2018年のパーソナルコンピューティング動向を冷静に振り返る本田雅一のクロスオーバーデジタル(5/5 ページ)

» 2018年12月28日 07時30分 公開
[本田雅一ITmedia]
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パソコンよ、どこへ

 ところで、こうした進化の方向からは蚊帳の外になっているように思えるのがパソコンだ。この1年でスマートフォンやタブレットがニューラルネットワーク処理能力を大幅に強化していったが、パソコンにそうした新しい動きはない。

 しかし実はパソコンに関して、そんなに(少なくとも当面は)心配することはないとみている。将来的にエッジAIの応用範囲がもっと広がっていけば別だろうが、現状のパソコンではGPUがその代替になっていくと考えられるからだ。

 例えば、昨年Appleが「iPhone X」に搭載した「A11 Bionic」のNeural Engineは600GOPS(毎秒6000億回の演算)で、Huaweiの「Kirin 960」も同程度だった。今年の「Kirin 970」は3倍以上となる毎秒1億9200億回の演算が可能となり、AppleのA12 Bionicは毎秒5兆回の演算を可能にした上、同規模の演算ならば10分の1の消費電力で済むようになっている。

 ただ、こうした演算能力や処理効率の高さを生かしたアプリケーションが主流になるには、しばらく時間がかかるだろう。

 一方でGPUの演算器を用いてニューラルネットワーク処理を行わせる試みはあり、実際、パソコンで深層学習などを行う際にはGPUが使われる。

 ニューラルネットワーク処理専用プロセッサの歴史は始まったばかりで、これからが本番と考えるならば、将来的にはパソコン向けのニューラルネットワーク処理専用ボードなどが生まれたり、あるいは内蔵ニューラルプロセッサがIntel Coreに統合されたりするときが来るかもしれないが、いずれにしろずっと先のことだろう。

 業務をはじめとした道具としてのパソコン、あるいは高性能な開発者向け、クリエイター向けのパソコンといった地位は、今後も大きくは変化せず、揺らぎもしないと思う。

 一方、今年Appleが投入した新しい「iPad Pro」のような、特定の利用シーンを想定した「ポストPC的なモバイルデバイス」は、既存のモバイルPCを置き換えるようになるかもしれない。

 もちろん、現在のiPad Proがそれを達成できているとはいわない。新しいiPad Proは極めて処理能力の高いプロセッサを搭載し、恐ろしく美しいディスプレイと薄い筐体、長時間駆動のバッテリーを備えているが、パソコンとは得意分野が異なる。

iPad Pro iPadの誕生以来、最も大きな更新となった新しい「iPad Pro」

 しかし、幾つかの大きな改良を加えることができれば、モバイルPCが必要な場面はグッと減るかもしれない。その辺りの話は、来年の予想についてのコラムで書いてみることにしたい。

AppleがNeural Engineに力を入れるもう一つの理由

 最後にもう一つ。ニューラルネットワーク処理をエッジで効率よく行う能力を備えたとき、大抵は写真管理やカメラ画質を向上させるため、その機能を用いる。推論エンジンを使って適応的な処理を行うことで、カメラ画質を向上できるからだ。

 先日β版が配信され始めたiPad向け画像編集アプリの「Pixelmator Photo for iPad」は、カラー、露出、ディテール、ホワイトバランスなど、多様な写真の要素についてニューラルネットワーク処理を用いて自動最適化を行う機能が実装されている。

iPad Pro β版が配信された画像編集アプリの「Pixelmator Photo for iPad」

 実際に使ってみると、確かに極めて優秀で、まるでプロのアシスタントがいるようだ。複雑な現像設定を自動的に行ってくれるので、後は好みに応じて微調整したり、自動設定するジャンルを選んだりすればいい。

 とても便利な機能だが、これぐらいならば、専用のプロセッサがなくとも実装は可能だろう。少なくとも、(Neural Engineがない)Macで動かすmacOS用アプリの「Pixelmator」に搭載されても不思議には思わない。

 しかし、来年、再来年と考えたとき、Appleはもっと攻めた使い方ができるのではないだろうか。というのも、Appleは端末、SoC、OSの全てを開発するメーカーだからだ。対応アプリは旧世代を含め、複数世代の端末にまたがって有益な機能を提供する必要があるが、OSに組み込まれた機能を新しいSoCに最適化できれば、端末メーカーであるAppleは「新端末の機能」として訴求できる。

 Androidでもニューラルネットワーク処理のためのAPIが定義され、異なるアーキテクチャのニューラルネットワーク処理専用プロセッサを使えるようになっているが、特定端末向けにOSレベルから機能を作り込むハードルは高い。モバイル用SoC最大手であるQualcommの動向を含め、どのようにこのジャンルでGoogleがイニシアチブを取っていくのだろうか。2019年はその辺りも興味深いテーマになりそうだ。

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