水素とクルマをつなぐ鍵、「ディスペンサー」の課題は何か和田憲一郎が語るエネルギーの近未来(7)(3/3 ページ)

» 2014年12月15日 07時00分 公開
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標準化はどの程度進んでいる?

和田氏 タツノのディスペンサーの仕様は、SAEの国際標準充填プロトコルに準拠しているとある。SAE J2601*1)以外に何か準拠している基準はあるのか。全ての仕様が充填プロトコルで定まっていないようだが、その点はどうか。機器の認証のような制度はあるのか。

*1) タツノが準拠している「SAE J2601」は米国の非営利団体であるSAE Internationalが定めた乗用車に対する水素充填に関する標準(SAEのWebページ)。

森泉氏 われわれはSAE以外に、石油エネルギー技術センターの水素インフラ規格基準委員会が定めるJPEC-Sに準じて、充填のやり方を設定している。これまでは2012年版がベースであったが、2014年版も発行された。ただし、機器の認証については現時点では制度がない。

和田氏 FCVの基準は70MPa。ディスペンサーは82MPaで充填する。充填時の圧力調整はどのようにしているのか。

森泉氏 ディスペンサーから水素を充填する際、FCVの燃料容器の圧力を初期にチェックする。その後、ディスペンサー側から徐々に吐出圧力を上げて充填するようにしている。充填圧力の上昇率も設定されている。ディスペンサーの入口の圧力が82MPaという値に設定されていることには理由がある。FCVのタンクに70MPaまで充填するためには、ディスペンサー側の圧力の方が高くないといけない。そうでないと、最後(満タン)まで水素を容器に押し込めないからである。

和田氏 水素充填では、ガソリンスタンドのように少量、例えば2kgだけ入れるというような調整が可能なのか。

森泉氏 計量機の精度の問題でもある。当社のディスペンサーは、顧客からの要望に基づいて、定量や定額で水素を充填することを想定して設計している。

和田氏 水素を液化してステーションに搬入すると、熱交換器(プレクール)は不要といわれている。ディスペンサー側はどうか。

森泉氏 ディスペンサーはあくまでも気体状の水素をFCVに充填している。液化水素がタンクローリーで水素ステーションに運び込まれ、ステーション内で気化する際に直接低温の高圧水素ガスが得られるのであれば、熱交換器は不要だ。当社のディスペンサーは1台でどちらにも対応が可能である。

水素をドライバーが充填できるのか

和田氏 ガソリンスタンドではセルフ給油が認められている。水素ステーションでは、セルフ充填は認められていない。今後の見通しはどうか。

能登谷氏 現在は高圧ガス保安法に基づく資格者の管理の元で、水素の充填をすることが定められている。ガソリンの場合、セルフ給油はまず米国で普及した。その後日本で認可されるまで相当の時間を要した。同様に相当の時間を要するのではと見ている。

和田氏 最後の質問になる。水素ステーションへの理解を得て、普及させる方法をどう考えているのか。

能登谷氏 われわれは安全を担保しながら、使いやすく低価格なディスペンサーの開発を目指している。常に安全が優先する。水素を危ないと考えている方がいるかもしれないが、使い方を間違えなければ安全である。ディスペンサーメーカーとして、今後もいろいろな場面を生かして、機器で実施している安全対策などを啓発しながら進めていきたい。

量産効果への期待が高まる水素用ディスペンサー

 前回取り上げた水素製造装置や圧縮機と比べて、水素用ディスペンサーは仕様がほぼ統一されている。部品の共用化が進むことで、量産効果への期待が高まる環境にあることが理解できた。水素製造装置や圧縮機とは状況が大きく異なる。

 ただし、懸念材料が2つあるように思われる。1つは規制の壁。実際に価格を下げようとすると、材料選定、安全係数など、設計を進める際に多くの規制がかかる。どのタイミングでどこまで規制緩和が進むかによって、ディスペンサーの価格が低減するスピードが決まってしまうのではないだろうか。

 2つ目は、数年後に課題になるかもしれないことだ。FCVとディスペンサーのインターオペラビリティ(相互接続性)である。FCVのメーカーが1社の場合は問題ない。だが、今後、トヨタ自動車に続いて、国内他社が販売を開始し、さらには欧米などからFCVが輸入されることになるだろう。ディスペンサー側も複数の企業が提供することになると、インターオペラビリティをどう担保するかが大切になる。逆に言えば、FCV普及のカギを握ることになる。FCVとディスペンサー間で通信機能を備える動きもある。インターオペラビリティの充実に期待したい。

筆者紹介

和田憲一郎(わだ けんいちろう)

1989年に三菱自動車に入社後、主に内装設計を担当。2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。2007年の開発プロジェクトの正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任し、2009年に開発本部 MiEV技術部 担当部長、2010年にEVビジネス本部 上級エキスパートとなる。その後も三菱自動車のEVビジネスをけん引。電気自動車やプラグインハイブリッド車の普及をさらに進めるべく、2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立した。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。


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