大学キャンパス丸ごと制御、省エネの環を都市全体へスマートシティ(1/2 ページ)

中部大学(愛知県春日井市)は清水建設の協力を得て、キャンパス全体を対象とするエネルギー管理システムを構築している。発電、蓄電機器を制御する管理システムの効果が大きく、消費電力量を25%抑える計画を発表した。

» 2014年10月29日 15時30分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]
図1 愛知県春日井市と大学キャンパスの位置

 東京ドーム8個分(約36万m2)の敷地に散らばる約40棟のビル。延床面積は合計18万8000m2に上る。ここで使われる全エネルギーを管理し、電力使用量やピーク電力を大幅に引き下げる。このような取り組みが愛知県春日井市で続いている。

 プロジェクトを進めるのは同市に本部を置く中部大学(図1、図2)と清水建設。一部の学部からスマート化を初め、全学部へ、さらには地元の春日井市へと広げていく。

 発端は東日本大震災後の電力不足と、学部学科を新設したことによる電力需要増が重なったこと。2012年2月に中部大学と清水建設が共同実証実験に合意し、同6月に着手、まずは生命健康科学部、次に応用生物学部と工学部でスマート化を図った。

 その結果、電力使用量を約15%減らすことに成功した他、契約電力を左右するピーク電力も約25%削減できた。

図2 中部大学春日井キャンパスの全景(クリックで拡大) 出典:中部大学

太陽光とコージェネ、蓄電池を組み合わせる

 「中部大学スマートエコキャンパス」プロジェクトでは、発電、蓄電、熱利用とこれらを束ねるエネルギー管理システムを組み合わせる。計画の第1段階では生命健康科学部に属する5棟の建物群を対象とした。

 同学部に属する55号館の屋上に出力20kWの太陽光発電システムを設置(図3)、容量90kWhの蓄電池も据え付けた。その後、容量を144kWhに増設している。53号館には出力25kWのガスコージェネレーションシステムを2基設置した。

図3 屋上に設置した太陽電池モジュール 鳥避けのトゲが見える(クリックで拡大) 出典:中部大学

 中部電力から購入する電力を削減するための設備は分かりやすい。だが、ガスコージェネレーションシステムで生み出した熱はどのように使うのだろうか。「実験動物教育センターで使う。除湿のエネルギーに熱を使う形だ。一般的な空調同様、除湿では過冷却を利用して空気中の水分を取り除く。その際にガスコージェネレーションシステムから受け取った排熱温水を利用する。夏季であっても温水が必要だ」(清水建設)。

機械と人の得手不得手を生かす

 建物の空調と照明、研究設備の電力需要を管理するのは清水建設が開発したスマートBEMS(ビルエネルギー管理システム)(図4)。気象データや過去の設備運用実績に基づいて、翌日の建物電力需要を予測し、蓄電池を運用する。予想外に電力需要が増えた場合は、室内環境の快適性を維持しながら、設備機器の運転を強制制御する。

 清水建設のBEMSが一般的なBEMSと異なるのが、研究設備のエネルギー管理。「空調や照明は建物の使用実態に即して統合制御している。ところが実験設備の電力を実験中に制御することはできない。実験に悪影響が出るからだ。そこで、自動制御ではなく、人を介したシステムを構築した。学部ごとに担当者を決めて、電力需要を抑える必要がある場合は、抑制レベルを3段階に定めてメールで通知する。人手を用いて電力を絞り、その結果をメールでBEMSに戻す方式だ」(清水建設)。

 このような方式はどうしても必要だったのだという。「学部で消費する電力量の約半分が実験機器だからだ。配電設備などの知見も必要になるため、ITやビッグデータだけを用いる方式では対応できないだろう」(同社)。

 2013年からは応用生物学部と工学部のスマート化も開始した。新たに5棟を対象とした。実験設備以外にも人手を借りる仕組みを作り込んだ。「節電ナビゲーション」と呼ぶ。電力ピーク時には施設利用者と協議して決めた節電メニューのうちから管理者が1つを選び、学内LANで通知、実施状況を確認するというものだ。

図4 HEMSの表示画面(クリックで拡大) 出典:中部大学
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