これからベンチマークテストで性能をチェックしていこう。今回のテストでは、Core i7-8700KとZ370チップセットの環境を利用し、比較対象には上位のSamsung SSD 860 EVOの4TBモデルを用意した。OSはWindows 10 Pro 64bit(1803)だ。
まずは、ひよひよ氏制作の定番ベンチマークテスト「CrystalDiskMark 6.0.2」で基本性能を見よう。テストデータのサイズは1GiBと32GiBも実行した。データタイプは標準のRandomを利用している。
シーケンシャルリードとシーケンシャルライトの速度は、公称値を上回る数値で、ランダム4KBのスコアもSerial ATAインタフェースのSSDとしては標準クラスといえる。
ランダム性能では、スペックの通り4KBリードで860 EVOに比べて少し見劣る。それでも、現行のTLCの廉価版モデルと同等、またはそれよりは上くらいだ。
テストサイズを32GiBと大きくした場合でもシーケンシャル性能は特に変化なし。ランダムでは4KBリードで少しスコアを落としているが、あまり気にしなくてもよいだろう。
HD Tune Pro 5.70のTransfer Benchmarkを使い、テストサイズ100GBで転送速度の推移を見た。まずはオレンジ色のシーケンシャルライトのグラフに注目。860 EVOの方は、転送容量がIntelligent TurboWriteのSLCバッファー容量(78GB)を超えた当たりで転送速度が急落し、160MB/s前後まで落ち込んでいる。これはまさにIntelligent TurboWriteの仕様通りの挙動が確認できる。
一方、860 EVOの方は78GBを過ぎてもわずかな波ができる程度で最後までほとんど性能は変わっていない。この78GBあたりからの転送速度が、NANDフラッシュメモリの素の性能であり、TLCとQLCの差が如実に出ている。
また、4KB ランダムアクセス(4KB Random Single)のスコアも公称値に近い数値が出ており、860 EVOの方が860 QVOよりも良いことが分かる。なお、860 EVOのランダムのマルチ性能はエラーでスコアが出なかった。
FINAL FANTASY XIV:紅蓮のリベレーターベンチマークテストのローディングタイムを計測した。860 EVOと比べると少し見劣るものの、Serial ATAインタフェースのSSDとしてはまずまずのスコアといえる。
ファイルコピー(書き込み)時間を比較した。コピーに利用したのはSteamのゲームフォルダで、54GB、96GB、150GBの3種類を比較した。Intelligent TurboWriteのSLCバッファー容量が最大78GBなので、860 QVOではそれを超えるデータの書き込みが遅くなるのは当然だが、実際の時間感覚をつかむためにあえて実施している。
ご覧のように、データが54GBの場合は860 EVOと同等。データのサイズがSLCバッファーを超えるとその時点から急に転送速度が落ちて時間がかかる。データサイズが150GBにもなると860 EVOの2倍以上の時間がかかっている。
低コストで大容量のQLC SSDは大容量データの保存用途として活用する場合が多いと考え、全容量の半分弱消費した状態(1.7TB使用、空き1.93TBの状態)でファイルコピーテストを行ってみた。すると、860 QVOは転送の序盤から早々に転送速度が落ち込み、データがない状態でテストした時の3倍近い時間がかかってしまった。
続いてHD Tune Pro 5.70のTransferBenchmarkを実行した。すると、シーケンシャルリードでは変わらないが、シーケンシャルライトではちょうどIntelligent TurboWriteの固定バッファー容量の6GBを過ぎたあたりで転送速度が150MB/s強まで落ちてしまった。
空き容量を減らしたといってもまだ1.9TB以上の空きがあり、SLCバッファーに使える容量は十分あるはずなのに、この結果からは、SLCバッファーは固定容量の6GBしか使えていない。つまり、インテリジェントに確保されるはずの可変SLCバッファーが機能していない。
当初は使用容量の問題かと思っていたのだが、500GB程度しか書き込みをしていない状況でも同じようなことが起きた。Trimを実行したり、30分以上時間を空けて試してみても結果は変わらなかった。何が原因で起きているのかは分からないが、少なくとも「空き容量が十分にある場合でも使用状況によって、可変SLCバッファーが適切に確保されないことがある」ということは確実にいえる。
実は、似たような状況は本製品だけでなく、同じQLC NANDフラッシュメモリを搭載するIntelの660pやCrucial P1でも経験したことがある。バッファーからのデータ退避時間を意識して時間を空けてテストしたつもりなのだが、QLC NANDフラッシュメモリの素の性能があまりにも遅すぎて、SLCバッファーを埋めた状態で長く使う(=バッファーを大きく超える大容量データのコピーを行う)とバッファーが再使用できるまでに相当なインターバルが必要なのかもしれない。ファームウェアなどで改善できそうな部分でもあるので、今後に期待したい。
QLC NANDフラッシュメモリ搭載SSDについては、耐久性が課題として挙げられることが多いが、筆者としては最も懸念すべきは書き込み性能だと感じている。
QLC NANDフラッシュの素の書き込み性能はTLC NANDよりも格段に低い。本製品のシーケンシャルライト160MB/sというのはQLC NANDとしては良い方だが、それでもHDD並でしかない。大容量のDRAMキャッシュとIntelligent TurboWriteSLCバッファーである程度フォローしてはいるが、このSLCバッファーも可変領域に関しては常時効くわけではない。「大容量データの書き込み性能はHDD並」だと思っておいた方が良さそうだ。
最もシーケンシャルリードは状況にかかわらず高速だし、4GB(4TBモデルの場合)の大容量DRAMキャッシュに加えて、SLCバッファーにしても最低でも6GBは固定で確保されている。そのため、Windowsの基本操作レベルでは問題ないし、大容量ファイルを扱う場合でも読み出し中心の処理であれば、空き容量にかかわらずHDDに比べて格段に快適に使えるのは間違いない。
「大容量の書き込み性能はHDD並」ということを認識した上で割り切れるならば、価格次第で選択肢に入れてもよいが、現時点で公表されている価格ではまだ手放しではお勧めしにくいというのが本音だ。さらなる低価格化と大容量化に期待したい。
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