日本はアジア各国と世界を結ぶハブを目指すべきだ連載/データセンターの電力効率、コスト効率を上げるには(4)(2/2 ページ)

» 2012年09月10日 09時15分 公開
[中村彰二朗/アクセンチュア,スマートジャパン]
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アジア各国のために

 太平洋間をつなぐ海底ケーブルについては前述したが、これからは、海底ケーブルのネットワークを考えるときは、アジア各国との関係を重視しなければならない。ベトナムやシンガポール、タイといった、産業が盛んな国と日本をつなぐ海底ケーブルを拡張すべきと考える。先に挙げたような産業が盛んな国では、企業活動が盛んになり、コンピュータが処理すべきデータが大量に発生する。その結果、通信網を行き交うデータの量も大量になる。今後、アジアは世界でも最も大量のデータを発生させる地域になる可能性が高い。

 このようなことを考えると、日本はアジアの中でデータ通信のハブという役割を担うべきだろう。アジア各国と日本を接続する海底ケーブルを整備、増強し、日本国内においてはデータセンターの利用効率を高め、インターネット経由で日本のデータセンターを使ってもらう環境を整える。さらに、日本から米国、ロシア、ヨーロッパに伸びる海底ケーブルを整備することで、アジア各国の企業は日本を経由して世界各国と高速に通信できるようになる(図3)。

図3 アジア各国と日本を結ぶ海底ケーブルを増強し、ヨーロッパやロシアとつながる海底ケーブルも整備することで、アジア各国からの通信は日本を経由して世界中に流れるようになる。こうなれば、日本は情報通信のハブとなれる(出典:アクセンチュア)

 日本は新幹線や原子力設備、そして水道設備など、社会、経済インフラの品質の高さを打ち出して、アジア諸国にパッケージとして提供してきた。データセンターも、同じように品質の高さ、便利さを打ち出して、ネットワーク越しに日本からサービスを提供できることをアピールすべきだ。

 必要ならばODA(Official Development Assistance:政府開発援助)予算を組み替え、アジア新興国向けにデータセンターや海底ケーブルといった環境増設に投資を振り向けることも考えなければならない。その結果、新興国に向けて日本のデータセンターのサービスを無償で提供することも可能になる。開発援助とは、巨大な建物を建てることに限らない。地域の産業を振興するということを考えれば、情報通信サービスという形の援助もあって良いのではないだろうか。

 アジア諸国の利用者が増えれば増えるほど、国内の関連産業も成長できる。情報通信戦略を政府の成長戦略と連動させ、「最も安心安全な国、ニッポン」を打ち出し、アジアの情報ハブ化を実現すべきである。その受け皿となるのが、第3回で解説した、クラウドデータセンターパークである。

政府が主導すべき

 データセンターを日本全国に分散配置させることが重要だと説明してきたが、民間企業の計画による回線敷設計画に従うだけでは実現は難しい。政府が国内のネットワーク整備計画を定めた政策を用意しなければ進行しない。

 例えば東京都内でのデータセンター利用を目的とした専用線を確保しようとすると、その価格は月額400〜500万円程度になる。これでも決して安いとは言えないが、東京から離れれば離れるほど、専用線の価格は上がっていく。月額料金のけたが1つ上がることも珍しくない。これでは、データセンターを地方に配置しようという事業者はなかなか現れない。

 日本では、住宅向けの高速インターネット接続回線は広く普及し、日本全国、どの場所でも同じ価格で利用できるようになった。しかし法人向けの接続線は、場所によって利用料金が大きく変わる。東京から離れると利用料はかなり高くなってしまう。これも、データセンターが首都圏に集中する理由と言えるかもしれない。さらに、ネットワークを相互に接続するIXが首都圏に集中しており、分散できていない。その結果、東京一極集中から脱却できないでいる。日本では、国内の基幹ネットワークのデザインも満足にできていないのだ。

 アジア情報ハブ構想を実現し、成長戦略を軌道に乗せるには、ネットワーク関連企業と政府が協力して国家戦略として取り組む必要がある。

 日本政府は近年、国内戦略にばかりエネルギーを使ってしまっている。世界の中のアジア、そしてアジアの中で日本がどのように主導権を取っていくかということを考えることなく放置してしまっている感がある。まずは、日本として世界各国を相互に接続するネットワークのあるべき姿を考え、しっかりとした戦略を立てて投資するべきだ。

 アジア諸国では、コンピュータや情報通信技術の整備が急ピッチで進んでいる。アジア諸国を「ジャパンクラウドサービス」のユーザーとして迎えるには、しっかりとした戦略と、それに従った投資が必要だ。その結果、日本は情報通信、データセンターの世界でアジアのハブという地位を獲得できるのだ。

 日本は、東日本大震災という未曾有の大災害を経験し、さまざまなことを思い知った。首都圏に災害の影響が及んだらどうなるかということは、多くの人が想像できることだったが、実際に経験するまでは「そんなことは起こるはずがない」「それほど大したことにはならない」などと、甘い想定しか立てられなかった。

 今後、日本は東日本大震災で思い知らされた多くのことから学ばなければならないし、学んだことを実践して、日本の復興を一刻も早く成し遂げなければならない。復興の過程では今後起こり得る災害に備え、日本全体をデザインし直し、災害に強い構造にしていかなければならない。

 日本全体の再デザインでも特に重要なポイントは、首都圏一極集中との決別だ。今や、コンピュータと情報通信システムがなければ、企業活動というものは成り立たない。東日本大震災発生時は、データセンターや情報通信システムの要が首都圏に集中していたため、日本全国で企業活動に支障を来す企業が続出した。

 政治、金融、産業、消費のほとんどの機能が集中する東京。しかし、東京は単独で都市としての機能を果たすことはできない。東京は地方の各都市と相互に依存し、もたれあう関係にある。

 大震災では、東北の工場が止まってしまい、最終製品の仕上げができないという状況に追い込まれる例が見られた。その結果、大消費地である首都圏に製品を安定して出荷できないという事態に陥り、首都圏では必要物資の買いだめに走る消費者も少なくなかった。

 情報通信網やデータセンターだけでなく、交通網、輸送網も首都圏一極集中モデルとなっている。東日本大震災は、一極集中モデルの脆さと、一極集中モデルが崩れた時に日本全国に及ぶ影響の大きさを思い知らせてくれた。

 今後各企業は、手がけている事業それぞれについて、「本当に東京を拠点にしなければならないのか?」ということを考え直し、地政学的、環境政策的、成長戦略的観点から、各地域への分散再配置を検討すべきである。効果的な分散再配置によって、災害に強い日本を実現できるだけではなく、日本各地の産業振興や雇用促進にもつなげることができるようになるはずだ。

 全4回にわたって、日本におけるデータセンターにあるべき姿について解説してきたが、今回でこの連載は終了とさせて頂く。この連載が日本の復興、再生に役立てば幸いだ。

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著者プロフィール

中村 彰二朗(なかむら しょうじろう)

アクセンチュア 経営コンサルティング本部 シニア・プリンシパル。アプリケーションパッケージ開発・製品化を経験し、その後、政府自治体システムのオープン化とそれに伴う地方ITベンダーの高度人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルの確立に尽力。現在は、東日本大震災後にアクセンチュアが会津若松市に設置した「福島イノベーションセンター」センター長として現地に赴任し、地域復興施策実現に向けた活動に取り組んでいる。


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