ボディーの設計は、2017年秋モデルを継承している。CPUがクアッドコアの第8世代Core(Kaby Lake R)となり、それに合わせて、メモリの転送速度も1866MT/sから2133MT/sへと高速化した(多くのメーカーはメモリ速度を「クロック」、単位を「MHz」と表記するが、DDR SDRAMではクロックの2倍で転送しているため、本来はこのように「転送速度」で単位を「MT/s」と記載するのが正しい)。
今回の評価機のスペックは別掲にまとめた。CPUは第8世代Coreの中でも上位のCore i7-8550U(1.8GHz、最大4.0GHz)で、メモリは16GB(LPDDR3 SDRAM)、ストレージは512GBの「第三世代ハイスピードプロSSD(NVMe、MLC)」、OSは64bit版のWindows 10 Proだ。
SSDはデバイスマネージャーで見た型番からすると、SamsungのSM961(MZVKW512HMJP-00000)のようだ。MLCの3D NANDフラッシュを搭載したモデルで、現行のM.2 SSDとしては最速クラスのスペックを持つ製品だ。
2018年3月8日現在、この構成でVAIO S11、S13とも直販価格は25万4800円(税別、以下同)となる(プロセッサやメモリなどの期間限定キャンペーン適用の価格)。評価機はハイスペックな構成なので当然ながら値が張るが、メモリ8GB、SSD 256GB、Windows 10 Homeの最小構成ならば直販価格は18万9800円だ。
なお、VAIO S11・S13は下り最大450Mbps、上り最大50Mbpsに対応したSIMロックフリーLTE(最大通信速度は接続する通信事業者や環境によって異なる)を内蔵できることも特徴の1つだが、これは2017年秋モデルと同様なので評価を割愛する。
第8世代Core(Kaby Lake R)は、従来の薄型軽量〜標準ノートPC向けと同じTDP(熱設計電力)が15WのCPUでありながら、コアを従来の2倍に増やし、クアッドコアCPUとなっていることが大きな特徴だ。これまでは大柄なノートPCかデスクトップPCでしか得られなかったクアッドコアのパワーが1kgクラスのモバイルノートPCに解禁されたことになる。
もっとも、そのポテンシャルをどこまで発揮できるかは、放熱設計次第のところがある。IntelのCPUは「Turbo Boost Technology 2.0」(以下TB 2.0)により、CPU負荷や電力、放熱状態によってCPUの周波数を最適に調整するため、放熱設計が大きなカギとなるのだ。
VAIO S11・S13のリフレッシュモデルでは、放熱設計を十分に確保した上、第8世代Coreのパフォーマンスをさらに引き出すために「VAIO TruePerformance」というVAIOの独自技術を導入している。
具体的には、電源供給能力の強化、TB 2.0におけるパッケージパワーリミット値の調整、ヒートパイプの熱輸送能力33%向上、放熱フィンの熱交換率10%向上、ファン回転数テーブルの最適化といったことを行ったという。
このうち「TB 2.0におけるパッケージパワーリミットの調整」については説明が必要だろう。TB 2.0のパッケージパワーリミットには、PL1(Power Limit 1)とPL2(Power Limit 2)の2種類があり、電力値で設定されている。基本リミットはPL1で、PL1を超えてもごく短時間は、PL2の電力を上限として動作することが許容されている。
基本的にPL1にはTDPが使われる。11〜13型クラスのノートPCにおける前世代までの例でいえば、PL1はTDPである15Wが標準で、PL2は25Wの製品が多かったように思うが、今世代からはクアッドコア化に伴い、PL1、PL2ともに柔軟に設定されているようだ。
VAIO S11・S13のリフレッシュモデルでは、基本リミットであるPL1を標準より引き上げることで持続的に発揮できるパフォーマンスの向上を図っている。放熱能力や電源供給能力が十分であれば、CPUに対する負荷が強い処理、長時間の処理ほど効果的に作用すると予想される。
PL1、PL2はあくまでも電力値の上限だ。これがなぜパフォーマンスの向上となるのかについては、TB 2.0の仕組みが関係している。
TB 2.0では、PLの他に周波数リミット、温度リミットもあり、いずれのリミットも超えないように動作する。PL値の引き上げが性能に直結するのは、PLと周波数のリミットがアンバランスだからだ。
例えば、Core i7-8550Uの周波数リミットは4.0GHzにも上る一方で、TDP(PL1の標準)は15ワットと低い。一般的なノートPCでは、そこまでいく前にPLや放熱の限界が先に来てしまう。実際には4.0GHzの最大周波数で動作する時間は短く、それよりずっと低い周波数で動作していることがほとんどなのだ。
逆にいうと、PLを上げれば「より高い周波数で動作できる=性能が上がる」ことになる。十分な放熱性能と電源供給能力があることを前提とすれば、PLの設定が性能に直結するわけだ。
ただし、これは周波数のパラメータを直接的に操作するオーバークロック(OC)とは決定的に異なる。VAIO TruePerformance有効時のCPUは、結果として標準的なノートPCよりも高い周波数で動作することになるが、あくまでもIntelが定めた周波数リミットの範囲内であり、かつ放熱能力に応じた安全な範囲内での動作だ。
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