太陽電池に光が当たり順調に発電している様子は「奇妙」だ。可動部がないことはもちろん、何の変化も生じていないからだ。なぜ太陽電池は電力を生み出せるのだろうか。短期連載の第1回は太陽光発電の仕組みを扱う。
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なぜなぜ短期連載では、さまざまな発電の仕組みを紹介する。第1回は「太陽光発電」だ。
電球や蓄音機の他、ある種の発電機を発明し、直流送電を試み、電気自動車の開発も進めた発明王トーマス・エジソン。もし現代にエジソンがよみがえったとして、太陽光発電にどのような感想を持つだろうか。実に興味深い機械だと考えるに違いない。
なぜ興味深いか。それはどこにも発電機らしい構造がないことだ。回転運動を電流に変える発電機はもちろん、熱を帯びたり、光ったり、動く部分がない。
太陽光発電システムの中で、光を電流に変えているのは太陽電池と呼ばれる薄い板だ。図1に示した「多結晶シリコン太陽電池」は15cm角程度のシリコン(ケイ素)の薄板を多数並べたものだ。薄板の厚さは10分の1mm(100μm)程度。
この薄板に太陽光が当たると電流が生じる理由は「光電効果」と呼ばれる現象が起こるからだ。光電効果とは金属などさまざまな物質に光(光子)を当てると電子が飛び出す現象。東日本大震災以降、人口に膾炙した放射線の発見者アンリ・ベクレルの父、アレクサンドル・ベクレルが1839年に発見した現象だ。
物理学者の名前が飛び出してくるものの、現象としてはそれほど珍しいものではない。例えば鉄板を太陽光に当てたときにも光電効果はわずかに生じる。太陽電池以外ではデジカメの撮像素子も光電効果を利用している。
住宅の屋根置き用やメガソーラーなど、大規模に普及している太陽電池はシリコンを使う。光電効果が鉄板でも起こるならなぜわざわざシリコンを使うのだろうか。
2つ理由がある。電流の取り出しの問題と、効率の問題があるからだ。まず電流の取り出しの問題を説明しよう。
太陽電池は太陽光から電子の流れ(電流)を生み出すことが目的だ。一般的な光電効果(外部光電効果)では電子がどこかに飛び出していってしまい、電流として取り出せない。そのため、物質の内部で光電効果(内部光電効果)を起こす必要がある。物質の内部で光電効果を起こすには、シリコンのような「半導体」を使うとよい。2種類の半導体が重なった構造を使って太陽電池を作り上げると、光電効果を起こした電子が太陽電池の内部から表面に浮き上がってくる。これを図1に示したように太陽電池表面に張り巡らせた細い電極で拾い上げると、電流として取り出せる。
光電効果が起きたとき、電子と同じ場所で「正孔」(ホール)が生まれる。正孔はプラスの電気を帯びた粒と見なすことができ、正孔は太陽電池の逆の面に付いた電極に向かう。
2種類の半導体を使う理由はこうだ。もし1種類の半導体、例えば、シリコン結晶からできた薄板を太陽電池として使ったとしよう。太陽光が入射し、内部光電効果が起こると、電子と正孔の対ができる。電子と正孔は互いに引き合う性質があるので、外に電流として取り出すことはできず、内部で再結合して熱に変わってしまう。これではダメだ。
2種類の半導体、一方はわずかに正孔が多くプラスの電荷を持ったp型半導体、もう一方はわずかに電子が多くマイナスの電荷を持ったn型半導体を重ね合わせると、境界でごく短時間に電流が流れる。その後、境界部分には余った正孔も電子もない「空乏層」ができて安定する。空乏層には、n型半導体からp型半導体に向かう内部電界が作られて、一種の「坂」ができる。
この状態で光を当て、例えばn型半導体側で電子と正孔が生まれたとしよう。電子は空乏層の電界と反発して表面の電極に向かう。正孔は逆方向に向かう。このような動きは、光が当たっている限り続く。内部光電効果によって生じた電子と正孔を無事取り出せたことになる。
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