小売全面自由化や発送電分離に向けて、地方自治体の発電事業にも注目が集まっている。全国の多くの自治体が水力を中心に発電所を運営しているが、供給先の大半は電力会社に限られている。新電力への供給量を拡大するために、経済産業省と総務省が自治体に対する働きかけを強める。
電力市場を開放する施策のひとつとして、地方自治体が運営する発電所の電力供給先を一般競争入札で決めることが推奨されている。総務省から全国の自治体に通知も出ている。しかし現実には従来と変わらず随意契約によって電力会社に供給しているケースが多い。経済産業省が自治体を対象に実施したアンケート調査で明らかになった。
回答した145の自治体のうち、一般競争入札を実施しているところは7カ所しかなく、電力会社(一般電気事業者)に随意契約で供給しているケースが131件と圧倒的に多かった(図1)。しかも一般競争入札が原則になっていることを知らなかったとの回答が39件もあった。
すでに一般競争入札を実施している自治体からの回答によると、すべてのケースで既存契約よりも高い売電価格で契約を結ぶことができている。収入の点では明らかに一般競争入札にメリットがあるわけだ。
一方で一般競争入札を実施していない理由として、最も多く挙げられたのが「安定的な売電先や価格の確保」である(図2)。価格に関しては自治体の多くが市場の状況を正しく認識できていないことになる。
次いで2番目に多い理由は「契約先との複数年契約」である。一般競争入札を実施するために途中解約を申し出ると、高額の違約金を請求される可能性がある。実際に東京都は東京電力から50億円を要求されている。回答した自治体のうち3分の1が契約の中に途中解約の条項を入れていて、そのうちの半数で違約金の規定を定めている。
このような調査結果から経済産業省は今後の対策として、一般競争入札の事例を各自治体に紹介して実施を促すほか、違約金などの解決策を検討していく。さらに自治体の発電事業が電気事業法の「卸供給事業者」に該当するケースがあり、その場合には現状では電力会社にしか売電できないという問題もある。
2016年に実施予定の法改正では、小売全面自由化と合わせて卸供給の規制撤廃が盛り込まれる(図3)。自治体を含めて卸供給事業者が新電力などに自由に売電することが法的にも可能になる見通しだ。自治体が電力会社に売電する理由は少なくなっていく。
すでに電力を購入する立場では、一般競争入札によって新電力に切り替え、電気料金を大幅に引き下げる自治体が増えてきた。電力を販売する立場でも一般競争入札を導入して、売電価格を高くすることができれば、住民に利益がもたらされる。自治体の意識改革が求められるところだ。
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