iPhone 8――10年目を締めくくる初期iPhoneの完成形(2/4 ページ)
iPhoneの誕生から10年。iPhone 8はその集大成であり、完成形だ。林信行による徹底レビュー。
美しさと忠実さが際立つ新センサー搭載カメラと液晶ディスプレイ
iPhone 8シリーズのカメラは1200万画素。レンズは6枚構成で、暗いところでどれだけきれいに撮れるかの指標の1つであるレンズの明るさはf/1.8(iPhone 8 Plusの望遠はf/2.8)。実はこれ、iPhone 7シリーズの仕様そのままだ。iPhoneと言えば、新しいモデルが出るたびにカメラが大幅に進化するのを楽しみにしていたのに、今回は変わらなかったか、と思っていたが、写真を撮ってみると絵作りが明らかに違う。
その秘密はiPhone 8のために新開発した画像センサーにあるようだ。従来よりも大型のセンサーで画像処理のスピードも速い。スローモーション撮影時の画質がこれまでの720pという解像度から1080pという高解像度に変わったことやビデオ撮影時の手ブレ補正の性能が上がったのもそのおかげのようだ(広角撮影時のみ、iPhone Xでは望遠も手ブレ補正する)。
新しいセンサーとカラーフィルターの搭載でiPhone 8のカメラはより発色が鮮やかになり、ダイナミックレンジ(明るいところと暗いところの明暗差)も大きく目で見た印象に近い写真を撮れるように進化しており、暗いところの撮影でもノイズが乗りにくいという。
実際にiPhone 8とiPhone 8 PlusそしてiPhone 7 Plusの3台でさまざまなシーンを撮影してみた(ここではいくつか主要なサンプルだけを紹介して、残りは最後のページにまとめる)。
iPhone 8とiPhone 8 Plus(の広角側での撮影)はあまり差はないが、iPhone 7 Plusと比較すると、iPhone 7 Plusは少し暗くなってくるとディテールが潰れやすく、 夕日をバックにした風景など明暗差が広い場面でも暗い部分が潰れやすい。また明るいところの撮影でも微妙に肌の色や建物の色が異なりiPhone 8の方がより見た目に近い自然な色合いになっている。
読者の方々は、この撮影写真の違いをパソコンやスマートフォン画面で横並びにして見比べることになるが、iPhone 8の画面に表示して見比べるとさらに差は大きくなる。
というのもiPhone 8も液晶搭載スマートフォンの中でも最高峰の幅広い色表現が可能なRetina HDディスプレイを採用している上に、今回から新たに周りの光の色にあわせて表示色を微妙に調整するTrue Toneという技術にも対応しているからだ。
全く同じ白い紙でも白熱灯の下におけばやや黄色く、蛍光灯の下におけば青白く見えるものだが、スマートフォンの液晶画面は発光しているため周囲の光の色に馴染まず色が浮き立ってしまう。True Toneは光のセンサーを使いまるで印刷物のようにスマートフォン画面の表示を周囲の光の色にあわせて馴染ませる技術だ。
iPhoneは常にスマートフォンの中では圧倒的に高い色の再現性を誇ってきた。シャネルを始めとする高級ファッションブランドの多くが公式のスマートフォンアプリをiPhoneだけに提供しているのも、そうしたことが関係あるはずだ。
iPhone 8はそのiPhoneの中でも、過去最高レベルの色表現と再現性を実現している(iPhone Xでは黒が際立つ有機ELというディスプレイ技術に移行するので、さらに飛躍しそうだ)。
デジカメ新時代を感じるポートレートライティング機能
ところで、2モデル中、画面サイズが大きいほうのiPhone 8 Plusは、iPhone 7 PlusやiPhone X同様にレンズを2つ搭載しており、ポートレートモードという特別な撮影モードを搭載している。
ポートレートモードでは、撮影は望遠カメラを使って被写体を撮影する一方で、もう1つの目の広角カメラを使って像の遠近感を計測し、瞬時に被写体と背景を切り分ける。そして背景に自然なぼかしをかけることで、まるで高級カメラで撮ったようなハっとするようなドラマチックな写真に仕上げてくれるiPhone 7 Plusの人気機能だった。
ところが、iPhone 8 Plusでは、この機能がさらに進化し「ポートレートライティング」という機能が追加される。なんと被写体と背景だけでなく、被写体が人間であれば目や鼻や頬といった顔の起伏形状まで記録して立体マップを作り、まるでスタジオ撮影したかのような擬似的な5種類の照明効果を加えられる。
これはInstagramなどでよく使われるフィルタ機能ではない。フィルタ機能は平面の写真の色を後から加工しているだけに過ぎないが、「ポートレートライティング」では頬や鼻といった顔の起伏を理解し、その周囲にだけ影を作ったり、あるいはなくしたりできる。
中でもドラマチックなのは背景だけを真っ暗にしてしまう「ステージ照明」という効果だ。これまでこうした被写体と背景の切り分けはPhotoshopなどの業務用アプリを使ってプロの人が職人技で行なっていることが多かったが、iPhone 8はそれがほぼ全自動でできてしまうのだ。ただし、 まだ完璧ではなくβ版(開発途上版)の技術として公開されている。
デュアルレンズを使って捉えた被写体の起伏情報は写真の付加情報として写真ファイル内に保存されているようで、一度、このモードで(被写体をきちんと認識した状態で)撮影した写真は、後からでも照明効果を切り替えることができる。
下の動画はこの機能を使って今回のモデル、原田奈津美さんを撮影したものだが、後半に出てくる2つ目のサンプルでは顔の左側の髪の毛や脇のあたりがうまく切り抜けていないことが分かる。
なお、ポートレートライティングは人物以外の被写体に対しても利用できるが、どうもひとかたまりになっている被写体には強い半面、背景がのぞくような隙間があるとそこだけ切り抜き忘れてしまうようだ。
この機能は機械学習という人工知能的な技術で実現しているが、今後、使う人が増え学習させるデータが増えることで、後になってさらに性能が改善することが期待できる。機械学習には膨大な処理能力が必要で、それに応えているのがA11 bionicと呼ばれるiPhone 8の頭脳だ。つまり、この機能は同じA11 bionicを搭載するiPhone Xでも利用できるが、搭載しないiPhone 7 Plusでは利用できない。まさにiPhone 8 Plusシリーズに乗り換えるべき大きな理由の1つとなる機能に成長しそうだ。
中には大きな5.5型液晶のiPhone 8 Plusでは指が画面の端まで届かず文字入力が片手でできないからと敬遠している人もいるかもしれないが、iOS 11からはキーボード設定に「片手用キーボード」というオプションがつきこれまでと同じサイズの指が届くキーボードが表示可能になっている。ただし、もう片方の手を完全に離すとiPhoneを落とす原因になるので、指をひっかけるリング型アクセサリーなどを使って対応するとよいかもしれない。
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