弱い光に「強い」、二酸化炭素で作る太陽電池蓄電・発電機器(2/2 ページ)

» 2014年06月17日 11時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]
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どのように固体に変えたのか

 リコーが電解液を固体化するために打った手は2つある。1つは、電解液の代わりに、有機p型半導体と固体添加剤の混合物を用いたこと*3)。この部分をリコーは「ホール輸送性材料」と呼んでいる。もう1つはホール輸送性材料を「加工する」ために従来と違う手法を開発したことだ。

 図4はリコーが開発した太陽電池の構造だ。この図から文字を消してしまうと、従来の色素増感太陽電池の構造と見分けが付かないはずだ。固体化した部分以外の基本的な構造が同じだからである。

 太陽電池としての動作はこうだ。左側から光を入れると、光が増感色素に吸収されて、増感色素内の電子のエネルギーが高くなる(励起する)。その電子が金属酸化物ナノ粒子(二酸化チタン粒子)に移動して電流となり、「(陰極)透明導電基板」とある電極から外部に流れていく*4)。色素が光を吸収して電子を外に受け渡す部分の動作はカラー写真フィルムとよく似ている。

*3) リコーによれば、有機p型半導体の性質(エネルギー準位)を調整することで、太陽電池の開放電圧を高めることができたという。「他社でも採用事例のある有機p型半導体だ」(リコー)。増感色素の選択により、短絡電流密度を高めることができた。この2つの組み合わせによって、出力を高めることができた。固体添加剤は複数の物質からなる混合物であり、電気伝導度が高い。発電ロスが少なくなる。なお、有機色素は広く使われているルテニウム錯体以外を用いたという。
*4) 一般的な色素増感太陽電池の場合、電子を失った増感色素は、電解液中のヨウ化物イオンから電子を受け取って元に戻る。

図4 色素増感太陽電池の構造 出典:リコー

 このような仕組みを採っているため、太陽電池として機能するためには非常に微細な金属酸化物ナノ粒子(灰色の大きめの円)と増感色素(ピンク色の小さな円)、固体電解質(黄色)がそれぞれ密着していなければならない。一般的な色素増感太陽電池のように電解液を使っていれば、すき間はできにくい。ところが、リコーの方式は電解液を固体化している。密着が難しい。いかにして密着させるかが、肝心だ。

 ここに工夫がないと、図5に示したように二酸化チタン粒子からなる多孔質膜内部にすき間(未充填部)が多くなり、太陽電池としての性能が悪くなる。とくに安全性が下がる。図5では下側から光を受け取る形だ。図4の状態から反時計回りに90度回転させて撮影した。

図5 従来工法で作成した色素増感太陽電池の断面の走査型電子顕微鏡像(左下の白い棒は100nmを表す) 出典:リコー

高圧の二酸化炭素を使って「詰める」

 このようなすき間が生じにくくなる方法を開発した。「超臨界充填法」と呼ぶ。ガス状の二酸化炭素を加圧すると、74気圧(7.37Pa)、31.1度以上の状態で液体とも気体とも違う極めて反応性の高い超臨界状態になる。超臨界充填法により、二酸化チタンナノ粒子のすき間に固体電解質を効率よく詰めることができた(図6)*5)。「この製造法は効果的だが技術的難易度は高くない。さらに一般的な製造装置を利用可能だ」(リコー)。

*5) 「今回の13.6μW/cm2という性能は二酸化炭素を使わないスピンコート法で試作したセルの値だ。超臨界状態の二酸化炭素を使えばより出力が高まると考えている。加えて、室内光のスペクトル特性に適した最適化が完了していない」(リコー)。

図6 超臨界充填法で作成した色素増感太陽電池の断面の走査型電子顕微鏡像 出典:リコー

 今回開発した太陽電池セルの構造は複合機(コピー機)に用いられている有機感光体と似ており、同社の材料技術や製造技術が役立ったのだという。「有機感光剤を複合機に利用する際も、成膜技術を利用している」(リコー)。

今後の開発ポイントは?

 完全固体色素増感太陽電池は、研究開発途上にある。「今回の成果は1cmの基板上に作成した0.15cm2のセルの性能を自社測定したものだ。(上に挙げた)アモルファスシリコン太陽電池なども、開発品と測定条件を合わせている」(リコー)。

 2014年6月25日〜27日に東京ビッグサイトで開催される「第25回 設計・製造ソリューション展(DMS 2014)」では、開発した太陽電池セルを直列接続したモジュールのサンプル品を早くも展示する予定だ。

 冒頭で紹介したサンプル出荷に至るまでに必要な開発項目も残っている。「低コスト化はもちろん、理論上の最高効率になるべく近づけるような開発を進める。屋外で利用できるよう、耐久性をさらに高めるという改善点も残っている」(リコー)。

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