もうひとつ水菜さんがさまざまな方の協力を得て完成させた、「異世界酒場」という飲み屋のワールドについても話を聞いた。
リアルでお酒やつまみを用意し、VRゴーグルをかぶって飲みながら談笑するという体験で、現実空間の居酒屋のようにあちこちから笑い声や話し声が聞こえてくるとか。VRChat内で飲み物を飲んでいるように見せかけるために、わざわざグラスなどと一緒にモーションコントローラーを掴んで口に運んでいる人もいる。
ときにはロールプレイもする。「異世界酒場」という名前の通り、みんな異世界からやってきたという設定で、水菜さんがマスターとなってもてなす。「VRChatの中で起こったことを共有したり、ときには現実の愚痴を聞いたりもします。最高のおままごとですよね。中毒性があるのでみんなでやってしまう」と水菜さん。
筆者も以前、VRChatの日本人コミュニティーの新年会に参加したことがあったが、バーチャル内で歌い出したり、その歌っている人を盛り上げたりとみんなで盛り上がっている感が伝わってきて、あの飲み会ならではの楽しさを実感した。
こうした飲み屋やイベントは、VRChatの横のつながりを強くする効果を生んでいる。
人が増えれば、グループに分かれてしまうのが社会の常で、VRChatでも運営が用意したわけではないのに、「KAWAII FORCE」や「BananaSquad」、「Future Divers」といったグループが生まれている(VRChat Wikiを参照)。
「もともとグループは外国人がやっていて、日本人はそれを真似て始めた。グループに入ると、自分のアバターに腕章のCGを貼ることができて所属をアピールできる」(水菜氏)
そうしたグループができてしまうと、どうしてもみんな自分たちのワールドにこもりがちになってしまう。その壁を越えるために、水菜氏が居酒屋をやったり、しめじさんがバトルディスクというスポーツ大会を企画。集まった人たちがそこで盛り上がって、グループの垣根を越えるつながりを生んでいる。
水菜氏は、企画者を集めたグループチャット(Discord)も運営していて、そこでVR内イベントのノウハウをシェアしている。そして今、考えているのは新人のためのツアーだ。
「VRChatは、アバターやワールドのカスタマイズ、そして人との交流という3つが楽しさ。『何をすればいいのかわからない』という初心者のために、さまざまなワールドを案内して遊びかたを伝えたい」
自分たちが好きなVRChatを、どうやったら他の人にわかってもらえるか──。今までのSNSなどでも見られたユーザーが主体的に協力してくれる現象が、VRChatでも巻き起こっているのだ。
(TEXT by Minoru Hirota)
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