市民参加型の発電設備が拡大中、全国40位からの脱却を図るエネルギー列島2013年版(36)徳島

これまで火力発電の依存度が高かった徳島県だが、いよいよ再生可能エネルギーの導入が活発に始まった。東部の沿岸地域を中心に日射量と風況に恵まれ、太陽光や風力発電を拡大できる余地は大きく残っている。企業や自治体の取り組みに続いて、市民参加型のプロジェクトも勢いを増してきた。

» 2013年12月03日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 四国の東側を横断する吉野川の流域に、山に囲まれた徳島県の美馬(みま)市がある。その川の近くにある平地で市民参加型のメガソーラー「美馬ソーラーバレイ」が2012年12月に運転を開始した(図1)。発電規模は1.2MW(メガワット)で、年間に120万kWhの発電量を見込んでいる。

図1 「美馬ソーラーバレイ」の全景と掲示板。出典:徳島地域エネルギー

 建設費の3億5000万円の一部を市民と地元の企業が共同出資して、さらに政府系金融機関や徳島県からの融資でカバーした。売電収入は年間に4500〜4800万円を想定していて、13年間で返済を完了する計画だ。個人の出資者(1口50万円)には8年目まで年4%の配当を支払った後に元本を返済する。

 一般市民からの出資は48件あった。美馬ソーラーバレイの敷地内には掲示板が立てられて、メガソーラーの意義とともに出資者の氏名が並んでいる。運転開始後の発電量も想定を上回り、早くも第2弾のプロジェクトを望む声が県内各地から寄せられている状況だ。

 実は徳島県内では美馬市のような内陸部の日射量は少なめで、むしろ東部から南部の沿岸地域に豊富な日射量がある(図2)。東部に位置する徳島市は全国の県庁所在地の中で6番目に日射量が多く、周辺地域を含めて企業や自治体によるメガソーラーの建設計画が続々と始まっている。

図2 徳島県内の日射量分布。出典:徳島県農林水産部

 徳島市内では日清紡ホールディングスが自社工場の敷地にメガソーラーを建設して2013年7月から運転を開始した(図3)。発電能力は1.75MWで、年間に216万kWhの発電量を想定している。日射量が多いことを前提に設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)を14%と見込んでいて、全国平均の12%を大きく上回る。

図3 日清紡ホールディングス徳島事業所のメガソーラー。出典:日清紡ホールディングス

 同様に徳島市の南側に隣接する小松島市では、海に面した地区で2つのメガソーラーが稼働中だ。1つは2013年1月に運転を開始した「ソフトバンク徳島小松島ソーラーパーク」(2.8MW)で、もう1つは徳島県の企業局が運営する「和田島太陽光発電所」である。

 和田島太陽光発電所は2013年10月29日に運転を開始したところだ。2MWの発電能力で年間の発電量は242万kWhを見込み、日清紡のメガソーラーと同じように設備利用率は14%近い高水準を想定している。

 このメガソーラーでは防災対策の機能に特徴がある。太陽光パネル全体のうち10分の1の200kW分は周辺よりも2メートル高い場所に設置して、津波の被害を受けにくい構造にした(図4)。メガソーラーの近くに設置した「災害対応分電盤」を通じて、電気自動車などに電力を供給することが可能だ。

図4 「和田島太陽光発電所」と周辺施設。出典:徳島県企業局

 徳島県には四国電力とJ-POWER(電源開発)の大規模な火力発電所が3カ所あり、東日本大震災が発生するまでは再生可能エネルギーを導入する動きは少なかった。導入量は全国でも第40位の低さで、せっかく豊富にある太陽光や風力をほとんど使わない状態が続いてきた(図5)。

図5 徳島県の再生可能エネルギー供給量。出典:千葉大学倉阪研究室、環境エネルギー政策研究所

 大震災によって状況は一変する。電力会社に依存する旧来のエネルギー供給体制からの脱却に向けて、県を挙げた取り組むが始まった。2012年度から「自然エネルギー立県」を目指し、メガソーラーをはじめとする再生可能エネルギーの導入を積極的に推進中だ。

 これから運転を開始する予定のメガソーラーでは、日本製紙の社有地を活用した設備が最も規模が大きい。小松島市の沿岸部にある25万平方メートルの用地に、四国で最大の21MWのメガソーラーを建設する計画だ(図6)。2014年内に稼働する予定で、年間の発電量は2500万kWhに達する見込みである。一般家庭で約7000世帯分に相当する。

図6 日本製紙のメガソーラー建設予定地。出典:日本製紙

 太陽光に続いて風力発電のプロジェクトも動き出した。美馬市のメガソーラーと同様の仕組みで、市民参加型による風力発電事業の計画が進んでいる。内陸部の佐那河内村(さなごうちそん)に四国で最大の「大川原ウインドファーム」(19.5MW)が稼働していて、その用地の一角に村の所有地がある。

 年間の平均風速が毎秒7メートルになる絶好の風況を生かして、村有地に「村風車」を建設することを検討中だ(図7)。1基で1.7MWの発電能力がある大型風車を設置して、年間に280万kWhの電力を供給することができる。約5億円の建設費を市民ファンドと県の補助金でまなかい、12年間で投資を回収する想定である。

図7 佐那河内村の「村風車」の建設予定地(前方に見える風車は「大川原ウインドファーム」)。出典:徳島地域エネルギー

 同じ佐那河内村では市民ファンドによる太陽光発電のプロジェクトも進んでいる。発電規模は120kWと小さめだが、4000万円の事業費のうち300万円を市民の寄付金で集める予定だ。1口1万円の寄付金に対して、地元の農産物を5回にわたって提供する。農業の振興と再生可能エネルギーの拡大を両立させながら、過疎化が進む村に活力を取り戻す狙いがある。

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2015年版(36)徳島:「2030年に電力の自給率37%へ、「環境首都」を目指して東京に対抗」

2014年版(36)徳島:「海峡をめぐる自然エネルギー、太陽光から潮流まで電力源に生かす」

2012年版(36)徳島:「3年で自然エネルギー立県へ、新しい発電所の建設が急ピッチ」

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