有機系の太陽電池はなぜ必要――軽量でフレキシブルな性質が生きるから自然エネルギー(2/2 ページ)

» 2013年07月18日 09時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]
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屋外の壁面設置が可能に

 シャープとフジクラは、色素増感太陽電池が備える太陽光の入射角依存性の少なさや光量依存性の少なさを利用する。入射角依存性が少ないとは、太陽に向かって正面を向いていなくてもよいということだ。つまり、屋根置き用途やメガソーラー用途で求められる水平面から30度傾けた角度、という制約から逃れられる。発電特性に優れており、電力用途を狙うことが可能だ。

 これで「壁面設置型太陽電池」が実現する。光量依存性とは何だろうか。日射量が少ない場合、急速に変換効率が下がるシリコン太陽電池の性質をいう。色素増感太陽電池は光が弱くなっても変換効率があまり変わらない。これも壁面設置に向く性質だ。

 これらの2種類の性質から、住宅や工場の壁面や、北側を向いた面などに置くことが可能になる。実証試験では既存のシリコン太陽電池と並べて、実際の発電性能をみる。なお、2社の実験内容は電圧を重視するか、電流を重視するかという点で異なる。

図4 シャープの色素増感太陽電池。出典:NEDO

 シャープは高電圧型色素増感太陽電池を奈良県葛城市の同社葛城工場に設置した(図4)。実証試験では壁面設置した場合のデータを取得するため、南壁面に並べた。図4の上にある3つの大きな太陽電池はシリコン太陽電池など既存の太陽電池、下にある12枚の太陽電池が色素増感太陽電池だ。

 フジクラは高電流型色素増感太陽電池を千葉県佐倉市のフジクラ佐倉事業所に設置した(図5)。これも壁面設置を想定して垂直に配置した。図5にある右下の1枚は比較用の既存の太陽電池であり、それ以外の7つ黒い正方形が色素増感太陽電池モジュールである。それぞれの正方形の内部に250mm×125mmの色素増感太陽電池が8枚ずつ入っている。

図5 フジクラの色素増感太陽電池。出典:NEDO

光で発電する+光を遮る

 三菱化学は「有機薄膜太陽電池の生産プロセス技術開発および実証化検討」を大テーマとしている。実証試験の狙いは、窓材や建材一体型、車載型といった利用形態を探ることだ。「発電するサンシェード」を作り、有機薄膜太陽電池の軽量性・フレキシブル性という特長を生かした太陽光発電と日射熱のカットによる省エネ効果の検証を進める。

 同社は仙台市と実証試験に関する覚書を取り交わし、仙台市震災復興計画に定める「持続的なエネルギー供給を可能にする省エネ・新エネプロジェクト」と連携した試験内容とした。太陽電池を仙台市青葉区にあるスリーエム仙台市科学館のエントランス付近の窓面に設置する予定だ(図6)。

図6 三菱化学の有機薄膜太陽電池「発電するサンシェード」(右)と設置位置(左)。出典:NEDO

 今回のNEDOの助成では三菱化学だけが有機薄膜太陽電池を利用している。有機薄膜太陽電池は半導体の性質を持つ2種類の有機物を溶液中で混ぜ合わせ、基板に塗布するだけで機能するという特徴がある。発電層の厚さは1万分の1mm(1μm)と非常に薄い。これは最も薄い結晶シリコン太陽電池の100分1の1の厚みだ。

 製造工程が単純だということは、量産時に製造コスト引き下げがたやすいことを意味する。薄くできることは、フレキシブルであること、光を透過することを意味する。つまり、薄い布のような太陽電池を作ろうとするなら有機薄膜太陽電池が最も適していることになる。

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