「Appleのやり方はフェアじゃない」 音楽ストリーミング大手Spotifyの主張と反論ITはみ出しコラム

» 2019年03月17日 06時00分 公開
[佐藤由紀子ITmedia]

 音楽ストリーミングサービスのSpotifyが欧州連合(EU)に、「Appleが“ずるい”のでしかって」と言いつけました。EUの執行機関である欧州委員会に対し、米Appleによる競合ストリーミングサービスの締め出し行為を調査するよう申し立てたのです。

 Appleが「iPhone」とiPhoneのためのアプリストア「App Store」を持つ“プラットフォーマー”としての力を使って、「Apple Music」のライバルであるSpotifyを不当に扱っていると訴えています。Spotifyは欧州連合加盟国、スウェーデンの企業です。

 Spotifyは、この申し立てを世間に発表するに当たって、これまでいかにAppleがSpotifyをいじめてきたかを説明する特設サイトまで公開しました。タイトルは「Time to Play Fair」(フェアにやる時が来た)。

 「競争がフェアであれば、消費者と企業の両方が勝利する」というメッセージを、音楽を愛する善良そうで、ちょっと気弱そうな青年(顔が緑なのは緑がSpotifyのコーポレートカラーだからでしょう)が掲げています。

Time to Play Fair Time to Play Fair

 Spotifyがアニメ動画にまとめた言い分の概要はこうです。

 「Spotifyは音楽が大好きなみんなにいろんな端末で音楽を聴いてほしいんだ。音楽好きなみんながAppleのプラットフォームのことを大好きなことも知ってる。だけど、Appleがみんなとみんなが音楽を聴くために愛用しているものの間に割り込むのは嫌だ」

 「君がもっと自由に音楽が聴きたくなって、Spotifyの無料プランから有料のプレミアムプランにアップグレードしたくなったとしよう。それをiOSアプリ経由でやろうとすると、Appleがサブスク料(サブスクリプション料金)の30%もピンハネするんだ」

Apple ピンハネするAppleの図

 「Appleは僕たちが料金を据え置いたままこの税金を払えないことを知っていてそうしている。だから、僕たちはAppleの支払いシステムを通さずにサブスク料をもらうことにした。でも、Appleはそれを許してくれない。なぜならAppleはApp Storeのオーナーであるだけでなく、Spotifyのライバル(Apple Music)のオーナーでもあるからだ」

App Store App Storeというコートで戦うSpotifyとApple Music。その審判はAppleなのでApple Musicをえこひいきする、の図

 「Appleは頻繁にApp Storeのルールを変えることで、僕たちがみんなに便利なサービスを提供しにくくしている。例えば、プレミアムにアップグレードしてくれたら3カ月は安くするよ、とアプリ内で告知することも禁じるようになった。あと、AppleはSiriでSpotifyを起動させてくれない。もちろん、Apple Musicは特別扱いだ」

 「Appleはプラットフォーマーとしての力で不公平なフィールドを作っちゃいけない。フェアにやれば、みんなも僕たちも得をするんだから」

 なかなかよくできた、分かりやすい動画です。

 これに加え、2007年にiPhoneが登場してから今日までの、AppleとSpotifyの関係を時系列に紹介した年表ページも公開しました。この年表を見ると、30%のApple税をはじめとするAppleの行為が、Spotifyの努力を台無しにしてきたような気がしてしまいます。

 でも、Appleが30%のアプリ税を徴収するのはSpotifyからだけでなく、App Storeで有料(アプリ内決済を含む)アプリを登録している全てのアプリ開発者からです。30%が多いかどうかの議論もありますが、これは別にApple MusicをSpotifyより有利にするための作戦ではありません。

 そもそも、Spotifyはまるで自分を巨人ゴリアテに挑むダビデのように表現していますが、こと音楽ストリーミングサービス市場に限ればSpotifyがゴリアテで、ダビデはAppleの方です。Spotifyが2月に発表したMAUは2億700万人で、有料会員数は9600万人。一方、Appleが1月に発表したApple Musicの加入者数は約5000万人です。

 Spotifyの発表を受けてAppleはどう出るかなーと待つこと2日、Appleは3月15日にSpotifyの言い分に対する公式コメントを発表しました。かなり長いもので、Spotifyの主張に逐一反論しています。

Apple Appleの反論

 こちらもまずは「Appleが音楽を愛していること」を強調。そして、「App Storeのおかげでサードパーティーとユーザーがどんなに恩恵を受けているか」も強調しています。

 「私たちは、自分と競合するアプリも含め、アプリビジネス全体を盛り上げていきたいと思っている。そうすることが、市場全体を成長させることになるので。しかし、Spotifyの主張は私たちとは非常に異なる」

 Appleの長い主張の全てをここで紹介するわけにもいかないので、面白いところだけ少しピックアップします。

 「Spotifyが自分のもうけのために、巧みな表現でAppleを誤解させようとするのを見過ごすわけにはいかない」

 「AppleがSpotifyが申請してきたSpotifyアプリの200回近いアップデートをその都度承認してきたからこそ、SpotifyアプリはApp Storeから3億本もダウンロードされた。Spotifyにアップデートを修正するよう要求したのは、Spotifyが他の開発者が皆従っているルールから逸脱しようとしたときだけだ」

 「AppleはSpotifyのアプリをユーザーが使うためのプラットフォームを提供している。アプリを開発するツールも提供している。構築するのが大変な、安全な決済システムも提供している。Spotifyは(一銭も払わずに)自分のもうけを100%維持しながら、これらの恩恵を受けたいと主張している」

 「SpotifyはApp Storeのエコシステムがなければここまで成長できなかったのに、未来のSpotifyのような開発者のためにエコシステムの維持に貢献しようとしない。それは間違っている」

 こちらもなかなか説得力があります。うそもありません。

 でも、ちょっと不自然なところが幾つかあります。まず、「Apple Music」という単語が1度も出てきません。「自分と競合するアプリを含め」という表現はありますが、全体的に「プラットフォーマーとしてSpotifyを他のアプリと同等に扱っているよ」というスタンスです。

Apple Music Apple Music

 それから、Spotifyの今回の申し立てとは全く関係ない「Spotifyは米著作権使用料委員会がSpotifyに音楽使用料の支払いを増やすよう要求した後、音楽制作者を訴えた」という段落を入れているところです。「これは間違っているだけでなく、音楽業界にとっての有害な一歩後退だ」と言ってます。

 まるで、「Spotifyは音楽の敵だ」「Appleは音楽の味方だけど」と言っているようです。

 何だか両方が、印象操作の腕を競っているようにみえます。同じことを、利益が対立する両方が自分の都合のいいように説明すると、こうも違うのかと感心してしまいます。

 Appleの反論は、ユーザーには届くかもしれませんが、EUはどう受け取るでしょう。EUはこれまで、独禁法関連ではAppleにはあまり制裁を加えていません。でも「プラットフォーマー」問題では態度が違うかもしれません。

 余談ですが、問題はEUだけではありません。Appleに対しては、米大統領選に名乗りを上げた民主党のエリザベス・ウォーレン議員もApp Storeの分離を主張しています。

 EUへの申し立てについての調査やその結論が出るのはしばらく先になります。さて、どうなることやら。

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