電力消費パターンは家庭ごとに違う、これを生かした電力削減手法エネルギー管理

凸版印刷は、家庭向けにエネルギー情報と関連付けたサービスを提供する実証実験を北九州市で開始した。消費電力削減のため、イオンモールへの来店を促す。他の実証実験と異なるのは、家庭ごとに異なる電力消費パターンを考慮していること。もう1つは促す文面に工夫があることだ。

» 2014年08月21日 07時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

 凸版印刷は、家庭向けにエネルギー情報と関連付けたサービスを提供する実証実験を北九州市で開始した*1)。2014年8月18日から同9月12日までの平日に検証する。

 実証実験では、スマートメーターを設置済みの約100世帯に協力を仰いだ。電力状況がひっ迫(したと想定)した時に、イオンモール八幡東店への来店を促す。すると、空調などの家電を使わなくなるために、家庭の消費電力が下がる。店舗の消費電力はほとんど変わらない。来店のインセンティブは、買い物に利用できるWAONカードのポイントだ。

*1) 北九州市八幡東区東田地区(約120ha)では、2010年から2014年の5年間で「北九州スマートコミュニティ創造事業」を実施している。事業全体の目標は2005年比で二酸化炭素排出量を50%減らすこと。38の事業がある。

電力データを生かし、「ナッジ」を使う

 ここまでは、各地で進むデマンドレスポンスの実証実験とよく似ている。従来の実証実験と異なる点は2つ。凸版印刷は2012年度と2013年度にも電力関係の実証実験を実施しており、各家庭の電力消費パターンを得ている。このデータを使う。家庭ごとにインセンティブを受け入れやすい時間が異なることを利用する*2)

 もう1つは、「ナッジ」*3)を使うこと。実証実験では各世帯がスマートフォンで来店を促すメールを受け取る。このメールの文面を変えることで効果をみる。「具体的なメリットを数字で表して行動を促す、他人の行動と比較するなどさまざまな手法がある」「(今回の事例と状況は異なるものの、事実を曲げずに)『他の方は皆支払っていますよ』と文面に記すと、税金の支払いがよくなる事例などが知られている」(凸版印刷)。図1に来店を促すメールの文例を示す。

*2) 約100世帯の消費電力情報は30分ごとにCEMS(地域エネルギーマネジメントシステム)が自動的に取得している。
*3) ナッジ(nudge)とはヒジで軽く突くという意味。行動経済学では「選択を禁じることも、経済的なインセンティブを大きく変えることもなく、人々の行動を予測可能な形で変える方法」として知られている。

図1 イオンモールへの来店を促すメールの例。実施場所よりも上の部分の文面を変える 出典:凸版印刷

 図1に示した文面の代わりに、例えばメールの件名を「エコづかいキャンペーンに参加するとWAONポイントをゲット!」と変えて具体的なメリットを示したり、件名と合わせて次のように変えることも検討している。「『エコづかいキャンペーンに参加してエコに貢献!』ご存知でしたか? 電気を消して外出することで、約8%のCO2排出量を減らすことができ、地球温暖化対策に貢献できます」。

どのように実現しているのか

 凸版印刷は、実証実験を通じて3つの項目を検証する。まず、地域全体の電力負荷を平準化し、低炭素化に役立てること。次に地域経済効果を確かめること。3番目に今回の主眼を置く。電力会社などが今回のサービスをマーケティングなどの目的で導入した場合の有効性を測定することだ。

 3番目の項目では、2013年に凸版印刷と富士通が共同開発した次世代レコメンドシステム「VIENES(ヴィエネス)」*4)を役立てる。CEMSが集めた100世帯の電力データをVIENESが分析し、情報配信タイミングを世帯ごとに決定する。来店者はWAONカードをイオンモールのカードリーダーにタッチしてポイントと引き替えるため、反応率を測定でき、VIENESが決めた配信タイミングが適切だったかどうかも検証できる形だ。

*4) VIENESの機能は2つに分かれる。まず、スマートメーターやHEMSから得られる家庭の電力使用ログから電力の使用状況や生活行動を予測することだ。次に個人の購買行動やプロファイルデータとひも付けてマーケティングに役立てることである。

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