富士通クライアントコンピューティングがエッジコンピューティングへの取り組みを紹介 「Infini-Brain」試作機を披露

» 2019年11月22日 06時00分 公開
[井上翔ITmedia]

 富士通クライアントコンピューティング(FCCL)は11月20日、子会社でノートPCの主力生産工場である島根富士通(島根県出雲市)において、報道関係者を対象とする工場見学会を開催した。

 見学会では、FCCLの将来を見越した取り組みの1つとして、エッジコンピューティングを実現しつつクラウドとも連携できる「ICCP(Inter-connected computing platform)」構想と、それを実現するための試作マシン「MIB」「Infini-Brain(インフィニブレイン)」が紹介された。

ICCP概略図 ICCPの概略図

ICCPは「エッジコンピューティング用プラットフォーム」

仁川進 ICCPについて説明するFCCLの仁川進常務

 昨今、ネットワークにつながる機器が増えてきた。また、機械学習やディープラーニングを中心にAI(人工知能)を利活用するサービスも増加傾向にある。

 現在、これらの機器やサービスにおけるデータは、インターネット上にあるクラウドサーバとやりとりされることが多い。しかし、その情報量が多くなると通信速度が遅くなったり処理速度が低下したりして、ユーザーの利便性が低下する可能性がある。セキュリティ上のリスクも、ローカルに閉じ込めた時よりも高くなる。

AI動向とトラフィック AIに関連する市場は盛り上がりを見せ、インターネットのデータトラフィック(情報量)も、特にモバイル通信で増加傾向にある
トラフィック集中の図 全てのデバイスが同一のクラウドサーバに接続すると、トラフィックの集中で利便性が低下する可能性がある

 「インターネットに出ないようにしよう」ということであれば、クライアント端末から近い場所でコンテンツの配信やデータの処理を行う、いわゆる「エッジコンピューティング」環境を構築することを考えればいい。ただ、単純に「ローカルネットワークにサーバを置きました!」という方法では、ローカルネットワークの帯域(通信速度)が足りないことを始めとして、設置先の環境次第では別の問題が生じる恐れもある。

 そこで、FCCLがPC作りを通して培ってきた技術やノウハウを投入し、あえて「エッジ」と名乗らないエッジコンピューティングプラットフォームとして研究を進めているのがICCPだ。ICCPはデータ配信やAI処理をローカルで行うことはもちろん、データを区分・整理した上でクラウドとやりとりすることもできるという。

ICCP ICCPが実現する世界観の説明図

2種類の試作デバイス

 先述の通り、ICCPの実現に向けた試作マシンは2種類ある。それぞれ、機能と想定している用途が異なるが、エッジコンピューティングをより手軽に使えるようにするという発想は共通している。

MIB:学校向けエッジコンピュータ

 学校では、授業にタブレット端末やノートPCを導入するケースが増えている。しかし、学校に引き込んだネットワーク回線の帯域が少なく、先生の指示で児童や生徒がコンテンツにアクセスするとデータがなかなか取得できないという問題が発生しがちだという。児童や生徒が好き勝手にインターネット上のサイトにアクセスしてしまうことに頭を抱える先生も少なくない。

 MIBは、そんな問題を解決すべく学校に導入する想定で試作されたICCPデバイスだ。既に、島根富士通が所在する出雲市内の小学校において導入実験を行っているという。

 MIBはコンパクトなボディーにWindows PC、無線LANルーターとコンテンツサーバの機能を統合している。そのため、1台で「先生側の模範表示」「生徒用端末のネット接続」「生徒用端末へのデータ配信」の全てを賄えるようになっている。

 授業で使うデータを事前にMIBに保存し、MIBを介して生徒の端末に配信すれば、学校のネットワーク帯域を食いつぶす心配がなくなる。無線LANを使うと起こりがちな端末間の通信速度ギャップについては、MIBに均等な速度で配信できる仕組みを取り入れているという。児童や生徒が勝手に別サイトにつないでしまう問題も、必要な時以外はMIB側で通信を遮断する機能を使えば「解決」できる。

 今回の見学会では実機の展示はなかったが、プレゼンテーション映像の写真を見る限りは、実用化(製品化)はそう遠くないように思える。

MIB 学校導入を想定した「MIB」。出雲市の小学校で実証実験をしているという

Infini-Brain:Windows環境にも導入しやすいエッジAIデバイス

 FCCLがLenovoグループに移行した際の発表会で披露されたInfini-Brain。今回の見学会では、ICCPの一翼を担うマシンの1つとして実働する試作機が公開された。

 ただし、見た目は以前の発表会のイメージ画像とは大きく異なり、タワー型のワークステーション然としたボディーとなっている。

Infini-Brain Infini-Brainの試作機。当初の発表イメージとは異なり、タワー型ワークステーションのようなボディーとなっている

 この試作機は、MIBと同様にWindows PCとしてのハードウェアと、6基のGPU(NVIDIA Jetson)をつないだLinuxベースの「AIプロセッサ」の両方を内蔵している。

 ……というと「え、単なるニコイチ?」と思われるかもしれないが、この試作機の重要なポイントは、Windows PCとAIプロセッサが独自アーキテクチャの「ブリッジコントローラ」でシームレスかつリアルタイムに情報をやりとりできることにある。

 従来のAIプロセッサはLinuxベースで作られているものが多く、Windowsベースのシステム環境に組み込むことが困難なケースもある。Infini-Brainの試作機もAIプロセッサこそLinuxベースだが、ブリッジコントローラーでWindows PC部分とより強く結び付いているので、AIプロセッサを別途導入してシステムを構築するよりも障壁は低くなり、迅速に導入できるという。

ハードウェアアーキテクチャ Infini-Brain(試作機)のハードウェアアーキテクチャ図。Windows PC部分とAIプロセッサ部分を、独自アーキテクチャのブリッジコントローラで結んでいるという
リアルタイム性 Windows PC部分とAIプロセッサ部分がシームレスにつながっているので、単純にAIプロセッサを追加するよりも迅速に導入が進められる

 もちろん、MIBと同様に閉じた環境で使えることはメリットでもある。大容量のデータを外部環境に左右されず処理できるからだ。FCCLでは「ローカル5G」と組み合わせた利用方法も検討しているという。

 今回の試作機では6基のGPUをつないで使っているが、アーキテクチャ上は別のプロセッサ(CPU、FPGAや専用チップなど)をつないで使うこともできるようになっているという。用途や処理内容に合わせて構成を変えられるようだ。

ローカル5G ローカル5Gと組み合わせた閉じた環境での運用も視野に入れている
構成 用途や処理内容に応じて、AIプロセッサの構成は変更可能

 6基のGPUは、状況に応じて挙動を変更できるようになっている。今回の見学会では、不審者の「検出→追跡→属性推定」をシーケンシャルで処理するデモが披露された。

 このデモとは別に、あるドラッグストアで同様の処理をして万引きをする疑いのある人に自動音声で「声がけ」をする実験(※)を行った所、前年同期比で万引き額が有意に減少したという。

 見た目こそ発表時と異なるが、見た限りは実用的なスピードで動いていた。MIBと同様に、製品化はそれほど遠くないのかもしれない。

※指向性スピーカーで「いらっしゃいませ!」という音声を流す

スケーラビリティ 処理したい内容に応じてGPUごとの役割を変えられるようにしてある
実験 島根富士通の売店に設置された2つのカメラの映像を、Infini-Brainが処理する実験。怪しい挙動をする人を検出したらアラートが即座に出る
結果 ドラッグストアで同様の実験を行った結果。万引き被害額が有意に減ったという

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