CAの業務を変えた6000台のiPad、成功のカギは“iPadの導入を目的化しないこと”――ANAの林氏SoftBank World 2012(2/2 ページ)

» 2012年07月19日 22時16分 公開
[柴田克己,ITmedia]
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トライアル導入による「より確実な運用」がカギ

 端末としてiPadを選択した理由について、林氏は「ANAにおけるCAの業務スタイルに合致していた」点を挙げる。CAの場合、国際線乗務の際は最長で14時間近く、上空での業務を行うことがある。iPadは「特に、充電なしで長時間の利用が可能な点が業務に適していた」という。そのほか、ANAが定めているセキュリティポリシーに対応可能であった点、ユーザビリティの高さ、アプリケーションの充実によるさらなる業務改革の可能性などを考慮したとする。

 導入にあたっては、まず稼働開始までの期間を短縮することを主眼に、外部のサービスを活用する前提で業務設計を行った。電子マニュアルの配信や端末管理などのシステムについてはソフトバンクモバイルが提供するサービスを活用した。

Photo 全体のシステム構成。企画当初より外部のサービスを活用する方針で構成を検討した

 また、運用時の故障、障害対応や問い合わせ受付などのユーザーサポート業務については、ANAコミュニケーションズで一元管理をしている。端末のキッティングや配送、アプリケーションやOSのバージョンアップ管理については、ソフトバンクモバイルが行う体制にすることで運用業務の合理化を図っている。

 企画から本稼働に至る間には「トライアル」として、先行で700台のiPadを導入・運用する期間を設けたという(2011年10月〜12月)。先行導入に参加したCAには、単にiPadを使った業務に慣れてもらうだけでなく、使い勝手などに対するフィードバックも求めた。さらに、先行導入ユーザーに本格展開時の教育係的な役割を担ってもらうことで、確実な運用が行えるよう配慮したという。林氏は「導入前は、すべてのCAにきちんとiPadを使ってもらえるかどうかに多少の不安もあったが、実際に導入してみるとすんなりと使ってもらうことができた」とこれまでのプロセスを振り返る。

Photo 本格導入以前にトライアル期間を設けることで本運用が確実に行えるよう考慮した

さらなる業務改善、そして顧客サービスの向上が目標

Photo 実際にiPadを活用して業務を行っている関口CA。主に動画での業務動作の確認が容易な点や、世界中どこでも業務連絡を受け取り保存できる点などがサービス向上をサポートするポイントになっているという

 ANAでは、CAが本格的に利用を開始したiPadの活用をさらにすすめることで、今後は「顧客サービスの向上」や「さらなる業務改革」を実現していきたいとしている。

 顧客サービスの面では、例えば搭乗客に関する過去の利用状況やサービスに対する嗜好を把握するといったCRM的な活用、機内食メニューなどをはじめとするサービスでの画像や映像の利用方法などを模索しているという。こうした形で顧客サービスの質を高めることで「グローバル基準の高品質なサービス提供を実現したい」とする。

 また業務改革の部分でも、さらに業務効率を上げ、質を高めていくためにできることは残されているという。例えば、これまで地上で行っていたデスクワークを乗務の合間に処理できる環境の構築、スタッフ同士のコミュニケーションの活性化、乗務報告や業務指示のスピードアップといった活用が考えられるとする。今後は、整備等にかかわるスタッフなどへの適用も視野に入れているという。

 林氏は、今後iPad等のスマートデバイスを業務に活かしたいと考えている企業に向けてのアドバイスとして「Think Big」「Start Small」「Keep It Simple」の3つのフレーズを挙げた。ポイントは「iPadの導入を目的化するのではなく、あくまで必要な業務改革に主眼をおいて、その実現に最適なツールを選択すること」「最初から多くの要素を詰め込みすぎないこと」「複雑になりすぎないよう、徐々にステップアップしていくこと」である。加えて「今後ANA機に御搭乗いただければ、そこでCAがiPadを操作している様子を実際に目にする機会があるだろう。それを見ていただくのが、iPadの導入検討において、よりリアルに役立つ情報になると思う」と述べ、講演を締めくくった。

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