなシームレスさはないが、WindowsとMacという異なるOS間でも移動が可能なほか、ファイルのコピーまで行えるのは、これらと比べた場合の大きな利点だろう。
面白いのは、この「FLOW」の設定は、ボタンの割当やポインタ速度と同様、マウスやトラックボールごとに設定できることだ。例えば2台のPC(仮にA、Bとする)があった場合、マウスはAB間を相互に行き来できるが、本製品はAだけしか使用できない、といった設定ができる。またあまりニーズはないだろうが、画面の並び順を逆転させ、マウスはAB、トラックボールはBAの順にするというトリッキーな設定も可能だ。
トラックボールはマウスに比べて合う合わないが激しい製品であり、合わない製品ともなると使い始めて1日も経たずにギブアップすることも少なくない。しかし今回の「ERGO」は、筆者は使い始めて1週間になるが、これまでのところ、そうした気配は一切ない。
筆者はいまのところ、緻密な操作はマウスを、ブラウジングなどダイナミックな動きをする場合は本製品を使っているが、低品質のトラックボールによくみられる、クリックしたりボールから指を離した瞬間にポインタがあらぬ方向に動くなどの症状とは無縁だ。写真や動画の編集まで行くと難しいかもしれないが、ブラウジングや事務作業が中心であれば、マウスを完全にリプレースすることも十分に可能だと感じる。マウスを排してデスク上のスペースを節約したい人にも最適だろう。
価格は税別1万2880円と、前モデルにあたるM570(6630円)の2倍近く、安い買い物とは言い難い。もとよりこの種の入力機器の価値を理解できるユーザー向けに作られた製品であることは明白で、価格に見合うだけの満足感は得られるというのが筆者の評価だ。
評価は以上なのだが、今後のロジクール製入力デバイスに望むのは、これだと決めたら決めたでボタン配置を継続してほしいということ。筆者は3カ月ほど前に「MX Anywhere 2S」で久しぶりにロジクール製品に戻ってきたクチなのだが、しばらく離れていた理由は、同社の入力デバイスは新製品が出るたびにボタンの配置がガラリと変わってしまうからだ。
同社のマウスは、モデルチェンジすると以前のモデルにあったボタンがなくなっていたり、以前の指では押せない位置に移動していたり、ということがよくある。ハイエンドなモデルほどそれは顕著で、せっかくの慣れが乗り換えによってリセットされてしまう。それならば他社に乗り換えても条件は同じということで、しばらく他社製品を試していたというわけだ。
今回の「ERGO」のボタン配置は従来モデル「M570」とほぼ共通なので、理にかなっていると言えばそうなのだが、トラックボールの場合はもう少し事情が複雑だ。というのは、トラックボールはマウスと併用することが多いため、似たような握り心地でありながらマウスとのボタン配置が極端に違うと、操作ミスを起こしやすいからだ。
例えば、筆者が使用中のマウス「MX Anywhere 2S」と今回の「ERGO」を比較した場合、「MX Anywhere 2S」はホイール手前に割当可能なボタンがあるのに対して本製品はボタンがなく(正確には接続先を切り替えるボタンはあるが、何らかの操作を割り当てることはできない)、それゆえ両製品を併用すると、「MX Anywhere 2S」でホイール手前ボタンに割り当てていた機能は、まったく別の位置にあるボタンに割り当てざるを得ない。
このほか、戻る/進むに割り当てられているボタンが、前者では親指、後者では人差し指で操作するレイアウトだったりと、同じ操作性では使えない。たとえマウスとトラックボールという別の製品であっても、操作性はある程度は共通化し、モデルチェンジしてもそれを踏襲してほしいというのが筆者の願いだ。そうした意味で今回の「ERGO」は、単体で見た場合は非の打ち所がないものの、マウスと併用するか否か、併用する場合はどのマウスを使うのかといった外的要因で、評価が変わる余地はありそうだ。
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