データセンター同士を接続する基幹ネットワークをゼロから再設計しよう連載/データセンターの電力効率、コスト効率を上げるには(3)(2/2 ページ)

» 2012年08月28日 09時15分 公開
[中村彰二朗/アクセンチュア,スマートジャパン]
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首都圏一極集中は危険

 危機管理という面から考えても、データセンターやIXが首都圏に集中している状況は一刻も早く変えなければならない。東日本大震災では、首都である東京が災害をこうむる、あるいは直接こうむることはなくても災害の影響を大きく受けるような事態になると、日本全国が混乱してしまうという問題が浮き彫りになった。

 これは、データセンターが首都圏に集中しているという問題に加えて、基幹ネットワークが東京からスター状に各地方に伸びており、各地域同士で通信するにも、一旦東京を経由しなければ、通信できないネットワーク構成になっているからだ。

 東日本大震災では、日本各地の企業の活動が混乱した。一因としてサプライチェーンマネジメント(SCM)のシステムが挙げられる。多くの日本企業がSCMを導入し、在庫をなるべく最小限に抑え、部品の調達先を一本化するなどの活動で効率の良い経営を進めてきた。

 しかし、サプライチェーン上の一部が機能しなくなることで、生産活動は止まり、製品を出荷できない状況に陥り、サプライチェーン全体が機能不全を起こしてしまう。東日本大震災発生後に実際にこういう状況に追い込まれた企業は少なくない。適正分散在庫の観点からSCMの考え方を改める必要がある。

社会インフラのグリッド化構想のための施策

 これからは、データセンターを含むIT全体で東日本と西日本でディザスター・リカバリー(コンピュータシステムに深刻なトラブルが発生した後の原状復帰)の体制を構築すべきであるし、日本全国分散配置のクラウド環境の展開を推進するべきである。まず、物理的ディザスター・リカバリーは太平洋側と日本海側で自治体ごとに事前に支援ペアを組み、普段から連携しておくことが重要である。また、インフラを二重に持つのではなく平常時には最先端のスマートシティ環境、災害時には緊急対応可能なインフラ環境となる、インフラストクチャのあるべき姿としての社会インフラのグリッド化を完成すべきである。例えば、以下のようなネットワークを構成すれば、災害時の被災地支援に対応できるシステムを作れる。

 まず、各家庭やビルにあるゲートウェイに蓄電池とGPSを内蔵させ、個別の識別番号を持たせる。さらに、スマートメーターと連携させる。これで、家庭やビルの状態がリアルタイムに把握できるようになる。

 次に、テレビ放送の地上波デジタルへの移行により利用可能となった、「ホワイトスペース」の周波数帯の電波を活用して、災害時に利用することを想定した、無線ネットワーク網を構築する。

 さらに、コンテナを利用したモジュール型の移動式基地局を災害発生時に配備できるように準備しておき、緊急通信手段をいつでも用意できるようにしておく。これで災害発生時はゲートウェイを経由して各家庭やビルの被災状況を把握できる。

 被災状況のデータを収集できれば、どこにどのような人々が、何人避難しているか、という被災地の状況をおおよそつかむことができ、日本全国に分散している救援物資を素早く、必要なだけ避難場所に届けられる。国民IDとの連携が可能になれば、年齢や持病などの情報を活用できる。こうなれば、救援物資を配送するにも、必要な量を精密に見積もれるし、医薬品が必要な人に医薬品を素早く届けることもできる。

業者が相乗りするデータセンターパーク構想

 ここまでは個別のデータセンターと、データセンター同士を結ぶ基幹ネットワークのあるべき姿を説明してきた。アクセンチュアは、複数のデータセンター事業者が土地や発電設備などを共有できる「データセンターパーク構想」を提案している。

 データセンターパークとは、電力設備、発電設備、基幹ネットワーク配線などの設備をすべて備えた施設(パーク)を用意して、データセンター事業者に共用してもらうという構想だ(図3)。電力、発電設備には、風力発電、水力発電、山林未利用材を使用したバイオマス発電などの自然エネルギーを積極的に活用していくことを想定している。データセンター事業者はサーバを詰め込んだコンテナをデータセンターパークに持ち込んで、電源とネットワークを接続するだけでサービス提供を始められる。

図3 データセンターパークの完成予想図。基幹ネットワークや電源設備などは複数のデータセンター事業者で共用する。事業者はモジュール型のデータセンターを持ち込めば良い(出典:アクセンチュア)

 データセンターパークは、「官民のパートナーシップ」、つまりPPP(Public Private Partnership)の形態で運営するのが望ましいと考える。共同出資で必要な設備を用意し、事業者間で共用することで、参加者から見ると設備投資を減らすことが可能になり、事業リスクを軽減することができる。その結果、データセンター利用コストをさらに下げることも可能になるだろう。共同出資で用意する設備は、連載第2回で説明したような無駄を省いたものにすべきであることは言うまでもない。

 データセンター事業者に環境性能の改善を求める条例が、東京都を始めとする首都圏の自治体で施行されているが、そもそも個々の事業者が自身の投資で環境性能改善を進めることは現実的なのだろうか? データセンターパークを作れば、企業から見るとデータセンターパークに参加するだけで環境性能を大きく改善できる。参加する企業すべての環境性能をまとめて、大きく改善できるので、政策実現のスピードを速めることができるのだ。

パーク内で横の連携が発生する

 データセンターパークで、各事業者が設備を共用するようになると、事業者同士の横の連携が発生すると期待できる。例えば電子カルテなどの医療関連のクラウドサービスを実現するには、事業者間で認証、サービス、データなどを高いセキュリティレベルを保ちながら、簡単に連携できるようにすることが鍵となる。

 データセンターパーク参加企業はパートナー関係となり、事業者間のサービス連携が容易となる。このようなデータセンターパークを国内に複数展開し、データセンターパーク間で簡単に連携できるようにしておけば、日本のクラウドサービスプロバイダーも米国の大手クラウドサービスプロバイダーと引けを取らないスケールでサービスを提供できる。

 サービス事業者が注力すべき点は、安価に利用できる便利なサービスを提供することであり、インフラの準備ではない。サービス事業者は投資の大半を、世界に通用するサービスの開発に振り向けるべきだ。インフラであるデータセンターの整備は専門業者に任せれば良い。つまり、データセンター事業者は連携して、データセンターの効率を向上させていくべきだと提案したい。データセンターパーク構想は、そのためにも推進すべきモデルであると考える。

 アジアのデータセンター拠点としてシンガポールや韓国が注目を集め、世界各国の企業が利用し始めているが、高コスト体質の日本のデータセンターは、世界各国の企業がアジアにおけるデータセンター拠点を選定するときに、検討のテーブルにすら乗らない。コストがかさむ東京にデータセンターがある前提で戦っているから、候補にも挙がらないのである。

 すべてのデータセンターを東京から撤去することはできないが、日本全体に分散させ、上記のデータセンターパークのようなデータセンター事業者同士で設備を共用するモデルを現実のものにすれば、日本のデータセンター利用料は下がり、海外企業の利用を促進することにもつながるのではないだろうか。

 第4回では、世界各国とつながる基幹ネットワークと東日本大震災後の日本のあるべき姿について考えてみたい。

連載第4回:日本はアジア各国と世界を結ぶハブを目指すべきだに続く

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著者プロフィール

中村 彰二朗(なかむら しょうじろう)

アクセンチュア 経営コンサルティング本部 シニア・プリンシパル。アプリケーションパッケージ開発・製品化を経験し、その後、政府自治体システムのオープン化とそれに伴う地方ITベンダーの高度人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルの確立に尽力。現在は、東日本大震災後にアクセンチュアが会津若松市に設置した「福島イノベーションセンター」センター長として現地に赴任し、地域復興施策実現に向けた活動に取り組んでいる。


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