白色LEDのコストを半減、さらに明るさを10%向上LED照明(1/2 ページ)

東レは、白色LEDの材料コストと製造プロセスの改善を合わせてコストの半減を目指す「白色LED用蛍光体シート」を開発、2015年1月から販売を開始した。この蛍光体シートを採用することで、消費電力を変えずに明るさを10%以上向上できるという。

» 2015年01月19日 07時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

 「白色LEDのコストを半減することを目指した技術を開発した。同時にLEDの輝度も10%以上向上する」(東レ)。同社が2015年1月に販売を開始した「高輝度白色LED用蛍光体シート」(蛍光体シート)を採用した場合の効果である。

 出力1〜5WのLEDチップを用いたいわゆるハイパワー照明や自動車のヘッドランプ用LEDに適する蛍光体シートだという。

既存の白色LEDには3つの課題がある

 白色LEDの開発課題として同社が挙げるのは3点だ。第1にLEDの消費電力を据え置いたまま、光の量(輝度)を増やすこと。第2に光の品質を高めること、第3に高価な材料の使用量を減らすことだ。これらの課題を解決するために、白色LEDを構成する部品のうち、蛍光体の配置を変えた。

 白色LEDに必要な部品・部材は大きく4つある。窒化ガリウム(GaN)半導体を用いた青色LEDチップ、チップを納めるケース(リフレクター)、ケースの上部に充填するシリコーン樹脂(やレンズ)、シリコーン樹脂に加える黄色蛍光体だ。4つの部品・部材を組み合わせてLEDパッケージを作り上げ、これに放熱部品や電源などを追加するとLED照明が完成する。

 それぞれの部品・部材の役割はこうだ。青色LEDチップは光源だ。電流を供給するとあらゆる方向に青色光を放つ。ケースは電極として機能し、熱を逃がすヒートシンクの役割がある他、チップから横方向に放たれた光を正面方向に反射するために役立つ。このため、光の取り出し効率が上がる。黄色蛍光体は青色光の一部を吸収してよりエネルギーの低い黄色光に変換する。シリコーン樹脂はLEDチップを封止する他、光を屈折させる働きももつ。さらに黄色蛍光体粒子を分散保持するために使われている。

 LEDチップが放つ青色光の一部はそのまま外部に飛び出し、青色の補色である黄色と合わさって、人の目には白色に見える。

LEDチップの表面にシートを貼り付ける

 以上のような説明が最もよく当てはまるのが、大量に生産されているディスペンス方式のLEDパッケージだ(図1)。スプレーコーディング方式ではLEDチップの表面に黄色蛍光体を噴霧塗装(スプーレーコーティング)によって塗り付ける。ケースによるリフレクターの機能は砲弾型のシリコーン樹脂が兼ねている。

図1 LEDパッケージの構造。ディスペンス方式(左)とスプレーコーティング方式 出典:東レ

 ディスペンス方式のようにケースを使いながら、東レの蛍光体シートを採用すると、次のような構造になる(図2)。LEDチップの表面に蛍光体を含んだごく薄いシートを貼り付け、その後、蛍光体を含まないシリコーン樹脂を充填した形だ。

図2 蛍光体シート方式の構造 出典:東レ

屈折率を調整してムダな光を減らす

 蛍光体シートを採用すると輝度が10%以上向上する理屈はこうだ。「蛍光体シートの屈折率をLEDチップの材料である窒化ガリウムと近くなるように設計した。このため、窒化ガリウム結晶内部から結晶の表面に対して水平に近い方向に放出された光が全反射しにくい。その結果、窒化ガリウム結晶から外部に取り出すことが可能な光が(10%以上)増えた」(同社)。

 同社が第2の課題として挙げた光の品質の問題も蛍光体シートが解決する。例えばディスペンス方式のようにシリコーン樹脂中に蛍光体を分散させると、どうしても蛍光体の分布がわずかに偏ってしまう。蛍光体が多い部分は黄色の光が強くなるため、LED照明器具から放出された光が例えば白い壁に当たると、光の外周部が黄色く、中央部が青く見えてしまう現象が起こりやすい。光の品質が低い。

 この問題を解決するために、同社が開発した蛍光体分散技術を適用して、蛍光体シート中の蛍光体が均一に分散するように製造した他、膜厚自体の精度も高く保った。膜厚は30〜300μmの範囲で制御できる。

 第3の課題も蛍光体シートで解決する。LEDチップの発光面だけに蛍光体の層を形成するため、シリコーン樹脂全体に蛍光体を分散させた場合(ディスペンス方式)よりも、蛍光体の量を減らすことができる。スプレーコーティング方式に対しても優位だ。蛍光体にはユウロピウムやセリウムなどの希土類(レアアース)が含まれているため、蛍光体の使用量削減が材料コスト低減に効く。

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