照明環境を使い分けて仕事の能率を上げる節電しながら快適かつ創造力を発揮できる照明環境(4)

前回は照明の色と強さによって、照明環境を「パキパキ」「イキイキ」「ユッタリ」「ニュートラル」の4種類に分類した。最終回では、仕事内容に応じて4種類の照明環境を使い分ける実例を紹介する。最後に、照明環境を変えても安全を確保できるように注意してほしいことを解説する。

» 2012年12月25日 13時00分 公開
[八木佳子/イトーキ,スマートジャパン]

連載第1回:節電に成功しても、不快と感じる照明環境は失敗作

連載第2回:人間の光に対する感じ方も利用して、明るく見せる

連載第3回:照明の「色」と「強さ」を使い分けると仕事がはかどる?

 前回、照明の色温度(光色)と強さ(照度)によって、照明環境を「パキパキ」「イキイキ」「ユッタリ」「ニュートラル」の4種類に分類した(図1)。仕事の種類、目的、状況などに応じて4種類の環境を使い分ける例を紹介しよう。

図1 「パキパキ」「イキイキ」「ユッタリ」「ニュートラル」の各環境と、照度、色温度の関係。出典:イトーキ

 会議にはいろいろな種類があり、それぞれ目的が異なるものだ。例えば、定期的に集まって情報を共有するための打ち合わせ。結論を出そうとはせず、アイデアを出し合うブレインストーミング。集まった情報を吟味して、何らかの決定を下す会議。このように目的が異なれば、参加者の思考の方向は発散あるいは収束のどちらかに変わる。

照明環境を切り替えて気持ちよく会議に参加してもらう

  • 定例会議

 まずは週に一度など、決まったスケジュールで実施する定例会議を想定してみよう。この種の会議の目的は、連絡事項の伝達やメンバー間で情報を共有するなど、事前に決まっていることがほとんどだ。

 参加するメンバーも決まっていて、気心も知れた仲だ。つい雑談で時間を無駄につぶしてしまうこともある。しかし、定例会議は手際よく終わらせたい。メンバー同士で雑談する機会はほかにいくらでもある。

 定例会議では4種類の環境のうち「パキパキモード」(高照度・高色温度)を使おう。色温度が高い青白い光を強く照らす環境では、人間は集中力を発揮しやすい。会議がだらだらした話に流れてしまうことも少なくなる。時間を短く感じさせる効果もあるので、効率良く会議を進められるはずだ。

 議題が多く長時間かかることが目に見えているようなときは休憩をはさみ、照明環境を切り替える。休憩時は「ユッタリモード」(低照度・低色温度)か「ニュートラルモード」(低照度・高色温度)でリラックスしてもらう。長い時間照度の高い照明に照らされていると、集中し続けてしまって疲れてしまうものだ。そもそも、人間が集中力を保てる時間はそれほど長くない。

  • アイデア会議

 一般的なアイデア会議は、複数の過程を経て最終的な目的に到達するものだ。例えば次のような過程を踏む会議が考えられる。初めにプロジェクトの目標や、今日の会議の目的をメンバー全員で確認しあう。次はアイデア出しのブレインストーミングだ。アイデアが出そろったら整理してブラッシュアップしていく。最後にアイデアをグループごとに分類したり、投票するなどの方法でまとめる。

 このようにアイデア会議ではブレインストーミングのように思考を発散させる場面と、アイデアをまとめるときのように思考を集中させる場面がある。会議の過程に応じて照明を切り替えることで、参加メンバーの思考の方向を変えやすくなり、会議を進めやすくなる。

 最初の目標確認のときはニュートラルモードにしておき、アイデア出しのブレインストーミングに入ったら「イキイキモード」(高照度・低色温度)に切り替える。照度は高いが色温度は低い照明環境では、人間は仕事がはかどるように感じるだけでなく、リラックスしやすい。自由に思い付きを発言しあうアイデア出しにぴったりの環境だ。

 アイデアをブラッシュアップするときも、イキイキモードなら自由な意見を交わしやすいので、議論が盛り上がる。しかし、いつまでも議論が盛り上がっていては話がまとまらない。アイデアをまとめる段階に入ったら、パキパキモードに切り替えよう。たくさん出たアイデアを、効率よく収束させることができるだろう。

  • 顧客へのプレゼンテーション

 次は顧客を相手に自社製品をアピールするプレゼンテーションを披露し、その後に製品に関して議論する場面だ。ここでは顧客を自社に招く状況を想定する。

 プレゼンテーション前の顔合わせでは、すでに何度も会っている人もいれば、初めて会う人もがいるだろう。初めて会う人が決定権を握っているということも考えられる。顔合わせの場面では、ユッタリモードでお迎えしよう。初対面の人と顔を合わせることによる緊張が多少なりとも和らぐ。

 顔合わせの後はプレゼンテーションを披露し、製品について議論する。ここではその日の目的によって照明環境を使い分ける。製品のことを知ってもらい、よい関係を築くことを目指しているなら引き続きユッタリモードだ。顧客から次の展開につながる意見をいろいろ聞き出したいならイキイキモードにして議論を盛り上げやすくする。話の方向と場の雰囲気を合わせた方が相手は快適に感じ、気持ちよく話してくれるだろう。

ある管理職の1日

 次はあるオフィス・ワーカーの1日を想定して、仕事内容に合う照明環境を考えてみよう。想定するオフィス・ワーカーは管理職で部下の面倒を見ながら自分自身の業務もかかえるプレイング・マネージャーとしよう。

 例えばこんな一日を想定する。朝9時前に出社、自席でメールのチェックなどを済ませ、定例会議に出席。会議後は自席に戻って進行中のプロジェクトに関する中間報告書を作成する。昼休みを挟んで、新規事業の企画会議に参加。再び自席で少し作業をした後、部下との面談だ。夕方になったら日報を作成し伝票を処理をして帰宅する(図2)。

図2 あるプレイング・マネージャーの1日のスケジュール。出典:イトーキ

 一般的なオフィスなら、昼休みに節電で消灯する以外は、出社から退社まで、どこでもほぼ均一の白っぽく明るい照明だろう。

 1日の業務に合わせて、それぞれ適切な照明環境を当てはめたのが図2だ。基本的に、個人で処理する業務はニュートラルモードで落ち着いてこなす。個人席や集中するためのブースがあり、照度や色温度を変えられるタスクライトがあるなら、パキパキモードやイキイキモードにするのもよいだろう。ただし、「ここ一番」という集中力を要する作業に限って使おう。はかどるからといってあまり多用すると、どっと疲れるなどの問題が発生する。

 部下との個人面談では、会議の場では聞けない本音を聞きたいものだ。しかし、緊張を強いるような雰囲気を作ってしまっては、部下は安心して相談できなくなってしまう。ユッタリモードの場所でお茶でも飲みながら話をすれば、腹を割って本音を話してくれる可能性が高くなるだろう。

図3 あるプレイング・マネージャーの1日のスケジュールに、業務に合った照明環境を当てはめた図。出典:イトーキ

 会議の例とオフィス・ワーカーの1日の例を振り返ると、1日の中で照明の照度を上げなければならない場面はそれほど多くないことが分かる。一般的なオフィスのように1日中色温度も照度も高い照明環境にすることは、電力の無駄遣いとも言える。

 場所や場面によって照度と色温度を切り替えることで、消費電力量を削減でき、働く人が創造力を発揮しやすく、高い生産性で成果を出せる環境を作れるのではないだろうか。どんなに忙しい人でも、朝から晩まで途切れずに高い集中力を維持できるわけがない。照度と色温度を変えて、メリハリを付けて働いた方が大きな成果を出せると思う。

安全を忘れてしまっては元も子もない

 最後に、照明環境を変えるときに何よりも注意してほしい「安全性」を確保する方法を説明したい。「全体が白くて明るい」オフィスの照明環境を変えて、タスク&アンビエント照明を採用したり、パキパキモードとユッタリモードを切り替えたりすることを考える前に、環境の変化によって安全性が損なわれたり、通路や目印が見にくくなってしまわないか十分気を付けてほしい。

 節電しながら業務の能率が上がり、創造力を発揮しやすくなったとしても、事故が起きてしまったら元も子もない。例えば床の段差がある部分などは、きちんと見えるように明るくすることが重要だ。

 しかし「きちんと見える」と感じる明るさは人によって異なる。安全を確保しながらタスク&アンビエント照明を導入したり、光色と照度を使い分ける環境を計画するのは骨が折れる作業だ。若くて視力の良い人が節電対策担当者になって、自分では問題ないと思う程度に灯具を間引いたところ、年配の人や視力の低い人には「暗くてよく見えない」環境になってしまうということは十分起こりうる。実際、昨年の緊急事態の中では、照明が暗くて段差に気付かずに転落するような事故も発生したと聞く。

 会議室やトイレなどの場所を示すサインにも気を遣いたい。初めて訪問する人など、その場所に不慣れな人にとっては目的地を見付ける目印となる重要なものだ。ケガをするような事態にはつながらないだろうが、オフィス内を迷ってしまえば不便な思いをするだろうし、その結果約束の時間を守れなかったということになれば、不快な思いをする。

 以上のような事態を避けるために、JIS規格などいろいろな規格が場所に合わせた「最低照度」を定めている。しかし最低照度を守っておけばOK、というほど単純なものではない。サインの大きさなどにも気を遣わなければならない。

 例えばサインに書いてあるものが絵ならば、その色や背景の色によって見やすさは変わる。文字が書いてあるのなら、大きさによって見やすさが変わる。その場所を使う可能性のあるいろいろな人、できれば不利な立場にある人に見てもらって問題がないか確認すべきだろう。

 このようにさまざまな特性を持つ人が、安全・便利・快適に過ごせる製品や環境を作ることを「ユニバーサルデザイン(Universal Design:UD)」と呼ぶ。イトーキは、事業コンセプトとして「Ud&Eco style」(ユーデコスタイル:ユニバーサルデザインとエコデザインを組み合わせた造語)を掲げ、エコ(地球環境の維持)と、UD(人が快適に暮らす)を両立する製品やサービスの提供を目指している。

内装と照明に合わせて安全確保も一緒に計画する

 いろいろな特性を持つ人すべての安全を確保し、快適な環境を損なわないように配慮していては、あまり思い切った節電は難しいだろうと思う人もいるだろう。ここで、第1回で解説した輝度の話を思い出していただきたい。

 照度は同じでも、反射する面の色や材質を変えることで輝度が変わったり、周囲の明るさによって人が感じる明るさが変わるという話だ。照度を下げても、内装を見直すことで、安全の確保と見やすさの維持が可能になることがある(図4)。

図4 使用している照明器具やその配置は同じでも、反射する面の性質によって明るくも暗くも見える。左は床に光を反射しにくい材質を使った場合。床面からの反射光が少ないので、暗く感じる。右は床に光をよく反射する材質を使った場合。光をよく反射するので、床が明るく見える。出典:イトーキ

 すでに灯具を間引いた場所があるなら、そこで問題が発生していないか確認してほしい。段差が見にくいなどの問題があるなら灯具を追加する前に、床や段差の仕上げを変えることを検討しよう。カーペットの色を変えたり、段差の境目を目立たせる滑り止めを貼るなどの工夫で、問題を解決できる可能性がある。内装と照明は一緒に計画する方が効率が良く、大きな節電効果を狙えるだけでなく、安全も確保できるということだ。

 節電しながら、快適で創造力を発揮できる環境を作ることは十分可能だ。さらに、働く人すべての安全を確保することも不可能ではない。イトーキとしてもまだ試行錯誤中の部分はある。それでも、十分実現できると感じている。

 最後にこの連載は、社内外の先行研究者、イトーキの共同研究先、コラボレーション先など、さまざまな方からお教えいただいたことをまとめたものであることを申し添え、感謝の意を表したい。

テーマ別記事一覧

 LED照明  オフィス  店舗 


著者プロフィール

八木 佳子(やぎ よしこ)

イトーキ ソリューシリョン開発統括部 Ecoソリューション企画推進部 Ud&Eco研究開発室 室長。認定人間工学専門家。人と人を取り巻く環境に関する調査研究と、研究に基づくソリューション開発に取り組んでいる。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.