ビルと電気自動車を「一体化」する――関西のチャレンジエネルギー管理

電気自動車と一戸建て住宅の間で電力を融通する「V2H」は既に実用化されている。だが、複数台の電気自動車を束ねて管理し、充放電を進めるシステムは存在しない。オフィスビルなどと電力を融通するならこのようなシステムが必要だ。関西電力など6法人が3カ年計画で技術実証事業に取り組む。

» 2013年11月28日 09時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

 多数の電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)が力を合わせてビル1棟に電力を送る。災害時の停電はもちろん、ピークカットにも役立てる――このような取り組みはいまだ実現していない。

 個人が所有する電気自動車から電力を取り出して家電製品などを動かす、さらには一戸建ての家屋と接続するV2H(Vehicle To Home)用システム。これは2012年時点で、自動車メーカー各社から販売が始まっている。しかし、ビルは対象外だった。あまりにも大量の電力が必要だったからだ。

図1 中央区と大阪ビジネスパークの位置。大阪城公園の北東に隣接する

 MID都市開発と関西電力、日建設計総合研究所、竹中工務店、アイケイエス、大阪ビジネスパーク開発協議会の6法人が狙うのは電気自動車とビルの結合、いわば、V2Hの発展形だ。

 6法人は2013年11月26日に、「大阪ビジネスパークにおける企業所有のEV・PHVを活用した電力供給システムに関する技術実証事業」(OBP「V2X」プロジェクト)に関する協定書を締結*1)、2013年度から2015年度まで、共同で技術実証事業を進める(図1)。

*1) OBPとは、技術実証事業を実施する大阪ビジネスパーク(大阪市中央区城見)を指し、V2Xとは「Vehicle To X」の略であるという。接続先としてオフィスビル以外にマンションなどを考えているため、Xとした。「協定書では、事業を共同で推進することの他、事業目的や分担、秘密保持契約、知的財産権の扱いを定めている」(関西電力)。

 今回のプロジェクトは地域のエネルギー事情に応じたスマートコミュニティーの確立を支援する経済産業省の「平成25年度 次世代エネルギー技術実証事業」(総予算21億8000万円、9事業を対象)に採択されている。「OBP『V2X』プロジェクトの総事業費は約3億円であり、2013年度にかかる事業費1億1000万円の半額(5400万円)を補助金でまかなう」(関西電力)。

目的はピークカットと災害対策

 OBP「V2X」プロジェクトの最終的な目的は冒頭に挙げたように2つある。まずは電力需要のピーク時に電気自動車とビルが一体となってピークカットを実現することだ。電気自動車からの電力の買取価格をピーク時には割高に、非ピーク時には割安にすることで実現する。

 もう1つは災害などによって停電が起きたときにビルの防災拠点やエレベーターなどの非常用電力を電気自動車側に切り替える仕組み作りだ。これら2つの目的を実現するためには、これまでにない充放電器とエネルギーマネジメントシステムが必要だ。

図2 技術実証事業の内容。技術実証と2つの技術開発からなる。出典:関西電力

 技術実証事業は3カ年度に分けて進めていく。2013年度は目的にかなう充放電器を開発する(図2)。種類の異なる5台*2)の電気自動車に同時充放電が可能であり、停電時にはエレベーターなどに供給可能な装置だ。このような充放電器の開発は国内初の取り組みだという。もう1つは電気自動車用エネルギーマネジメントシステムの開発だ。ビルの消費電力量はもちろん、ビルと接続されていない電気自動車の情報を収集する機能が必要だ。そのために移動中の電気自動車の位置と電池の残量を監視する。その上で、電気自動車の充放電のタイミングを指令し、充放電の予約を管理しなければならない。さらに、時間帯別の従量課金の仕組みが必要だ。

*2) 「導入する電気自動車やプラグインハイブリッド車は急速充電機能に対応したものでなければならず、バッテリー容量とコストを勘案して選定する。日産自動車の『リーフ』や三菱自動車の『i-MiEV』『アウトランダーPHEV』などが対象となるだろう」(関西電力)。

 2014年度と2015年度は、まず、大阪ビジネスパーク内のビル(松下IMPビル*3)を予定)に開発した充放電器とシステムを導入する。その後、電気自動車の充電負荷の平準化や電池を使ったビルの電力需要のピークカット、需要時間帯以外での充電を促がすことによるピークカット効果を検証する。災害停電を想定し、電力源を電気自動車などに切り替えてエレベーターなどに供給し、有効性を検証していく。

*3) 地上26階、地下2階、高さ125mのオフィス・商業ビル。延べ床面積は8万5273m2。日建設計が設計。

 関西電力によれば、6法人の分担は以下の通り。MID都市開発は、事業統括とエネルギーマネジメントシステムを開発する。関西電力は電気自動車を活用した負荷抑制の仕組み作りとピーク時間帯の料金単価設定を担う。日建設計総合研究所はコンサルタントとして今回の技術実証事業の有効性を評価した報告書を作成する。竹中工務店は技術実証事業の対象となるビルの以外に充放電器を導入した場合のシミュレーションを実施する。アイケイエスは電気自動車用の充放電器を開発する。大阪ビジネスパーク開発協議会は技術実証事業に関係する大阪市などの自治体との調整に当たる。

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