BlackBerryは海外担当社員の救世主――キリンがスマートフォンを導入した理由(2/2 ページ)

» 2010年08月26日 12時20分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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キリンはなぜBlackBerryを選んだのか

 “できるだけ急ぎで、スマートフォンを導入しなければならない”という局面で、なぜ、BlackBerryに白羽の矢が立ったのだろうか。

 「まず、従来から検討されていたWindows Mobileは、(2007年当時は)セキュリティ性能の課題が多く、バッテリーの持ち時間も短い端末ばかりで我々の要求水準からかけ離れていたのです。あとは、電話としての使い勝手が悪かったのもマイナス要因でした。我々が求める要素がOSや端末に実装されるまで待つことはできない状況だったため、導入候補から外しました」(桝田氏)

 そこで浮上したのが、キリンが求めるニーズを満たすスマートフォンのソリューションを、パッケージとして導入するというプランだった。Windows Mobileで検討していた時期は、キリンの業務向けにアプリやUIをカスタマイズする考えだったが、「スピード導入を考えると、フルオーダーではなく、パッケージソリューションの導入が適切だろうと考えた」(桝田氏)のだ。そこで選ばれたのが、RIMのBlackBerryである。

 「BlackBerryを選んだ大きな理由は、(RIMから)詳細なセキュリティレポートが開示されたことです。Windows Mobileなど他のスマートフォンでも『セキュリティは万全です。安全です』という説明はあるのですが、具体的かつ詳細なセキュリティレポートが開示されることは少ない。しかし、RIMは口先だけで安全性を説くのではなく、詳細なレポートを出してくれたので、我々としても導入の検討がしやすかったのです。

 また、サービスや端末の面では、『プッシュEメール』と『使いやすいフルキーボード』が必須項目でした。当時、スマートフォン導入を求めた国際関連部門では、世界中どこにいてもPCと同じようにメールを処理できるスマートフォンを求めていました。メール作成がしっかりできるという点で、BlackBerryのキーボードの作り込みは高く評価したポイントです」(桝田氏)

 このような経緯でキリンは導入評価を行い、BlackBerryを採用した。もともと同社は社内の情報システムにマイクロソフトの「Exchange Server」を使っていたため、BlackBerryの標準パッケージを利用。導入が15台と少なかったこともあり、検討開始から1カ月という短期間での運用開始になったという。

BlackBerryを「必要な社員のみ」支給した理由

 BlackBerryの導入から2年あまり。現在、キリンでは国際関連部門で約20台のBlackBerryを運用中であり、海外担当者の業務遂行をサポートしている。

 「BlackBerryは現在、(海外出張を頻繁に行う)国際部門の一部に絞って運用しています。国内業務担当の社員からもBlackBerryのニーズがあるのは理解していますが、国内では一般的なケータイ向けに(携帯サイトで)業務メールを参照するシステムを用意しており、ノートPCも提供しています。BlackBerryは利用コストが一般的なケータイよりも高めで、ユーザーに対するトレーニングも必要なので、『本当に必要とする社員だけ』に絞っている状況です」(桝田氏)

 一方で、すでにBlackBerryを利用しているユーザーの評価は高く、特にメールやスケジュールを“いつでも、どこからでも素早く確認できるようになった”ことが、「業務効率の改善と生産性の向上につながった」(桝田氏)という。

 「ただし、運用開始の時期にはIT部門からのサポートは欠かせません。BlackBerryは(社員が)これまで使っていた携帯電話と違いますから、セットアップ作業やサポートをする必要がある。あとガバナンスで見ますと、携帯電話は総務部の管理ですが、BlackBerryはIT部門の管理下に入りますので、運用をフォローする体制は準備しておかなければなりません」(キリンビジネスシステム 情報技術統轄部 ワーキングスタイル変革グループ リーダーの小林友紀さん)

 実際、キリンでも導入時にはBlackBerryの利用方法を教える講習会の実施やマニュアル製作作業などが発生した。

 「BlackBerryで生産性を向上させるには、社員が使いこなすようにサポートする必要があり、そのためにはコストもかかります。ですから、BlackBerryによって、このコストを上回るだけの生産性の向上効果が見込める部門や社員にだけ、BlackBerryを配備しているのです」(桝田氏)

ケータイからの移行ハードルをもっと低く

 キリンでは当面はBlackBerryを限定的な導入にとどめ、必要とする社員だけ使うという運用を続ける方針だ。しかし、BlackBerryに限らず、スマートフォンを用いたモバイルソリューションには大きな可能性を感じているという。

 「BlackBerryを導入したことで、スマートフォンが業務遂行のプラスになるという確信は得ました。しかし、さらに大規模な導入となりますと、やはり必要なのは『既存の携帯電話から移行する際のハードルを低くしてほしい』ということです。

 これは操作性の継承もそうですが、iモードなどのサービス面でも、今の携帯電話が実現している機能はスマートフォンでも使えるようにしてほしい。多くの社員に使ってもらうことを考えますと、今まで使っていたサービスが使えなくなるというだけで、IT部門のサポートの負担が大きくなります。ですから、スマートフォンへの移行ハードルを低くするというところに、キャリアやメーカーはしっかりと目を向けてほしいですね」(桝田氏)

 現在のスマートフォンを取りまく状況に目を向けると、ドコモではiモードに近い利用環境をスマートフォンに構築する「SPモード」を9月から提供開始するなど、携帯電話とスマートフォンの差は徐々に縮まりつつある。キリンのBlackBerry導入が局所的にでも大きな成果を上げたように、的確な導入と運用をすれば企業におけるスマートフォン導入効果は高い。BlackBerryをはじめとするビジネス向けスマートフォンは、今後、企業のモバイルIT投資で主役になっていくか――。引き続き注目していきたい。

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