合併パワーでSKTを圧倒する「KT」――巨大通信企業誕生にライバルはどう動くのか韓国携帯事情

» 2009年06月01日 21時51分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]

 6月1日、韓KTの新体制がスタートした。固定電話とブロードバンドのシェア1位を誇る通信大手のKTが、携帯電話業界2位のKT Freetel(KTF)の吸収を決めたのは2009年1月中旬のこと。統合作業は進んでおり、すでに固定と無線、放送と通信の統合ブランドである「QOOK(クック)」を発表している。豊富で良質なコンテンツ(Quality&Quantity)を思い通りにアレンジ(料理)できるという意味だ。

 合併後のKTが重きを置くのは、複数のネットワークを1つに統合し、それを生かしたサービスを提供することだ。そのため、ネットワーク分野には今後5年間で16兆6000億ウォン(約1兆2692億円)を投資するとしており、うちコンバージェンス分野には2兆4000億ウォン(1835億円円)の資金と約4600人の人材を投入。研究開発ではFMCが重点分野となり、すべてのサービスをインターネット基盤で提供することを目指すという。

 また政府の韓国電子通信研究院(ETRI)と提携し、放送と通信の融合に関する研究を進めるなど、さまざまな面からコンバージェンス企業に大きく変わろうとしている同社の姿勢が垣間見える。

 携帯電話分野では、KTがKTFの携帯電話販売を請け負っている点が大きい。これまで旧KTFの端末はどこか地味なイメージが強かったが、今後は評判の良い「SHOW(ショウ)」ブランドへの統合によるイメージアップが見込まれる。「WiBro(ワイブロ)」も新ブランドの「SHOW WiBro」に刷新された。

photo 「QOOK」のロゴ

 KTは番号ポータビリティによる顧客確保に注力したマーケティングを展開しており、実際に効果も表れ始めている。4月時点の加入者は、KT・KTFが前月比8894人増の7万9642人。LG Telecom(以下、LGT)は前月比で増加した一方、SK Telecom(以下、SKT)は前月比8472人減の12万918人だった。SKTが「必ず維持する」と述べていたシェア50.5%の壁は崩れ、50.47%となった。

ICT企業を目指すSKT

photo 5月下旬、SKTはHSDPAとWiBroが利用できるデュアル端末「SCH-M830」を発表。複数のネットワークを介した使い方をユーザーに提案している。SKTがWiBro兼用端末を出すのはこれが初めて。OSはMicrosoft Windows Mobile 6.1。WiBroに簡単に接続できる「WiBroメニュー」を搭載している

 携帯電話市場でKT陣営に押されているSKT。同社が独占していた800MHzの周波数帯は、韓国政府の放送通信委員会が一部を回収してほかの通信会社に再割り当てされる予定だ。KTとLGTは待望の800MHz帯が使えるとあって活気づいているが、SKTにとってはあまり良い材料ではない。

 同社にも、2008年に買収した通信会社SK Broadbandとの合併説が出ている。2010年3月を目処に合併が進むという分析もあるが、SKTは否定も肯定もしていない。

 しかし、SKTが合併に乗り気であるとみられる動きがないわけではない。先日SKTは、固定事業を手がけるSK Networksの専用回線事業を8929億ウォン(約682億円)で買収。同社の専用回線規模は、従来の4947キロメートルから一気に8万8416キロメートルへと増加した。またSK Broadbandに、最大3000億ウォン(約229億円)まで資本参加することも決めている。

 さらに、傘下の通信設備メーカーSK Telesysが、携帯電話の開発を行うと発表した。同社開発の携帯電話は下半期に登場する予定で、将来的にはスマートフォンも開発するという。SKTはSK Telesysの端末開発について「単独行動」という立場をとっており、事実SK Telesysは開発した端末をKTやLGTにも供給する意思を見せている。とはいえ、携帯電話事業を再編しようというグループの系列会社だけに、今後の動きへの注目度は高い。

 さてSKTは、将来的に「ICT(情報通信技術)」企業への飛躍を目指しており、KT同様ネットワークなどのコンバージェンスを重視する戦略だ。同社はコンバージェンス技術開発のために、今後5年間で3兆ウォン(約2292億円)を投資するという。将来有望な事業を発掘するため人員も計600人程度を投入するなど、将来を見据えた人員配置をしている。

 コンバージェンス事業の手始めとして、あらゆる端末でさまざまなコンテンツを利用できる「App Store(アップストア)」のようなサービスを開始する予定で、6月にテストを行い9月に開始する見込みだ。このほか、映画配給を行う系列会社のiHQとSK Broadbandが協力してデジタルコンテンツの配給を行ったり、双方向サービスが可能な衛星DMBを下半期から投入するなど、新たな施策を矢継ぎ早に展開している。

低コストな4G対応基地局を設置するLGT

 LGTも、LG DACOMやLG Powercomといった系列通信企業との連携を強めている。LG Powercomのブロードバンドと携帯電話に加入すれば、使用料が月最大50%割引になる料金プラン「パワートゥギャザー」を発表するなど、安価な料金制対策に熱心だ。今年は不況による市場の停滞やKTへの対抗心などから、キャリアによる端末補助金の出し合いが過熱したが、最近は安価な料金や「結合料金」も競争要素として目立ってきている。そのけん引役が、安価な料金戦略に長けている同社ともいえる。

 また同社は、2Gから4Gまで対応する「マルチモード基地局」600台を設置する予定だ。これは、今後2Gから4Gへと通信規格が変化しても、基地局自体の交換ではなく内部のボードを取り換えるだけで対応できるという基地局だ。LG NortelやSamsung電子と共同開発したもので、9月から本格的な設置を開始する。コスト削減効果が見込まれるため、今後の料金施策でも有利に立てる見通しだ。

 合併したKTだけでなく、そのライバルたちも「コンバージェンス」企業を目指している。方向性が明確になったことで各グループはますます団結を強め、通信業界は大企業の支配力が一層強まっていく傾向にある。

 しかし、グループを上げてせっかくネットワークを強化しても、ユーザーの通信費高騰に対する抵抗感やキラーコンテンツの不在という問題を解決できないままでは、投資も無駄になりかねない。また各社の戦略は「端末や場所を問わずに」というコンセプトやアプローチであり、画一的な印象を受ける。さまざまな可能性を問うには規模を生かす必要もでてくるだろう。グループの特性や資産を生かした、ユニークなサービスやビジネスモデルの開発が、今後の大きな課題だといえる。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。弊誌「韓国携帯事情」だけでなく、IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。


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