「Appleと戦うにはガラケーをAndroid化すべき」――夏野氏が考える日本携帯の“再生案”mobidec2010(2/2 ページ)

» 2010年11月26日 01時27分 公開
[田中聡,ITmedia]
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ケータイコンテンツは「月額課金」が大きい

 夏野氏は、日本でもAppleやGoogleなどのインターネットプレーヤーが主導権を握りつつあるとみる。「これまではキャリアが考えたサービスと端末をセットにしたものを提供していたが、2008年からはどのキャリアの発表会も同じような内容。3キャリアからiPhoneが出れば同じプレゼンになる。これはインターネットプレーヤーが進化の中心になりつつあることを示している」

 スマートフォンが普及すると、従来のケータイコンテンツの売り上げが下がるのではとみる向きもあるが、ケータイの加入者が減少してもコンテンツ市場はさらに増加している。「モバゲータウン」や「GREE」がアイテム課金で売り上げを伸ばしているのは記憶に新しい。加えて、課金方法がケータイとスマートフォンでは異なることが大きい。ケータイの有料サイトは月額課金が基本だが、スマートフォン向けアプリは1ダウンロードあたりの都度課金が大半を占める。「月額課金は当初は反対していたCPさんもいたが、今では感謝されている」と胸を張る。

 「月額課金だと(毎月の)収益をきちんと予測できるので、マーケティング費用を余計にかける必要がなくなった。スマートフォンの場合、ある月に50万ダウンロードされても翌月は分からないので、ずっとプロモーションを打たないといけない。1本900円のゲームなどもあるが、1回限りのダウンロードで済むので、なかなかビジネスとして成立しない。スマートフォンが普及しても、(スマートフォン向けアプリを手がける)CPには厳しい状況が続く。決してバラ色ではない」(夏野氏)

photophoto ケータイの加入者数は減少しているが、コンテンツ市場は毎年拡大している(写真=左)。スマートフォンのコンテンツは売り切り型が多いので、ユーザーあたりの売り上げはケータイコンテンツよりも小さい(写真=右)

らくらくホンよりGALAXY Sが安い?

photo スマートフォンの方が一般のケータイよりも安くなっている

 夏野氏は、日本でスマートフォンが普及した最大の要因は「端末価格」にあると話す。ドコモの場合、2年契約を条件にスマートフォンの端末代を割り引く「端末購入サポート」を導入しており、PRIMEやPROシリーズなどのハイエンドモデルよりもスマートフォンの方が安いという現象が起きている。実際、11月には「らくらくホン7」が4万5024円、「GALAXY S」が2万9064円で売られているという調査もある。「この前ケータイを買おうとドコモショップに行ったが、あまりにガラケーが高かったので買うのをやめた。安いからスマートフォンを買っている人は多いのではないか」と夏野氏は指摘する。

物作りから仕掛け作りへ

 これからの時代は「物作り」から「仕掛け作り」へ移行するというのが夏野氏の考え。「GoogleもAppleも物作りではなく仕掛け作りをやっているが、この2社は競争関係にはない。Googleはネット上のサービスを使ってもらって広告収入を得ることが狙い。Appleは端末とサービスを連携させた垂直統合で展開しており、ケータイメーカーと競合関係にある。ケータイメーカーは物作りだけをやってもAppleには勝てない」と苦言を呈した。

 夏野氏は「Appleと戦うためにはメーカーもネットワークサービスと連携させないといけない」と提言する。これまではメーカーが個別にサービスを作っていたが、あまり積極的ではなかった。「餅は餅屋に任せた方がいい」と話す同氏が着目したのがAndroidだ。「日本メーカーはAndroidの波に乗り遅れたが、OSが無料で提供されているので、キャリアももっと積極的にAndroidを展開すべき」。夏野氏が今最もやりたいことが「ガラケーをAndroid化すること」だという。このAndroid化が、物作りの枠を超えた仕掛け作りへつながると考える。

photophoto AppleはiPhoneやiPadなどの製品群をいっそう拡充し、OSはAndroidが標準化されることが予想される(写真=左)。ケータイ、Google、Appleの仕掛け。ケータイメーカーはどうすべきか?(写真=右)

キャリア、メーカー、CPがなすべきこと

 最後に夏野氏は「ニッポン再起動のために」というテーマでキャリア、メーカー、CPへ同氏ならではの提言を披露した。

 キャリアに対しては「通信アタマ」から「ネットアタマ」になるべきだと話す。「LTEについて聞いていると、昔の3Gを思い出す。通信速度が上がって何が変わるのかを誰も説明できない。スマートフォンが黒船のように言われているが、インターネットを積極的に取り入れたのは日本のガラケー。スマートフォンは実は原点回帰だ」とし、ネットサービスを最大限生かせるかどうかはスマートフォンがカギを握っていることを示した。

 「ビジネスモデルも再考すべきで、純増数よりも今のユーザーがどれくらいの通信収入をもたらすかが重要。純増と企業力は関係ないので、純増だけではもはや競争にならない」と言い切り、キャリア、メーカー、CPがもう1度WIN-WINの関係を作っていくことが大切だと考える。

 もう1つ、「(回線を提供する)土管屋になることがそんなに悪いことなのか?」との疑問も呈した。「皆(ドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル)の端末やネットワーク品質がすべて同じになると、全社の利益が33%に収れんされる。そうなると困るのが1位の企業」と話し、高品質な回線を提供し続けることが差別化をする上で重要とした。

 端末メーカーに対しては「日本で商売をする意識はもう成り立たない」と話し、積極的に海外進出すべきとの姿勢。「中国では日本のハイエンドモデルはスペックが高すぎるという声も聞くが、行きすぎたローカライズをすると差別化ができない。まだ競争猶予はあるので、自信のない経営者はマネージメントを変わった方がいいと思う」

 一方、CPが安易に世界進出をすることには否定的で、市場の見極めと、人材や資金などのリソースを確保することが重要とした。

photophoto キャリアとCPに向けた提言

 「日本はポテンシャルを使い切れないうちに負けそうになっているが、実際は我々が歩んできた道を世界が追いかけている。世界で採用されている技術を取り入れてエコシステムを作っていくことが大事」とげきを飛ばす夏野氏。日本のキャリアとCPが培ってきたコンテンツと、メーカーが培ってきた端末開発力にAndroidのプラットフォームが融合したときに、夏野氏の思い描く未来が現実になるのかもしれない。

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