やっかいな積雪を逆に利用、旭川市で始まる両面発電と融雪自然エネルギー(1/2 ページ)

メガソーラーにとって、積雪はなるべく避けたい条件だ。雪に覆われた太陽電池は発電できず、雪の重みに耐える機材も必要だ。旭川市で始まった事業では雪を避けるのではなく、利用する。太陽光を反射する雪の性質と、両面発電可能な太陽電池を組み合わせることで、出力を1.1〜1.3倍に高められるという。もはや雪は敵ではないのだ。

» 2013年12月17日 07時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]
図1 北海道旭川市と発電所の位置

 太陽光発電では、なによりもまず太陽電池モジュールに日が当たることが前提条件となる。例えば北国で太陽電池に雪が積もった場合、雪が滑り落ちるまでは設備の能力を全く発揮できない。

 このような常識を覆すメガソーラーが北海道に登場した。西山坂田電気が立ち上げた交流出力1.25MWの「旭川北都ソーラー発電所」(旭川市神居町)だ(図1、図2)。

ホタテと雪の共通点は?

 「電気設備を施工する当社が、電機メーカーの一般的な太陽電池を使ってメガソーラーを立ち上げるのでは特色を打ち出せない。雪の多い旭川市に建設するのなら、積雪対策を充実させるべきだ。そのように考えていたとき、近隣の北見市で実証実験を続けていたPVG Solutionsの太陽電池技術を見学する機会を得た*1)。2012年10月のことだ。同社の技術では太陽電池の表面だけでなく、裏面からの光も利用できる。夏季は同市の名産であるホタテの貝殻を使って日光を反射させて利用し、冬季は雪の反射を使うという内容だ」(西山坂田電気)。

*1) PVG Solutionsは2012年10月から北見工業大学と共同で両面発電型太陽光システムの実証実験を継続している。PVG Solutionsによれば、表面入射光と同等の光が裏面に入射した場合、裏面からも表面の90%以上の出力が得られるという。単結晶Si(シリコン)太陽電池技術を利用しており、裏面電極の形状の工夫などによって、発電を可能とした。

 旭川北都ソーラー発電所では、PVG Solutionsの両面発電型太陽電池セル「EarthON(アーソン)」を採用した元旦ビューティ工業の太陽電池モジュール「PST254EarthON60」(254W)を5320枚設置した。直流出力は合計1.351MWになる。

 「254Wという仕様は表面からの光だけを対象としたものだ。実際にはこの1.1〜1.3倍の発電が可能だ。出力が同じ他社の製品よりも高額だが、実際の発電量が多くなり、有利になると考えた。特に冬季は積雪があったとしても、晴れていれば日の出からすぐに発電できる。積雪期間が長い場合に有利だ*2)」(同社)。両面発電が可能な太陽電池モジュールの採用は道内初であり、メガソーラーとしては世界初だと主張する。

*2) 同社によれば、北海道の積雪地帯では表面だけを使う通常の太陽電池モジュールであっても、2月や3月に計算よりも発電量が多くなる傾向があるという。これは散乱光が表面に入射するためだ。

 積雪対策はこの他に2点ある。まず、太陽電池モジュールの下端の高さを1.8mとした。「根雪が積もった場合、モジュールの下部に水が入って凍結し、割れを生じる危険性があったので、当初は2mを予定していた」(同社)。太陽電池モジュールの角度は非積雪地帯で一般的な30度よりもきつい40度とした。「45度も検討したが、モジュールの影が長くなり、敷地内に設置できるモジュールの数が少なくなってしまうことが分かった」(同社)。

図2 旭川北都ソーラー発電所の外観。出典:西山坂田電気

高校のグランド跡地を利用

 旭川市は2012年10月から旧北海道旭川北都商業高等学校グラウンド跡地を再利用(賃貸借)するために事業者を募集。このときは特定の用途を示していなかった。「2012年6月から旭川市内でメガソーラーのための土地を捜していたが、送配電線の容量や土地の傾斜などに制限があり、思ったような物件が見つからなかった。グラウンド跡地は土地の形状もよく、系統接続の容量に問題がない上に、フェンスが備わっていたため、メガソーラー用地として望ましい条件がそろっていた」(西山坂田電気)。土地の面積は3万5140m2である。

 2012年12月に跡地利用事業者に選定された後、2013年5月に着工し、2013年11月にメガソーラーを完成させた。「当社として最初のメガソーラーにいきなり着手する前に、メガソーラーと全く同じ機器を利用した250kWの『旭川倉沼ソーラー発電所』(北都発電)を旭川市内でまず9月30日に立ち上げ、工事監理などのノウハウを得てから着手した形だ*3)。ここでは太陽電池モジュールを1064枚使った」(同社)。

 設計・調達・建設(EPC)のうち、造成と架台設置、太陽電池モジュールの設置は伊藤組土建に依頼した。架台として伊藤組土建の「SEPイ型架台」を採用。太陽電池モジュールを4段に配置した。パワーコンディショナーは東芝三菱電機産業システムの「PVF-L0500」(500kW)を2台と、同「PVF-L0250」(250kW)を1台設置した。

 総投資額は、北都と倉沼の両発電所を合わせて、6億3000万円(税込)。銀行の他、日本政策金融公庫の環境・エネルギー対策資金の融資を受けている。完成したメガソーラーの発電事業者は、特定目的会社(SPC)の北都発電。西山坂田電気が出資した企業だ。

 想定年間発電量は、両面発電効果のため、147万kWhと多い。固定価格買取制度(FIT)を利用して、20年間売電する。年間の売電収入として約6000万円を見込む。

*3) 同社はメガソーラー着手以前、太陽光発電関連の工事を積極的に進めていなかったという。しかし、20年前の1993年に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が北海道中川町と出力30kWの太陽光発電所を建設した際に施工を実施した経験がある。「当時設置した太陽電池はまだ動作しており、太陽電池の耐久性に自信を深めた」(同社)という。

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