重要度が高い「元素」はどれ?ウイークエンドQuiz(3/3 ページ)

» 2013年09月13日 23時20分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]
前のページへ 1|2|3       

戦略的な重要性を2次元で考える

 図2と図3はある元素がクリーンエネルギー技術にとってどれほど必要なのか、供給にリスクはあるのかという2つの視点に従ってマトリックス状に並べたものだ。右上に位置するほど戦略的に重要な元素ということになる。

 図2は2015年までの非常に短期間の予測だ。緑色の元素は戦略的な重要性が低い、黄色は重要性が低くはない、赤色は重要性が高い元素だ。ジスプロシウムとユウロピウム、テルビウムが最重要、次いでイットリウムとネオジムが挙がっている。

図2 2015年までの短期間における元素の戦略的重要性。出典:米エネルギー省

 図3では2015〜2025年における戦略的な重要性を示している。中期的な評価ということだ。時間的な余裕が多少あるため、いままさに対策が必要な元素でもある。ジスプロシウムが最重要であることは図2と変わらないが、ユウロピウムとテルビウムの必要性が下がっている。従って、解答はジスプロシウムだ。

図3 2015〜2025年における元素の戦略的重要性。出典:米エネルギー省

なぜジスプロシウムが戦略上重要なのか

 米エネルギー省が戦略上最重要だとしたジスプロシウム、その判断の基準は何だろうか。供給リスクとクリーンエネルギー技術における必要性を順に紹介する。

 生産量が単に少ないだけでなく、需要が拡大するときに供給リスクが高まる。なぜなら鉱物資源は資源開発によって生産量を増やすことができるものの、急に増やすことはできないからだ。供給量が限られている元素に対して需要が急増すれば、供給量の拡大が間に会わず、価格が急上昇する。レポートによれば、2001年から2011年の間にジスプロシウムの国際価格は50倍に上昇した。これは供給量が減ったというよりも需要が急拡大した影響が強いという。なお、ジスプロシウムを含む希土類の供給では中国のシェアが2010年時点で97.3%と高かった。これが供給量の拡大が難しかった理由の1つだ。

 有用であり、生産国が限られていても、利用する量が極めて少なければ影響はあまりない。困ったことに、ジスプロシウムの需要量は大きい(図4)。例えば電気的な機構を使う車両用の無段変速機(トラクションドライブ)では磁石の重量の8.7%をジスプロシウムが占める。風力発電用の発電機でも4.1%に相当する。

図4 ジスプロシムの用途と磁石に占める重量%。出典:米エネルギー省

高温でも動作する発電機やモーターに必要

 クリーンエネルギー技術にとってのジスプロシウムの必要性は永久磁石に欠かせないということだ。永久磁石は発電機やモーターに使われる。風力発電のタービンや電気自動車のモーターに使う。風力発電のタービンの出力は近年上がり続ける一方だ。タービンに接続された発電機の効率が低いと取り出せる電力が減ってしまう。電気自動車のモーターでは小型化しつつ、トルク(回転力)を維持することが求められている。現在の量産技術ではどちらにもジスプロシウムが不可欠だ。

 具体的なジスプロシムの有用性は何だろうか。ジスプロシウムの前に、日立製作所で開発された「ネオジム磁石」を紹介する必要がある。ネオジム磁石は鉄を主成分とし、ネオジムとホウ素を加えた磁石であり、永久磁石としては最も強い。小型でも強い磁力を持つという意味だ。従ってモーターや発電機の小型化に役立つ。

 磁石には一般に温度が高まると保磁力(外部の磁場に対する安定性)が弱くなる性質がある。ネオジム磁石は比較的、保持力が弱くなりやすく、例えば200度では利用できない。電気自動車のモーターが電力を回転力に変換する際、効率は必ず100%未満になる。変換できなかった電力は熱に変わる。このため、磁石の温度を200度以下に保とうとすると、強力な水冷機構が必要だ。これは自動車の重量や体積を増やしてしまう。

 ここで、ネオジム磁石のネオジムの一部をジスプロシウムに置き換えると、磁石の性能は多少下がるが、保持力が高まる。高温でも強い磁力を維持できるということだ。冷却機構は必要だが、小型のものですむ。ジスプロシウムが必要な理由だ。

 ここまで議論が進むと、磁石の冷却に余裕がある用途であれば、ジスプロシウムの必要性があまり高くないことが分かる。米エネルギー省の分析でも、冷却が装置の性能に影響しにくい風力発電ではジスプロシムの重要性は比較的ゆっくりとしか高まらないが、どうしても高温下での動作が求められる電気自動車では急速に高まるとしている。

アイコン画像は何?

 なお、今回の記事に使ったアイコンの画像(図5)は原子番号83番のビスマスの結晶だ。虹のような色は光の波長に近い厚さの表面酸化膜(さび)による。人体に有害な鉛を含まない鉛フリーはんだにビスマスが多く利用されている。

 エネルギー分野では、温度差を電力に変える熱電発電素子の材料としてテルルとともに使われている(関連記事)。この他、超電導ケーブル(関連記事)で、実際に超電導現象を起こすフィルム材として重要だ。

図5 ビスマスの結晶。ビスマス自体は銀白色の金属だ。

テーマ別記事一覧

 自然エネルギー   クイズ 


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.