国内初の海に浮かぶ大型風車、福島よりも早く長崎で発電開始自然エネルギー

浮体式の洋上風力で商用レベルの発電設備が日本で初めて運転を開始した。環境省の実証事業として長崎県の五島沖で建設を進めてきたもので、直径80メートルの大型風車を使って2MWの電力を供給できる能力がある。福島沖で建設中の同規模の発電設備よりも一足早く動き出した。

» 2013年10月31日 11時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 洋上風力の中でも日本の近海に適しているのが、水深50メートル以上の海域でも設置できる浮体式の発電設備である。浮体式で発電能力が2MW(メガワット)クラスの大型風車が長崎県の五島沖で10月28日に運転を開始した。五島列島のほぼ真ん中にある椛島(かばしま)の沖合1キロメートルの海域で、水深は100メートルある(図1)。

図1 浮体式の洋上風力発電設備が稼働する五島市椛島の位置。出典:環境省

 このプロジェクトは環境省の実証事業として2010〜2015年度の6カ年計画で進めているものである。2012年6月には発電能力が100kWの「小規模試験機」が発電を開始して、性能や風況などを観測してきた。新たに運転を開始した「実証機」は風車の直径が80メートルの大きさで、全長は172メートルに達する(図2)。総重量は3400トンにもなる。

図2 五島沖の洋上風力発電設備。2012年6月に稼働した「小規模試験機」と2013年10月に稼働した「実証機」のイメージ。出典:環境省

 椛島の沖合は年間の平均風速が7.5メートル/秒(海上60メートルの上空)になる風力発電に適した海域である。しかも波の高さが1メートル以下になる割合が89%と穏やかな状態で、発電設備の揺れが課題になる浮体式には有利な条件がそろっている。

図3 浮体式の洋上風力発電設備の基本構造。出典:国土交通省

 国内では経済産業省が主導して福島沖でも同規模の浮体式による洋上風力発電設備の建設が進められている。11月中に試運転を開始する見込みで、五島沖のプロジェクトが一歩リードした形だ。

 両者の違いは五島沖の発電設備が円筒形の「スパー型」をとるのに対して、福島沖では基礎部分の構造が複雑な「セミサブ型」を採用した点にある(図3)。五島沖のスパー型は基礎部分の上部が鋼で、下部にはサビにくいコンクリートを使ったハイブリッド方式が特徴だ。

 五島沖のプロジェクトで重要なテーマのひとつが、離島の電力供給体制を強化することにある。洋上風力発電による電力は海底ケーブルを通じて椛島の各家庭に供給するほか、近隣の島にも海底ケーブルを経由して送電することができる(図4)。既存の発電所がトラブルなどで運転を停止した場合でも離島の電力を確保することが可能になる。

図4 浮体式洋上風力発電設備からの送電経路。出典:環境省

 環境省は実証機を運転しながら、2015年度末まで各種の検証を続ける予定だ。発電設備の揺れや発電状況、周辺の自然環境に対する影響などを観測する。さらに発電した電力のうち余剰分を水素に変換・貯蔵する技術を開発して、離島のエネルギーとして活用することにも取り組んでいく。

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