スマホ品質のサイトをフィーチャーフォンでも展開したい、コスト削減と運用の効率化も図りたい――。JALが旅行パッケージサイトのモバイル化にあたって出した要望をクリアしたのがシンメトリックのソリューションだった。
2012年4月、JALグループが提供する国内旅行のオリジナルパッケージサービス「JALダイナミックパッケージ」が、モバイルサイトからの予約・購入に対応した。このサービスは、JALグループの国内線航空券と全国3万以上の宿泊プランをユーザーが自由に組み合わせて作成できるもので、一般旅行者はもちろん、出張族にも好評を博している。
今回、スマートフォンとフィーチャーフォン(従来型携帯電話)の両方に対応したサイトを構築するためにJALが導入したのが、シンメトリックのコンテンツ変換エンジン「ラウンドアバウト ビヨンド」だ。
「モバイルサイトを通じた旅行商品の販売」というミッションにおいて、なぜコンテンツ変換エンジンというアプローチが必要だったのか。そして、ラウンドアバウトはJALグループの求める機能と品質を十分満たすことができたのか。サイト構築にあたった日本航空 web販売部 販売グループの長谷川淳氏、IT企画部 旅客サービスグループの支倉進氏、旅客システム推進部 旅客システムグループの由野正剛氏に聞いた。
JALダイナミックパッケージは、従来のパッケージツアーに比べて、選べる飛行機の便やホテルの選択肢が格段に広く、Web上で予約・購入を完結できるサービス。価格は空席・空室状況に応じたダイナミック(動的)な設定となっているため、多くの場合、航空券と宿泊を別々に手配するより安く購入できる。旅程を好きなように組める個人旅行と、利便性や価格面で有利なパッケージツアーのメリットを兼ね備えたような商品であり、近年注目を集めている。
従来型のフルセットのパッケージツアーであれば、ツアー内容や旅先の情報などを詳しく説明できる対面販売や、ビジュアルイメージを前面に出せるパンフレットなどにまだまだ分があるが、ダイナミックパッケージのユーザーは、交通手段と宿泊を手早くリーズナブルな価格で手に入れたいビジネスユーザー、若者、その他旅慣れた層が中心であるため、必要なときにすぐに価格をチェックできるモバイル端末と相性がいい。JALグループでも航空券の単体販売でモバイルサイト経由の売上が増え続けており、ダイナミックパッケージの販売をモバイルに拡大するのは自然な流れだったという。
この時期にモバイルサイトへの対応を図るのであれば、いうまでもなくスマートフォンへの完全対応が求められる。スマートフォンユーザーはモバイル機器や関連サービスを積極的に活用しており、この層に向けて使い勝手の良いユーザーインタフェースを備え、豊富な情報量を持ったサイトを提供するのは必要不可欠だった。
とはいえ、フィーチャーフォンユーザーもないがしろにはできない。いくらスマートフォンユーザーが急増しているといっても、その所有率は現状では5割に満たず、半数超の人々がフィーチャーフォンを使っているからだ。特に、JALダイナミックパッケージの主要顧客層であるビジネスユーザーをもれなく取り込むには、スマートフォンの普及が進んでいる20代・30代のみならず、その上の世代に向けても使いやすいサービスを提供する必要がある。そのため、今回のモバイル対応にあたっては、スマートフォン、フィーチャーフォンのどちらかを軸にするのではなく、両方のユーザーに最適なサービスを提供することが求められた。
もう1つ、JALダイナミックパッケージのモバイルサイトに求められたのは、手間をかけずに表現力豊かなWebサイトを構築することだ。宿泊施設の選択も含むJALダイナミックパッケージでは、実際に寝泊まりするホテルの部屋や外観、館内のアミューズメント施設などの写真を交えてプランを詳しく紹介する必要がある。つまり、古い携帯電話から最新のスマートフォンまで幅広く対応しながら、画像を豊富に使った表現力の高いWebサイトを構築する必要があったわけだ。
このような要求を満たそうとする場合、iモード、EZweb、Yahoo!ケータイに対応したフィーチャーフォン用サイトと、スマートフォン用サイトを用意するといった具合に、携帯電話の種類に応じた複数のWebページを用意するのが一般的だ。しかし、ダイナミックパッケージの商品内容はその名の通りダイナミックに変化し、宿泊プランも頻繁に入れ替わる。その都度、各機種ごとのWebページを制作するのはあまりに非効率であり、何万もの宿泊プランを取り扱うJALダイナミックパッケージにおいて、このような運用方法を採るのは現実的ではなかった。
このため、同社がサイト開発当初から導入の前提としていたのが、“1つのHTMLソースを元に複数のWebページを自動で生成するコンテンツ変換ソリューション”だった。今回、サイト構築に採用したシンメトリックの「ラウンドアバウト」シリーズは、HTML5やCSS3といったWebの最新技術を利用してスマートフォン用のモバイルサイトを1つ構築すれば、あとはサイトにアクセスしてくる携帯電話の機種に応じて、変換エンジンが自動で最適なソースや画像を出力するシステムだ。
今回のサイト構築にあたってJALが、複数のコンテンツ変換ソリューションを比較・検討したところ、コンテンツ変換の品質、そしてシステムの機能や構成においてもラウンドアバウトが最適だったという。
他の製品の比較において、すぐに大きな違いとして分かったのが画像の取り扱いだった。例えば、古い機種から新しい機種まで、すべての携帯電話で画像が表示されるよう古い機種を基準にした軽量な画像ファイルでページを制作すると、大型ディスプレイを搭載した最新のスマートフォンには、解像度の低い写真が小さく表示される形になってしまう。これを防ぐため、ラウンドアバウトはスマートフォン用の最大サイズの画像1枚を元に、端末の画面解像度に合わせて最適なサイズに画像を変換して出力できるようにしている。
候補に挙がった他のソリューションでは、リサイズによって画質が低下したほか、そもそも画像を縮小する機能がないために複数の画像をあらかじめ手動で登録する必要があるなど手間がかかる仕様だったが、ラウンドアバウトなら一切手間をかけずに、スマートフォンはもちろんフィーチャーフォンに対しても宿泊施設のビジュアルを十分に伝えることができた。また、HTMLタグについてもモバイルサイトだからといって特殊な対応をする必要はほとんどなく、仕様通りの書き方でページを制作すれば、どの機種に対しても満足のいく表示結果が得られたという。
さらにJALダイナミックパッケージサイトは、旅行パッケージの販売サイトという性質上、単にWebページが正しく見られれば良いのではなく、商品情報、顧客情報、決済といった異なる機能を持つ複数のサーバと連携し、どのサーバから出力される情報も一定の品質で表示される必要があった。メンテナンスやバックアップのためにサーバは冗長構成となっており、すべてのサーバに対して個別に変換エンジンを導入するとなると、導入や管理の手間が大きくなる。この点においてもラウンドアバウトは、Webサーバへの組み込み型の製品に加え、複数サーバからの出力を一括して変換できるプロキシサーバ型ソリューション「ラウンドアバウト ビヨンド」が用意され、大規模なシステムを運用するJALグループのニーズに適していた。
加えていえば、コンテンツ変換用のプロキシサーバを社内に設置し、自社のシステムとして運用できることも重要だった。最近ではコンテンツ変換の機能をクラウド型で提供するサービスも増えているが、旅行の予約・販売サービスではユーザーの個人情報を取り扱うため、それらが社外のシステムを経由せず自社内で完結することも求められていた。
サイト全体では半年以上にわたる開発プロジェクトだったが、ラウンドアバウトの導入に関する作業はそのうち最初の1カ月以内に完了しており、スケジュールに影響を与えることなくスムーズに導入できた。4月のサービスインから4カ月あまりが経過した現在まで、ラウンドアバウトは問題なく動作しており、サーバのリソース消費も当初の想定内に収まっているという。
コンテンツ制作においても、Webページのソースの記述にあたって大きな問題は発生しておらず、仕様書だけでは解決方法が分からない場合でも、問い合わせるとすぐに回答が得られるため安心して導入できたという。サポート対応の早さは特に印象的だったようで、支倉氏の口からは「いつもすぐに対応してくれるので助かった」という声が何度も聞かれた。
JALダイナミックパッケージのモバイルサイトでは、ごく一部の機能で機種別のサイトを用意した以外、すべてラウンドアバウトの出力が用いられており、表示に関するトラブルや品質面での不満はないという。
今回、プロキシサーバ型のラウンドアバウト ビヨンドを導入したことで、今後JALグループの他のサービスでもこの資産を利用することができる。ラウンドアバウトがJALグループの中で活躍する領域は、さらに拡大しそうだ。
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提供:株式会社シンメトリック
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia プロフェッショナルモバイル編集部/掲載内容有効期限:2012年9月30日