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» 2009年10月15日 11時00分 UPDATE

神尾寿のMobile+Views:今後10年で10兆円規模へ──自動車ビジネス×モバイルICTの新市場 (1/2)

「携帯電話」が「ケータイ」になる契機となったiモードの登場から10年。通信業界には“次の10年”を見据えた戦略が求められている。そんな中で注目すべきなのが、大きな成長領域の1つと考えられる自動車と通信の融合がもたらす新たな市場だ。

[神尾寿,ITmedia]

 10月20日から22日まで、幕張メッセで第一回国際自動車通信技術展(Automotive Telecommunication Technology Tokyo/ATTT)が開催される。これは“自動車および自動車交通とICTの連携・融合”をテーマにしたコンベンションであり、ICTという切り口から自動車と交通の未来を見る展示会・イベントとしては、おそらく世界初のものだ。

 筆者はこの国際自動車通信技術展において、全体の展示内容やイベントを企画する企画委員会の委員長という立場で参加。約1年半をかけて準備を進めてきた。そこで今回は、同展示会開催直前の特別編として、「クルマとICT(とりわけモバイルICT)」の連携・融合が秘める可能性を考えてみたいと思う。

自動車関連市場はモバイルICTの潜在市場

 クルマと通信というと、多くの人が「車載通信モジュール」や「テレマティクス」をイメージするのではないだろうか。

 クルマやカーナビに専用の通信モジュールを搭載し、モバイル通信経由でカーナビ向けの情報サービス、テレマティクスを提供する──。こういった取り組みは2000年代初頭から進んできており、トヨタ自動車、本田技研工業(ホンダ)、日産自動車やパイオニアなどのテレマティクスは、多くの車種・カーナビで利用可能になっている。

 例えば、トヨタのレクサスでは販売中のすべての車種・モデルがKDDIの車載通信モジュールを搭載。独自のテレマティクスサービスからリモートメンテナンスサービス、エアバッグと連動した事故発生時の緊急通報システムまで幅広い用途でモバイル通信を活用している。一方、ホンダのテレマティクス「インターナビ」では、高度な渋滞情報サービスやドライブ向け安全情報提供、エコドライブ支援などの多くのサービスやコンテンツを用意しており、上級車種では90%以上、フィットのようなコンパクトカーでも30%以上の搭載率を実現している。インターナビでは内蔵車載通信モジュールまでは用意していないものの、ウィルコム製の専用通信カードにより、クルマとモバイル通信の連携サービス拡大に注力中である。

PhotoPhoto レクサス(写真=左)ではすべてのクルマに通信モジュールを搭載。テレマティクスサービスやリモートメンテナンス、緊急通報サービスなどを実現している。ホンダもテレマティクス分野に注力。ハイブリッドカー「インサイト」(写真=右)ではサーバーが"エコドライブ"の支援をするサービスまで実現している

 このように“クルマの通信対応”と、その上でのさまざまなテレマティクスサービスの開発は、大手自動車メーカーやカーナビメーカーによる一般乗用車向けの製品やサービスが目立つ形で進展してきた。しかし、クルマとモバイルICTの可能性はそこだけではない。乗用車向けのサービスやビジネスが今後も伸びる一方で、“それ以外”の領域にも多くの新市場が存在するのだ。

 例えば、商用車だ。日本における自動車の稼働台数は約7500万台であるが、その約半分が、事業でクルマを利用する「商用車市場」だ。トラックを筆頭とする物流やバス・タクシーなど旅客輸送、レンタカー、各企業が所有する営業車、緊急車両など、商用車市場の裾野は幅広い。これらの商用車に、コスト削減や生産性向上、セーフティ&セキュリティのために“専用車載器”と“モバイルソリューション”を販売するビジネスは、今後急拡大するだろう。

 これらの端緒は、すでに多くの事例として現れている。トラックなど大型商用車向けのテレマティクスでは、いすゞ自動車の「みまもりくんオンラインサービス」がロングセラーを続けており、各地のバス会社ではNTTドコモやKDDIの通信モジュールを使った「バス・ロケーションシステム」の導入が盛んだ。2009年6月には、ドコモのFOMA網を使ったMVNOのモバイルクリエイト(MVNEは日本通信)が「タクシー向け車載器・通信サービス」で新規参入を表明するなど、商用車向けテレマティクス/モバイルソリューション市場は急速に活発化している。

 また、最近の傾向として、携帯電話を用いた法人向けモバイルソリューションと、商用車(営業車)向けのモバイルソリューションをセットで提供する例も増えてきている。この分野で先行するのはKDDIだ。

 例えば、今年のMCPCアワード2009でグランプリと総務大臣賞、モバイルテクノロジー賞をトリプル受賞した九州電力のモバイルソリューションでは、KDDIの携帯電話と専用BREWアプリ、そして各営業車に搭載されたカーナビがシームレスに連携し、電力会社の業務効率を向上。「結果として、年間6億円規模のコスト削減に繋がった」(九州電力)という。

 営業車など業務用車両という観点で見れば、1企業で数千台〜数万台を運用するケースは少なくない。例えば、日本郵便では配達車両を全国に2万1000台、NTTグループでも約4万台の業務用車両を保有している。大手製薬会社や流通小売りチェーンなどでも営業車の数は数万台単位だ。携帯電話業界では今、法人市場の拡大策として携帯電話を用いたモバイルソリューションの開発に力を注いでいるが、その地続きの世界に商用車向けのサービスやビジネスの可能性があるのだ。

クルマの周辺市場にも多くの新市場

 モバイル通信モジュールやモバイルソリューションの市場は、クルマ側だけに限らない。自動車関連産業は「クルマの外」にも多くのビジネスが展開している。これらもモバイルICT産業の新たな市場になっていく。

 その中でもとりわけ大きいのが駐車場だろう。

 駐車場のモバイルICT活用では、コインパーキング事業者最大手であるパーク24が先進的だ。パーク24では自社の「タイムズ」駐車場8870件(25万8272台分)の9割以上にNTTドコモのFOMA通信モジュールを搭載し、独自の情報システム TONIC(Times Online Network & Information Center)で集中管理をしている。このTONICにより、タイムズ駐車場では効率的な駐車場管理のほか、満車空車情報の取得、ポイントカードシステムの構築、クレジットカードや電子マネーへの対応、Suicaなど交通ICと連携したパーク&ライドといった新サービスへの対応を実現したのだ。

 現在では、パーク24以外にも業界2位の「リパーク」(三井不動産)などが徐々に駐車場のオンライン管理を始めている。しかし駐車場業界は中小零細事業者が多いのも特長であり、全体のオンライン化率は4割に満たないのが現状だ。ここに通信モジュールだけでなく、通信を使ったソリューションやサービスの可能性がある。

 一方、あまり知られていないが、潜在市場規模が大きいとみられているのが、自動車整備や修理、用品販売、中古車市場などの「アフターマーケット」だ。これは国内だけで約10兆円の市場規模があり、新車販売に並ぶ第2の自動車市場である。

 このアフターマーケットでのモバイルICT活用も、すでに始まっている。その最新かつユニークな事例が、エムログが提供するECU診断システム「LOSSO-9/EagleCatch」だろう。

PhotoPhoto エムログがロータス同友会向けに用意している「LOSSO-9」。オンライン型の故障診断データ管理システムとして画期的だ。クルマから抽出・分析したデータはauの携帯電話で確認する

 LOSSO-9/EagleCatchはクルマの故障診断用ハンディターミナルであり、昨年から搭載義務化されたクルマの故障診断システム「OBD-II」に接続し、そのデータログを抽出。内蔵するKDDIの通信モジュールを用いてそのデータをサーバで解析し、故障診断データを整備員が持つ携帯電話で見られるというものだ。これにより、従来は自動車メーカーの正規サービスセンターでしか見られなかった故障診断ログの内容を、一般の自動車整備・修理工場でも確認できるようになり、より効率的で正確な整備・修理が可能になるという。

 このシステムの開発には、九州の自動車整備事業者の業界団体であるロータス九州が参画し、全国組織であるロータス同友会が「LOSSO-9」という名称で取次・普及促進を図っている。また、ロータス同友会以外ではEagleCatchという名称で取り扱われているという。

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