「ライトなPCユーザーは、タブレットで十分になるだろう。例えば私の妻は、タブレットを使うようになってから、通販の利用頻度が上がった。PCは起動に時間がかかり、文字入力に抵抗があるが、タブレットならタッチ操作で簡単に注文できるという。しかし、すべてがタブレットになるとは限らない。例えばビジネス文書を作ろうとしたら、タッチ操作のみのタブレットでは逆に難しい。クリエイティブな分野では、まだまだPCが必要だ」(阿佐美氏)
スマートフォンとタブレット、そしてPCが、それぞれのコアバリューを生かした進化を遂げる一方、お互いの領域を補完する進化も進む。そして、この相互関係に新たに加わると予想されるのが、AV家電の代表格、テレビという存在だ。
「テレビについては、スマートデバイスのさまざまな分野でそれぞれのアプローチをしている。その結果がどうなるかは今後次第だが、テレビとはなんらかの関係が生じるのは間違いない」(阿佐美氏)
ここでもポイントになるのが、タブレットだ。阿佐美氏はタブレットについて、「家電各社から出ているポータブルDVDプレーヤーは、画面のサイズが10インチから7インチの間。おそらく7〜10インチというサイズが、ポータブル機で動画を見るために最適な大きさなのだろう。そしてこのサイズは、タブレットのディスプレイサイズと一致している」と、動画コンテンツの相性が良いことを強調。またスマートフォンとともに、マルチネットワークに対応している点も、動画コンテンツ向きだと指摘する。
「外では3GやLTE、屋内では無線LANという使い分けができるのが、スマートフォンやタブレットの利点。ブロードバンド回線を使った動画配信では、より安定してコンテンツが楽しめる。また自宅なら『リビングの大画面テレビで映画を見たい』というニーズも生まれる。HDMIケーブルでコンテンツをテレビに出力すれば、タブレットの領域はさらに広がる。またキャリアの製品なのに、モバイル通信網を使わないというビジネスモデルも生まれる」(阿佐美氏)
スマートフォンとタブレットの普及はコンテンツやライフスタイルの変革を呼び、そして、モバイルビジネスの変革を起こす可能性も秘めている。例えばiモードは国内専用のコンテンツだったが、iTunesやGoogle Play(旧Android Market)は全世界規模でコンテンツの配信が可能だ。グローバル化は単にキャリアやコンテンツプロバイダーだけでなく、ITビジネス全体からの影響も受けているという。
「GoogleやFacebookは世界で数億〜数十億規模のユーザーを抱え、無料の広告モデルを行っている。顧客の数は多いが、その質はまちまちだ。方やドコモは、国内で6000万という規模だが氏名や住所、そして決済も握っている。顧客の数は少ないが、質は高いと言えるだろう。しかし、Googleはコンテンツマーケットをリニューアルして有料の動画配信を始めた。またFacebookも独自の仮想通貨を提供している。世界規模のプレーヤーが決済情報を得ることで、顧客の数も質も高いという領域に踏み出しつつある」(阿佐美氏)
グローバル化するコンテンツビジネスに対応するため、ドコモはコンテンツプロバイダーへ、dメニューからGoogle Playへのホスティングサービスを提供している。国内でコンテンツをdメニューに登録すると、自動的にGoogle Playへも登録され、Googleの多言語対応やGoogle Walletを使った決済サービスなども利用できる。CPにとっては、dメニューとGoogle Playの2つに対応するより少ないリソースで海外展開できるのが魅力だ。
またドコモは、韓国のKTや中国のチャイナモバイルとは事業協力契約を結んでおり、各国の事情や先行するポータルにマッチしたコンテンツ配信の準備も整えている。
スマートデバイスの多様化と普及、それに対するコンテンツの最適化。阿佐美氏はその先に、フィーチャーフォン時代にはなしえなかったモバイルビジネスへの高い期待の実現があると話す。
「フィーチャーフォンの時代には、サービスやコンテンツ市場への期待は非常に高かった。しかし実際は、料金が高い、操作性が悪い、画面サイズが小さい、ネットワークが遅いという制約があり、現実の市場規模は想定よりも小さくなってしまった。スマートフォンやタブレットはそうした課題を改善しており、かつて期待された市場のいくつかを実現できる。フィーチャーフォンでは限界だったビジネスを、スマートフォンがブレークさせる日も近いだろう」(阿佐美氏)
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