躍進するスマートフォン市場――メインプレイヤーの覇権争いが鍵にアナリストの視点(1/3 ページ)

» 2009年08月07日 08時00分 公開
[賀川勝(矢野経済研究所),ITmedia]

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 国内の携帯電話の出荷台数は、買い替え需要が乏しかったことに加え、通信事業者が端末販売手法の見直しを図った結果、過去に比べて大幅に減少している。こうした中、出荷台数を引き上げる要因としてスマートフォンが注目を集めている。iPhoneやAndroidを搭載した端末、App Storeなどの新たな製品やサービスは、スマートフォン市場の拡大の担い手として期待が懸かる。本稿では国内外におけるスマートフォンの市場背景を過去にさかのぼって振り返るとともに、現状と今後のスマートフォン市場がどのように移り変わるのかを分析する。

国内スマートフォン市場の変遷

2005年――W-ZERO3が人気に火を付ける

W-ZERO3 W-ZERO3

 日本市場に投入された最初の本格的なスマートフォンは、2005年12月にウィルコムが導入した「W-ZERO3」である。OSに米Microsoftの「Windows Mobile」を採用し、携帯電話やPDA(携帯情報端末)で人気のシャープが開発を担当したことで、大いに注目を集めた。

 W-ZERO3の主な用途は「2台目以降の端末」であり、IT関連のリテラシーが高いユーザーが支持した。企業による導入も相次ぎ、外回りをする営業担当者向けの業務用端末としての地位を確立した。Windows Mobileに対応したスマートフォンの企業向けサービスも数多く生まれ、国内のスマートフォン市場をけん引した。

2006年――OSではWindows Mobileがデファクトスタンダードに

BlackBerry 8707h BlackBerry 8707h

 2006年には、NTTドコモとソフトバンクモバイルが、Windows Mobileを搭載した台湾のHigh Tech Computer(HTC)製のスマートフォンを発売した。競合するOSやプラットフォーム製品がほぼ存在しなかったことから、Windows Mobileは国内市場のデファクトスタンダード(事実上の標準)になった。

 またNTTドコモはカナダのResearch In Motion(RIM)製の「BlackBerry 8707h」を売り出した。主に外資系企業や金融業界、大手企業の経営層からの脚光を浴びたが、日本語に対応したのは2007年の夏季以降だった。個人向けにも販売されたが、出荷台数は少量にとどまっている。

2008年――主役はiPhone 3Gに

iPhone 3G iPhone 3G

 2008年の最大のニュースは、米Appleが「iPhone 3G」を発売したことだ。iPhone 3GはAppleのたぐいまれなるブランドイメージをまとい、独創的なタッチパネルインタフェースをもたらした。iPhone向けのアプリケーションを配布する「App Store」も開設し、商品力の高さを見せつけた。iPhone 3Gを販売するソフトバンクモバイルは積極的な販売促進を行い、発売から長期にわたって高い人気を維持した。こうしてiPhone 3Gは、国内におけるスマートフォン市場の主役の座を射止めた。


image Touch Diamond

 HTCが国内市場に打ち出した「Touch Diamond」は、3Gを運用する事業者3社が導入し、マルチキャリアで展開された。Touch Diamondは2008年第2四半期の発売以降、世界全体で累計300万台に近い出荷を達成したヒット端末である。スマートフォン製品のラインアップを拡充する進める通信事業者にとっても、魅力的な商材だったといえよう。

海外スマートフォン市場の変遷

Symbian OSでシェアを握ったNokia

 スマートフォンの海外販売は2000年ごろから始まった。最大手であるフィンランドのNokiaは、普及価格帯を除く多くの製品に独自開発のインタフェース「S60」を実装した。これは英Symbianが開発したSymbian OSを基に開発している。この結果、「Nokia製の3G携帯電話=Symbian OS(スマートフォン)」という図式が確立し、今日のスマートフォン市場で圧倒的なシェアを獲得することとなった。

オバマ米大統領も愛用するBlackBerryを育てたRIM

 2008年最も売れたスマートフォンの1つがRIMの「BlackBerry」シリーズである。BlackBerryはもともと、企業向けサービス「BlackBerry Enterprise Service(BES)」を軸に事業が展開されており、2004年ごろからスマートフォンの提供を開始した。

 BlackBerryは、イントラネットの接続性や高いセキュリティ環境の基でプッシュ型の電子メールを送受信できるといった点で評価を集めた。3Gへの対応やコンシューマー向けの機能を追加したことで、2007年から欧州、北米を中心に人気に火が付いた。大手通信事業者が販売奨励金を付けて安価に販売した事も人気を後押しした。バラク・オバマ米大統領が使用している端末としても有名だ。

自社ブランドの展開を強めるHTC

 Windows Mobileを搭載したスマートフォンで日本でも認知度を高めたHTCは、1997年に台湾で創業したベンチャー企業である。PDAの開発専業メーカーとして事業を始め、2002年にはWindowsを搭載した世界初のスマートフォンを発売した。同社は、2005年まで大手通信事業者、ディストリビューター向けのOEM(相手先ブランドによる設計や生産)を主体としていたが、2006年以降は自社ブランドの「HTC」を前面に出したビジネスを展開。2008年には世界初のAndroidを搭載した端末を打ち出している。HTCがここまで飛躍できたのは、Microsoftや米Qualcommなどの大企業から支援を受けたことが大きい。

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