KDDI、LTE導入までの取り組みを解説――2010年後半導入の「マルチキャリアRev.A」は“下り9Mbps”ワイヤレス・テクノロジー・パーク2009(1/2 ページ)

» 2009年05月14日 20時02分 公開
[平賀洋一,ITmedia]
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photo KDDIコンシューマ技術統括本部モバイルネットワーク開発本部 本部長 理事 湯本敏彦氏

 国内4キャリアが次世代(3.9G)の通信方式として採用したLTE。各社は5月7日までに、3.9Gの移動通信システム導入に向けた免許を総務省へ申請しており、商用化へ向けた準備が着々と進んでいる。

 KDDIは4月23日の2009年3月期決算会見において、LTEを2012年度に導入すること、それまでは現行のEV-DO Rev.Aをマルチキャリア化して高速化・大容量化することを明らかにしている。KDDIのLTE導入とEV-DO Rev.Aマルチキャリア化について、KDDIコンシューマ技術統括本部モバイルネットワーク開発本部 本部長 理事 湯本敏彦氏がワイヤレス・テクノロジー・パーク(WTP)2009で講演を行った。

 湯本氏は、「動画ストリーミングなどでインターネット全体のデータトラフィックが増加している。この傾向は、一通りブロードバンド化が済んだ固定通信よりも携帯電話などの移動体通信で顕著。データトラフィックの伸びは固定から移動へと推移している」と現状を説明した。特に携帯電話では2%のユーザーが移動全体の3割のトラフィックを使っており、公平な回線利用のために一部ユーザーに対して帯域制限などを行っている。しかし、データ利用の伸びに対する根本解決はシステムの大容量化しかなく、そのためにLTEへの移行が必要と解説した。

 「ケータイユーザーはPCで流行っているものをケータイでも使いたいと思う。ケータイがブロードバンド化すれば、非PCユーザーのケータイにリッチコンテンツを転送するau BOXのような製品は不要になるだろう。ケータイで直接コンテンツを入手できるからだ」(湯本氏)

 3.9GにはLTEのほかに、UMBという規格がある。UMBはKDDIが採用しているCDMA2000の後継技術であり、当初はKDDIが次世代規格としてUMBを採用するとも予想された。湯本氏はKDDIがLTEを選んだ理由について、「汎用性などの技術面では、LTEもUMBとの大きな差はない。しかし、国際的にUMBを選ぶオペレーターがなかった。LTEが標準になりつつあるなか、我々がUMBを選択すれば、日本のケータイが“ガラパゴス”と呼ばれている今以上に孤立化したかもしれない。また利用者が増えれば、設備や端末が低コストで調達できる面も考慮した」と解説。「3.9Gで高速化と大容量化が可能になるが、事業者としてはインフラコストの抑制にも期待したい」と付け加えた。

 また、LTEではCDMAに変わってOFDMAやMIMOなどの技術が使われていることにも触れ、「かつて我々は、PDC(2G、TDMA)からCDMAへ移行するときに頭の切り替えが必要だった(CDMAは干渉に強く、多重化がしやすい)。LTEではOFDMAやMIMOなどの技術にパラダイムシフトしていくが、周波数の干渉の問題が再浮上している。再度、頭を切り替える必要がある」と、通信方式が変わることの苦労をにじませた。

データはLTE、音声は1X

 LTEはパケット通信を高速化する規格であり、音声通話はVoIPを使って提供する。しかしKDDIは、LTEを導入しても「すぐに本格的なVoIPへ移行することは考えていない」(湯本氏)という。LTEは主にデータトラフィックの高いエリアで利用し、その外縁や外側ではEV-DO Rev.0(CDMA 1X WIN)やEV-DO Rev.Aにハンドオーバーすることで、途切れなくデータ通信を提供し、一方の音声通話は当面CDMA2000 1Xで提供する予定だ。

 「音声トラフィックは1Xで行う。完全なVoIP以降はしばらく先になるだろう。しかし、テレビ電話のようなサービスはVoIPで提供する可能性もある。LTEのエリアが全国に拡大すれば、データはLTE、音声は1Xを使う。中間のEV-DOをやめるという選択肢も考えられる」(湯本氏)

 KDDIがLTE用として想定する周波数帯は、2012年7月以降に再編される800MHz帯(新800MHz帯)と5月7日に申請を行った1.5GHz帯の2つ。基盤となるのは割り振りが決まっている新800MHz帯であり、1.5GHz帯については免許が下りれば高トラフィックエリアで補足的に使う予定だ。3.9Gの免許申請の条件には、認定から5年以内に全国の人口カバー率を50%以上にすることが含まれており、新800MHz帯については既存800MHz帯の設備を使うことで、迅速にカバレッジを広げるという。

 そのLTE導入までには、現行のRev.Aをマルチキャリア化することで高速化し、大容量通信に対応する。マルチキャリアRev.AはRev.Bの一部スペック(マルチキャリア伝送)をサブセットとして採用したもので、KDDIでは下り最大3.1Mbps/上り最大1.8MbpsのEV-DO Rev.A伝送波を3本束ねて、下り9Mbps/上り5Mbps程度の通信速度を想定している。また、5〜10%のトラフィック改善を期待しているという。

 変調方式などはRev.Aと同じなため、基地局などの設備はソフトウェアアップデートで対応するが、端末は対応した製品が必要だ。このマルチキャリアRev.Aについて湯本氏は、2010年後半に導入することを明らかにした。

LTE導入の課題とは

 CDMA2000 1X(CDMA 1X)の採用以降、KDDIはEV-DO Rev.0(WIN)、EV-DO Rev.Aと通信規格を採用してきたが、いずれもバックワードコンパチビリティ(後方互換性)を確保している。この方針はLTEを導入しても変わらず、前述のようにデータ通信ではEV-DOを使うこともあり、音声は1Xが受け持つ。

 湯本氏はLTE導入までの課題として「こうした現行システムとのインターワークをどうするかが問題だ。例えば、LTEエリアのフリンジ(縁)でEV-DOエリアとのハンドオーバーをどうするのか、またLTEの通信中に1Xに音声着信があったらどうするのかを解決しなくてはならない」と述べた。

 KDDIでは、それぞれ独立しているLTEとEV-DOのコアネットワークを、仲介役となるゲートウェイでつなぎ、端末がLTEエリアとEV-DOエリアを行き来しても通信が途切れることなくハンドオーバーできるシステムを設計しているほか、1Xの音声着信をLTEネットワークから端末に知らせるシステムなどを構築して、課題を克服する考えだ。

 また広帯域(バックボーン)への対応については、IP化した現状のインフラで対応できるとしたほか、エリア展開で一番時間がかかる置局交渉については、現行のアンテナ設備を共用することに加え、LTEの小型基地局やフェムトセルを開発することで、地方エリアも迅速に展開する考えを明らかにした。こうして構築された移動体ネットワークは、KDDI内の固定通信サービスなどと統合IP網やIMS網と接続され、固定と移動を融合させたシームレスなFMBCサービスの提供を実現するという。

 また、LTEの次に控える4G規格のIMT-Advancedについても、KDDIの取り組みを紹介した。現在KDDIでは、下り747Mbps/上り176Mbpsという通信速度でIMT-advanced要素技術の検証を行っているという。伝送方式として地上デジタル放送などにも使われているOFDMのほか、KDDI研究所が開発したパケットを複数のチャンネルに分散して送信するRotational OFDM(R-OFDM)方式も検証されており、通信環境が悪くても伝送距離を伸ばすことが実証されているという。

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