もう1つの重要なテーマは再生可能エネルギーと水素エネルギーの融合だ。現在のように化石燃料から水素を製造している限り、政府が目指すCO2フリーの水素社会は実現できない。太陽光などの再生可能エネルギーで発電して、その電力で水を電気分解すれば、CO2フリーの水素と酸素を作ることができる。欧米では「Power to Gas」と呼び、ドイツなどで実証実験が進んでいる。
日本でも神奈川県の川崎市で、再生可能エネルギーと水素を組み合わせた実証プロジェクトが2015年4月に始まる。東芝が開発した自立型のエネルギー供給システムを市内の2カ所に設置して、太陽光と水素で電力と温水を供給する試みだ。
発電能力が25kWの小規模な太陽光パネルと組み合わせて、電気分解で作った水素を使って燃料電池を動かす(図5)。システムの内部には蓄電池も備えて、電力と水素の両方を貯蔵することが可能だ。この仕組みで300人分の電力と温水を1週間程度は供給し続けることができる。地域の災害対策に生かす狙いもある。
川崎市は水素社会の実現に向けて、国内で先進的なモデル地域になることを目指す。臨海部の工業地帯に「水素供給グリッド」を展開しながら、発電能力が90MW(メガワット)もある水素発電所を建設する構想だ(図6)。2015年中をめどに建設に着手する準備を進めている。
このほかにも関西国際空港が「水素グリッドエアポート」を目指して、燃料電池車や水素ステーションの導入を推進中だ(図7)。当初は2014〜2016年度の3年間に、貨物用のフォークリフトや乗客用のリムジンバスなどを燃料電池(FC)タイプに切り替えていく。さらに空港内に設置した太陽光パネルや風力発電機から電力を供給する方法で、CO2フリーの水素を製造する計画もある。
政府は2020年の夏に東京で開催するオリンピック・パラリンピックまでに、燃料電池車を中心に水素エネルギーの導入を一気に進めて、世界で最先端の水素社会をアピールする方針だ。国の総力を挙げた「ソーシャルイノベーション(社会変革)」の取り組みが始まる。
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