日本国内では「高圧ガス保安法」の中で主要な規定を設けている。法律の対象になる高圧ガスは一定以上の圧力をかけたガス全般を含む。タンクやボンベなどに圧縮・液化した状態のもので、燃料電池自動車の水素タンクも規制の対象に入る。
水素の製造から貯蔵・輸送・利用までのすべてのプロセスが高圧ガス保安法の規制を受ける(図4)。保安法のほかにも、製造・貯蔵設備に対しては消防法や建築基準法の規制がある。タンクローリー車のような輸送車両には、道路交通関連の法律によって重量制限などの規定が設けられている。
ただし複数の法律による数多くの規制が水素・燃料電池の普及を妨げている面も否定できない。安全性を重視したうえで、技術や製品の進化に伴って過度な規制の見直しは必要である。
水素ステーションを例にとると、立地の規制をはじめ、貯蔵設備の材料から、水素の充てん方法に至るまで、多岐にわたる規制が各種の法律で設けられている(図5)。こうした安全対策のために水素ステーションの建設・運営コストが膨れ上がり、政府が想定したほど設置が進んでいない。経済産業省は欧米の安全基準をもとに、国土交通省や消防庁と共同で水素ステーションの規制を継続的に見直している。
家庭用の燃料電池に関しては、すでに規制の緩和が進んでいる(図6)。当初は専門家による常時監視のほか、可燃性ガスの検知器を設置することなどを義務づけていた。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が実施した燃料電池の運転試験データに基づいて規制の多くを簡素化した。
この結果、エネファームの導入コストが下がり、普及に弾みがついた。今後も製品や技術が進化する一方で、利用者の増加に合わせて利用環境は各方面へ広がっていく。安全性とコストの最適なバランスを図ることが、水素社会を推進する政府にとって重要な役割になる。
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