水素ステーションのコスト低減策、「見えない条件」があった和田憲一郎が語るエネルギーの近未来(9)(4/4 ページ)

» 2015年01月15日 09時00分 公開
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水素ステーション建設の新たな低減ポイント

 今回、トキコテクノの取材から分かったことは2つある。まず、水素ステーションの建設では、仕様の標準化やユニット化に注力する必要があるということだ。これは他社の取材内容とも符合する。もう1つは思いも寄らぬ課題だ。水素ステーションの規模と次世代自動車振興センター(NEV)の補助金の関係である。

 水素ステーションの建設では、施主と元請が仕様を決める例が多いようだ。しかし、その際、彼らがモノサシにしているのが、NEVの補助金基準なのである。現在は図5に示す通り、2種類に分かれる。中規模水素供給設備(水素供給能力が300Nm3/h以上)と小規模水素供給設備(100以上300Nm3/h未満)である。

図5 水素ステーションに対する補助金の上限額一覧 出典:NEV

 そして、現在設置を計画している水素ステーションの規模は、移動式を除くとほとんどが300Nm3/h以上となっている。1時間あたり5〜6台のFCVを充填できる能力だ。逆にこれより少し小さい規模の水素ステーション(例えば4〜5台のFCVを充填)を作ろうと考えていても、中規模と小規模では補助金額に、オンサイトで1億円、オフサイトで7千万円の差があることから、無理を押しても300Nm3/h規模になってしまう。

 NEVは補助金の条件を決める際、規模を2つに分けて補助金の上限枠を設定したのであろう。しかし、いつの間にかそれが仕様の条件になってしまっている。300Nm3/hが閾値となり、水素ステーションの仕様を決めている形だ。

 FCV普及の初期段階では台数も少ない。2015年度の販売台数は400台程度といわれている。その後も急増せず、徐々に増える。初期段階からFCVが数多く充填に来ることは考えにくい。「大は小を兼ねる」と言うが、初期段階は小規模に作り、次第に需要に応じて拡張するという手もあるのではないだろうか。

 設備が高額であるため、補助金が重要であることは理解できる。ただ、もう少し柔軟に運用することで、水素ステーションの規模を適切に抑えることができ、建設費用が下がるケースもあるように思える。規制緩和とともに、考えていきたい項目であろう。

筆者紹介

和田憲一郎(わだ けんいちろう)

1989年に三菱自動車に入社後、主に内装設計を担当。2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。2007年の開発プロジェクトの正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任し、2009年に開発本部 MiEV技術部 担当部長、2010年にEVビジネス本部 上級エキスパートとなる。その後も三菱自動車のEVビジネスをけん引。電気自動車やプラグインハイブリッド車の普及をさらに進めるべく、2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立した。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。


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