国産技術で水素を液化、量産時30円で提供可能に自然エネルギー(2/2 ページ)

» 2014年11月21日 07時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]
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大規模設備を国産技術だけで構築

 水素の液化に最初に成功したのは、英国のデュワー(1898年)だ。120年近い昔に液化が可能になっているにもかかわらず、なぜ今、新たに水素液化システムを開発するのだろうか。

 「今回の水素液化システムにおける当社の強みは2つある。純国産技術だけを利用していることと、産業用規模(5トン/日以上)で製造可能なことだ」(川崎重工業)。液体水素製造を産業規模で事業化している国内の他企業は、全て海外の技術を利用しているという。

 コスト面でも競争力がある。「当社はエネルギー事業者ではないものの、顧客に説明するため、コストを試算済みだ。(図3にあるように)大量に埋蔵されているオーストラリアの褐炭*1)を利用し、1日に770トンの液体水素を製造、16万m3の輸送能力を持つ専用運搬船2隻を年間フル運行できた場合の数字だ。日本での船上引き渡し価格(CIF)は29.8円/Nm3になる」(同社)*2)

 このような試算を現実化するためにも、5トン/日を大きく上回る高性能な液化システムの開発が欠かせないのだという。

*1) 例えば褐炭と水を反応させると、水素と二酸化炭素が生成する。水素を分離後に残った二酸化炭素は分離・回収・貯留技術(CCS)を利用して安定した地層中に長期保存する。なお、現在のオーストラリアには火山活動が全く見られず、CCSに適した安定した地層が多い。
*2) ただし、29.8円では最終消費者に提供できない。事業者の国内輸送費や利潤、税金が加わるからだ。29.8円のうち、約3分の1の9.8円を水素液化コストが占めており、技術開発の必要性が高いことが分かる。この他のコストは水素製造(8.6円)、積荷基地(3.2円)、CCS(2.9円)、水素輸送船(2.6円)、褐炭(燃料代、2.3円)、その他である。なお、試算では設備の建設・運用費や電気料金も考慮している。設備の償却期間は15年とした。

技術的な優位性はタービンにあり

 同社の製造手法は、空調機などが低温の空気を作り出す方法とある程度似ている。図4はシステムの中核部分の構成を描いたもの。

 赤い線は液化の対象となる水素ガスと、製造後の液化水素を示す。緑色の線は閉回路を循環する水素ガスだ。図上部の2つの四角は圧縮機。中央の角が丸い大きな四角は液化機、網掛け部分は熱交換器、図下の角が丸い四角は水素タンクを表す。

図4 水素液化システムの構成 出典:川崎重工業

 まず、これから液化しようとする常温の水素ガスを圧縮、熱を逃がしてから液化機に導く(赤の線)。閉回路中の水素ガスも圧縮器で圧縮してから熱を逃がす(緑の線)。その後、閉回路中の水素ガスを膨張タービンに通じて、強制的に体積を増やす。すると低温の水素ガスになる。液化対象となる圧縮水素ガス(赤の線)にこの冷熱を熱交換器内で与える。低温になった圧縮水素ガスは膨張弁を通過する際に温度が下がり、液化水素に変わる。

 「水素液化システムの中で、当社の最大の強みは膨張タービンにある。タービンを高速で安定して回転させることで、液化の効率が高まる」(同社)。川崎重工業はガスタービン技術(関連記事)に強みがあり、この技術を水素液化システムに転用した形だ。

 超低温物質のハンドリング技術にも強みがある。「種子島宇宙センターにはロケット燃料を供給する当社の液化水素貯蔵タンクが設置されている。タンク技術にも独自のノウハウがある」(同社)。この液化水素貯蔵タンクの容量は国内最大だという。直径12.55mの球状のタンクだ。

【訂正】 記事の掲載当初、1ページ目の第3段落で「『実証設備であるため、小型化前の段階にある』(同社)。顧客に提供する設備はより小さくなるということだ」としておりましたが、顧客側の要求仕様によっては製造後の液化水素貯蔵タンクの数を増やす場合があります。「『開発用のシステムであるため、敷地内には顧客に提供する際には不要な設備もある』(同社)」と訂正いたします。2ページ目の第3段落で「10万m3の輸送能力を持つ」としておりましたが、これは「16万m3の輸送能力を持つ」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。上記記事はすでに訂正済みです。(2014年11月21日)

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