年内に有料コンテンツも――世界的ARアプリ「Layar」は日本で飛躍するか

» 2010年09月06日 19時30分 公開
[山田祐介,ITmedia]

 現実環境にITを使ってデジタル情報を付加するAR(拡張現実)を活用したモバイルサービスは、頓智ドットの開発した「セカイカメラ」が日本では有名だ。しかし、世界に目を向けると、ドイツのmetaioが開発した「junaio」や、Mobilizyの「Wikitude」など、さまざまなサービスが登場し、知名度を高めている。

 オランダのLayar B.V.が提供している「Layar」も、世界的に認知度の高いモバイルARサービスの1つ。同サービスは、他のARアプリと同じく端末のカメラ映像の上にさまざまなコンテンツを重ね合わせるのだが、近くのコンビニが知りたければコンビニ検索、ホテルが知りたければホテル検索といった具合に、重ね合わせるコンテンツの種類をあらかじめ選択して利用するのが特徴だ。

photophotophoto さまざまなジャンルの中から見たいコンテンツをカメラ映像に付加できる。試しに「駅ドコ検索」を表示してみると(写真=中央)、位置情報には誤差があり完璧に駅の場所がつかめるわけではないが、大体の方向と距離は分かった。地図表示に切り替えることも可能だ(写真=右)

 Layarは現在、AndroidとiPhone向けに提供されており、アプリが利用できる国は100カ国に上る。そのうち日本を含めた40カ国以上で、パートナー企業の手によってその国ならではのオリジナルコンテンツが用意されているのも強みだ。また最近のトピックとしては、ロックバンドの大御所、ローリング・ストーンズがLayarとコラボレートし、ユーザーが新アルバムのポスターや視聴用の音声データを各地に投稿して楽しむというARプロモーションを展開した。


photo 田口槙吾氏

 日本ではシステム・ケイがオフィシャルパートナーを務め、アプリの日本語化や商用利用の窓口を請け負っている。「もっと上手くLayarをプロモーションしていきたい」と語るのは、システム・ケイでLayar事業の営業を担当する田口槙吾氏。セカイカメラが脚光を浴びる中、日本でいまひとつLayarの知名度が上がらないことを同氏はもどかしく思っている。一方、同社が地道に増やしてきた日本発のコンテンツは33ジャンルにのぼり、サービスのローカライズは着々と進んでいる。またLayarは今後、ソーシャルやゲームの要素を強化する方針で、コンテンツプロバイダーにとって興味深い動きを見せている。

iPhone対応でユーザーが「20倍」 日本向けLayarサービスの現状

photo ハルコム・スコット氏

 Layarの日本向けサービスは2009年8月に始まった。システム・ケイ社内で最初にLayarに目を付けたのは、営業企画部のハルコム・スコット氏。海外や日本の新技術を使った事業を企画する中で、Layar開発者が語るアイデアに心を動かされ、パートナーシップを結ぶことにしたという。

 当初はAndroidアプリのみを提供しており、国内で端末が出そろっていなかったこともあってユーザー規模は「くすぶっていた」(田口氏)という。しかし、iPhoneアプリをリリースしたことで状況は一変。ユーザー数は非公開だが、Androidのみに提供していた時の「20倍程度」にまでユーザーは増えた。また、Androidアプリに関しても、秋冬にかけて日本でも端末ラインアップが充実してくるはずで、今後もリーチできるユーザーは増えていくだろう。世界的にSamsungやLG ElectronicsのAndroid端末にLayarがプリインストールされはじめている点も、注目すべき動きだ。

 ユーザー参加型コンテンツが主なセカイカメラに対し、Layarはコンテンツプロバイダーが整備した情報を閲覧するのが主で、どちらかといえば実用性を重視したARアプリだ。多種多様なコンテンツが一度に表示されるセカイカメラと違い、コンテンツの種類を選んでからカメラをかざすという2ステップで目的のコンテンツが閲覧でき、こうした操作性がユーザーやクライアントから評価されているという。

 日本向けには、システム・ケイ自らが用意した駅や公共施設などの情報に加え、APIを使って取得したホテルや飲食店情報などの他社コンテンツや、「みんなのLayar」「Layarで記念撮影」などのユーザー参加型コンテンツなどが用意されており、「駅どこ検索」「コンビニ検索」「銀行検索」「Hot Pepper(グルメ)検索」など、衣食住に関わるコンテンツがユーザーに人気だ。

photo 「みんなのLayar」では、Webブラウザから任意の場所にコメントを投稿できる

 企業からは、商品のプロモーションに利用したいという要望が多いと田口氏は話す。2009年12月にはヒップホップアーティストのSEEDAさんとコラボレートし、Layarを使った先行視聴プロモーションを行った。東京タワーなど全国の3スポットにARの楽曲ジャケットを貼り付け、スポットに近づくと曲がストリーミングで流れたり、メッセージレターの映像が見られたりと、ユニークなプロモーションが展開された。そのほかにもネクストの提供する不動産情報や、中国放送の提供する広島平和公園向けコンテンツなどが商用コンテンツとして配信されている。

 ただ、スマートフォンというまだユーザーの少ないプラットフォームに向けたサービスのため、クライアントが「どれだけの利用者に使ってもらえるのか」という点で足踏みするケースも多いようだ。一方で、例えば工場の配管のメンテナンス個所にARコンテンツを浮かばせて保守整備に役立てるといった、「ビジネスの現場で利用する」ことを検討する企業もいるという。

年内に有料コンテンツ提供 ゲーム、アバター要素が加わる計画も

 今後の収益源として期待されるのが、コンテンツの有料販売。海外ではすでに、PayPalの決済システムを使ったコンテンツ販売が始まっており、犯罪多発スポットが分かるコンテンツや、テーマパーク向けのコンテンツなどが販売されている。日本でもこうした有料サービスを取り入れ、コンテンツプロバイダーがLayarに参画しやすい環境を作りたいと田口氏は考えている。年内にはユーザー課金の仕組みを整え、有料コンテンツを販売する計画だ。

 また、これまで実用的なコンテンツが主だったLayarだが、近々ゲームやソーシャルを強化する計画があり、ビジネスの幅が広がりそうだ。ゲームに関しては、すでに現状のLayar向けに迷路のコンテンツなどが登場しているが、今後は開発者がARゲームを作るのに役立つさまざまな機能がアプリに実装され、より手の凝ったARゲームが開発できるようになるとスコット氏は明かす。もちろん、課金の仕組みが整えばこれらのコンテンツを有料で販売できる。

 また、アバターを使ったサービスで、これまで手薄だったソーシャル性も強化されるようだ。システム・ケイではみんなのLayarとLayarで記念撮影という2つのユーザー参加型コンテンツを用意していたが、コンテンツの登録はWebサイト経由で、アプリ内でコンテンツを気軽に投稿できなかった。一方、新たに搭載されるアバター機能は、Layar B.V.がアプリそのものに組み込むソーシャルサービス。ユーザーが投稿したコメントがアバターの姿でAR空間に投稿されるという。

 このサービスで興味深いのが、アバターが「HP」(体力)を持っているという点だ。ユーザーは、AR空間で出会った役立つコメント(アバター)に対して“お菓子”を与えることができ、お菓子によってアバターのHPが回復する。一方、他のユーザーから支持されずにHPがなくなったアバターのコメントは消滅するという。つまり、優良なコンテンツを抽出するための仕掛けが備わっているのだ。そして同サービス向けに、例えば有名キャラクターのアバターを有料で提供するといった課金ビジネスが成り立つという。

 また、LayarのAR表現は、現状は端末の位置情報を基にコンテンツを配置する“位置情報型AR”だが、将来的には画像認識が加わり、GPSが使えない屋内などでもARが楽しめるようになるだろう。Layar B.V.は、画像認識による商品検索サービスを手掛けるkooabaとパートナーシップを結んだことを発表している。商用利用においては「屋内で利用できないために立ち消えた案件も多い」と田口氏は語るが、画像認識型のARが可能になることで、ECやプロモーションなどの商用利用が加速するかもしれない。

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