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» 2013年06月26日 13時00分 UPDATE

自然エネルギー:クラウドで太陽電池を作れるのか、ハーバード大とIBMが巨大な計算に挑戦

現在のシリコン太陽電池には向いていない用途を開拓する有機薄膜太陽電池。プラスチックフィルムの軽さと柔軟性が生きる。課題は変換効率にあり、極めて多数の有機化合物を探索する必要があった。米ハーバード大学と米IBMは有機化合物の探索をクラウドソーシングで実行。有望な有機化合物を探し当てた。

[畑陽一郎,スマートジャパン]

 太陽光発電システムは大量普及期に入り、いかに安価で信頼性の高いシステムを作り上げるかが勝負となっている。そのためには、太陽電池そのものよりも、架台や取り付けの工夫、標準化、人的リソースへの教育が重要になってくる。

 太陽電池自体の技術革新はもう必要ないのだろうか。確かに比重は下がっている。だが、これまでとは異なる用途を狙うなら、技術革新が欠かせない。例えば建物の壁面やガラス面だ。従来の結晶シリコン(Si)太陽電池では対応しきれない。重いからだ。室内空間に太陽電池を配置しようとしたときもSi太陽電池は適していない。黒い板が室内にあるのは不自然だからだ。Si太陽電池は曲面にも配置しにくい。

 つまり、変換効率というよりも軽量性や柔軟性、デザイン性が重要な太陽電池があり得る。このような用途に適すると考えられているのが「有機薄膜太陽電池」だ。有機薄膜太陽電池の発電層は、2種類の有機材料を溶かし込んだ溶液を常温で混ぜ合わせ、1mmの1万分の1の厚さ(0.1μm)に仕上げたものだ。膜の上下に電極を配置すれば太陽電池が出来上がる。非常に薄いプラスチックであり、軽く、柔軟性がある。軽いため、「架台」も軽量化できる。原材料の使用量が非常に少ないこと、常温常圧で製造できることから、量産時のコストダウンも期待できる。

変換効率が上がらない

 有機薄膜太陽電池は、有機物を使う太陽電池であるため、研究開発を進めているのは化学系の企業だ。現在の世界記録は三菱化学が小サイズセルで達成した11.7%。ドイツHeliatekや住友化学も10%以上の変換効率を実現している。

 現在の開発目標は2つある。1つはシリコン太陽電池に匹敵する変換効率を実現することだ。10%台の後半を狙う。もう1つは紫外線に長期間耐えることだ。有機薄膜太陽電池には有機物を使う。このため、直射日光下では紫外線による分解を受け、20年の寿命は期待できない。

 有機薄膜太陽電池の研究開発が困難なのは、有機物を使っているためともいえる。シリコン太陽電池であれば、発電層の材料は基本的にはシリコンと微量元素だけだ。有機薄膜太陽電池では2種類の有機材料を必ず使うため、「無限」の組み合わせが考えられる。導電性ポリマーとフラーレンの組み合わせだけに絞っても材料の候補は無数にある。

yh20130626IBM_image_590px.jpg 図1 Clean Energy Projectの実行イメージ。出典:米ハーバード大学

 ここに着眼したのが、米ハーバード大学が進める「Clean Energy Project」だ(図1)。有機薄膜太陽電池に最適な材料を探索することを目的としている。2013年6月には太陽光を電気エネルギーに変換する性質がある約230万種類の分子のデータベース「CEPDB(The Clean Energy Project Database)」を構築、無償で利用できるようにした。MolecularSpace.orgで公開された有機分子のうち、約1000種類は11%以上の変換効率が得られる可能性があり、約3万5000種類は10%以上の効率を達成できるという。

 CEPDBに登録された有望そうな化学物質を合成し、有機薄膜太陽電池を試作し、化学物質の構造をわずかに変えるというプロセスを進めることで、開発時間を短縮できる。

 230万種類もの分子を合成し、特性を測定するのは時間がかかりすぎる。そこで、同プロジェクトでは量子化学計算によって、分子の性質を演算し、スクリーニングした。巨大なコンピューティングパワーが必要となるため、米IBMが管理する「World Community Grid」を利用している。World Community Gridはボランティアが所有するPCのアイドリング時の処理性能を寄付することで動作する。全世界の60万人の個人や組織が所有する230万台のPCが使われたという。1台のPCに換算すると1万7000年分の計算時間に相当する。

 IBMによればいままで実行された最も大規模な量子化学計算であり、グリッドを利用した「スーパーコンピュータ」でなければ達成できなかった成果だという。

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