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ソニーから分離で「VAIO」の魂は失われてしまうのか本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/3 ページ)

斬新なPCを数多く輩出してきたソニーのVAIO事業が、日本産業パートナーズに譲渡される。なぜ、こうした事態になったのか、そしてVAIOブランドのPCは今後どうなるのか?

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PC業界の状況とVAIOブランド

 よく言われているように、コンシューマー向けPC市場はタブレット型端末、というよりもiPadによる侵食を受けて出荷を減らしてしまった。企業向けにも影響は出ているが、現時点での影響は主に個人向けPCに現れている。

 ソニーの決算資料を見ると、2013年の年末商戦期(10〜12月)の売上台数は170万台で、前年の220万台から大幅に下げている。さらにさかのぼってデータを見ていくと、減少は一時的なものではなく、ここ数四半期の一貫した傾向ということが分かる。台数規模では1070万台を売り上げるモバイル部門(Xperia事業)の約1/6の水準だ。

 また、Windows XPからの乗り換え需要で他メーカーやソフトウェアメーカー、PC販売代理店などが、厳しい事業環境下でも一服の清涼剤を得ている中で、年間を通しての売上台数も2012年度の760万台から、2013年度は580万台へと大幅に減るという見通しを立てている。

 ユニークなデザインやメカニズム、実際の使い勝手などさまざまな提案で、PC業界に一石を投じてきたVAIOだが、残念ながらその成果は直接的な売上につながっていない。

 1つの理由は、“個人向けPC市場”そのものが縮小していること。日本市場はやや特殊だが、欧米ではPCよりもシンプルなiPadなどのタブレットに、ここ数年はPC市場を奪われてきた。かつてのNetbookならば、PCの延長線にある商品だが、アプリやサービスの流通とガッツリ結びついたタブレット市場に、PCブランドで対抗するのは難しい。

日本マイクロソフトが国内販売するSurfaceシリーズやWindowsタブレットは、海外に比べて国内のニーズが格段に強いというが……(写真はSurface Pro 2)

 日本マイクロソフトによると、国内のWindowsタブレットの出荷割合や「Surface」シリーズのニーズは、他の地域に比べて格段に強いという。そんな日本市場だけを見れば将来性もあるように思うかもしれないが、世界的に製品を展開していく必要のあるソニー製品の場合、やはり昨今の市場は厳しいと言わざるを得ない。

 しかし、前述したようにPC業界全体が不調かというと、そうではない側面もある。

 日本マイクロソフトはその典型例で、中小企業、大企業、それに政府自治体、どの分野も二桁を超える成長を続けている。主にサーバ分野とクラウド分野の伸びが大きいが、PC向けのWindowsライセンス事業やOfficeの事業も伸びており、数字だけを見ると不調どころか好調なのだ。

 背景にはWindows XP搭載PCの買い替えや増税前の駆け込み需要が大きく、これは例えば大塚商会の決算などにも如実に現れている。結論から言えば、確かに厳しい環境にはあるものの、企業向けも含めたトータルでのPC市場は、コンシューマー市場だけを見て感じるほどには悪くない。

 ではなぜソニーは、VAIO事業を切り離すのだろう。

Macの伸張が最も大きく影響したのはVAIOか

ソニーの代表執行役社長兼CEO、平井和夫氏(2014年2月6日の3月期第3四半期決算会見にて)

 ソニーの平井氏は、エレクトロニクス事業立て直しの鍵となるコア事業として、イメージング、モバイル、ゲームの3分野を挙げてきた。言い換えれば「PCやテレビはコア事業ではない」ということだが、しかし収支改善に取り組む余地はあると話し、それぞれの分野で事業の立て直しを図ってきたのが、この2年ぐらいのことだ。

 その中で、テレビは事業戦略上の必要性や収支改善の見込みが立ったことで、100%小会社での分社化が決定した。しかしVAIO事業に関しては、この枠組みの中にも残らなかった。ソニーはPC部門単独の収支を記載していないが、VAIO部門の苦境は昨年から業界内でもうわさにはなっていた。法人向け出荷もあるVAIOだが、個人向けの出荷比率が大きく、このところのPC産業の環境変化による影響が、他メーカーよりも大きかった。

 また、AppleのMacが出荷を伸ばしている背景で、主に数字を落としてきたのもVAIOだ。VAIOはこれまで「少し多くのお金を出してでも、個性的でスタイリッシュなPCが欲しい人たち」を中心に、製品の展開を行ってきた。もちろん、メインストリーム製品に取り組んでいなかったわけではないが、かつてVAIOが好調でブランドを伸ばした時代には、“ちょいといい感じ”が受け入れられていたのだ。

Appleが2008年に投入した初代「MacBook Air」。発表されたMacworld Expo 2008の基調講演では、故スティーブ・ジョブズ氏が薄型軽量モバイルノートPCの代表例として「VAIO TZ」を挙げ、これと比較しながら優位性をアピールした。この他にも、Appleがソニーを意識し、モノづくりをしてきたエピソードは少なくない

 ところが現在、そうした市場はAppleが引き継いでいる。最新の数字は持っていないが、数年前にソニーの商品企画担当者は「かつてプレミアムなノートPC市場は国内外ともVAIOが席巻していたが、今は大半がMacになってしまった」と頭を抱えていた。

 VAIOがAppleのコンピュータと極めて近いコンセプトで作られていると見える読者もいるかもしれないが、むしろ、VAIOが目指していたコンセプトをAppleがキャッチアップし、独自に磨き込んだという方が正しいだろう。

 VAIOシリーズのコンセプトが紆余(うよ)曲折する中で、一貫して磨き込み、価値を高める方向性をAppleは変えず、お株を奪ってしまったとも言えるが、時代の変化もそうした流れを助けた。アプリケーションがインターネット上のサービスとなり、Windows互換が重視されなくなる中、OSやサービスも含めてワンストップで提供できるAppleのほうが、“プレミアムパソコン”としてのコンセプトを打ち出しやすかった。

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