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» 2015年01月26日 13時00分 UPDATE

迫り来る電力・ガスシステム改革(1):規制緩和で勝ち続けるために、先行する海外に学ぶ

3段階で進められる電力システム改革において、その第2段階である電力小売および発電の全面自由化、その後の発送電の分離が迫って来ている。それと並走してガスシステム改革の議論もあり、既存の電力会社やガス会社の垣根を越え、まさに公益業界は大きな変革の時を迎えている。このような市場環境に確実に対応して勝ち残っていくためには、どのような施策・取り組みが必要となるのか。規制緩和が先行する海外の動向や公益事業会社の事例を中心に4回にわたって解説していく。

[川島 浩史/SAP Japan,スマートジャパン]

 迫り来る日本の市場変革への対応において、必要となる取り組みは大きく3点が挙げられる。

1.極めて限られた時間内での実行

2.電力・ガスバリューチェーンの根本的な再構築

3.未知数である変化への対応

1.極めて限られた時間内での実行

 まず、欧州における規制緩和の流れと日本の場合を比較してみる。詳細な記載は避けるが、欧州においては10数年にわたり変革が実行されてきた。それに対して日本は5年ほどの期間に限られ、今から3年強で対応しなくてはならない(図1)。

sap1_1_sj.jpg 図1 欧州と比べた日本の電力システム改革の流れ(画像をクリックすると拡大)。出典:SAP Japan

 さらに2016年4月をめどとされている「電力小売及び発電の全面自由化」に向けては1年強と、待ったなしの状況にある。海外で実施した自由化と比較しても、極めて短期間で準備・実行を求められている。

 準備・実行と一言でいっても、その対象は広範囲であり、不透明な部分も多い。例えば自由化の対応においては、既存顧客の維持から新規獲得を目指す顧客数、そのターゲティング、そして電源確保まで多岐にわたる。同時に、そのような顧客戦略などをスピーディに実施するためのITシステムの対応が必須となる(詳細は第2回以降に解説)。

 海外ではこのような自由化に向けたITシステムの構築は、パッケージ製品の活用が主流となっている。最大の理由は、限られた期間で対応する必要があるためだ。業務の再構築や新規業務への対応に向けては、ゼロからの「開発」が難しい場合や、膨大な工数を必要とするため実施時期に間に合わないと判断されるケースも多い。

2.電力・ガスバリューチェーンの根本的な再構築

 電力・ガスを扱う公益事業会社にとっては、小売自由化や発送電分離に向けて、個別業務の対応はもちろん、管理構造の大きな改変が必要となる(図2)。端的に言うと、各事業領域の管理と全社的な管理のさらなる高度化である。

sap1_2_sj.jpg 図2 電力・ガス会社の業務とITシステムの機能(画像をクリックすると拡大)。出典:SAP Japan

 例えば発電事業においては「発電会社」を意識した管理が必要となり、コストを低減しながら、従来からの信頼性・安定性の実現が必要となる。一方で全社的な管理では、事業全体・グループ全体でいかに収益向上を実現できるかが重要な課題である。

 ドイツの大手公益事業会社であるEnBW社の場合には、従来はコスト部門であった経理や顧客管理などの共通業務をBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)方式のサービスにして、社外に提供して収益源に転換した(詳細は第2回以降に解説)。競争環境下においては、このようなグループ全体の業務のあり方の再考が不可欠である。

3.未知数である変化への対応

 海外の公益事業会社からよく聞く話だが、「規制緩和というのは、事業変化の始まりの一歩にすぎない」。これは制度面と競争環境面の両方で言えることである。

 制度面においては、例えばドイツでは「情報分離」のルールが導入され、各事業者はIT面での対応を迫られた。そのような中、EnBW社は企業統合・業務標準化のために従来から導入していたERP(エンタープライズ・リソース・プランニング)のシステムを活用して、システムの分割を含む情報分離を短期間に実行した。

 ERPを活用すると開発ではなくて設定が中心になり、多様な組織管理構造を1つのシステムで対応できる。この方法により、EnBW社は他社よりも1年ほど早く対応を完了させた(図3)。制度面の変化に迅速に適応できたことが競争優位につながった。

sap1_3_sj.jpg 図3 ドイツEnBW社の取り組み。出典:SAP Japan

 では競争環境面の対応はどうだろうか。いまや一般の需要家ではスマートフォンやWebが当たり前のように使われている。メーターに関しても今後はスマートメーターの活用が必須となる。ビジネスの領域ではクラウド化も進む。顧客対応の高度化や多様な料金メニューの提供といったことに加え、現代ではこのような新テクノロジーの活用が顧客サービスには必要となる。

 欧州などでは、まず制度面に対応して多様な料金メニューの提供を行い、次に新テクノロジーの活用段階に入っている。しかし日本市場では、制度面の対応と競争優位のための新テクノロジーの活用を同時並行で進めていかなければならない。変化し続ける制度面・競争環境面を見据えて、業務領域を柔軟に拡張できるIT基盤が必要となる。

 今後の日本市場における電力・ガスシステム改革では、ビジネスを支えるIT基盤として、「迅速性(対応のスピード)」、「網羅性(多様な業務エリアの統合管理)」、「柔軟性(変化への対応)」、「拡張性(業務の拡張)」、「確実性(先行する海外市場での実績=知見の活用、日本市場のサポート力)」を備えることが必須であると考えられる。

 次回からはさまざまな業務領域にブレイクダウンして、海外の事例や必要な施策を掘り下げて解説していく。

連載第2回:「小売自由化で求められる、新たな顧客サービスの仕組み 」

著者プロフィール

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川島 浩史(かわしま ひろし)

SAPジャパン株式会社公益事業統括本部 電力・ガスシステム改革支援室 室長。日本市場における公益業界の事業開発に従事。SAPグローバルチームと密に連携し、各種市場・事例調査や、公益業界に向けた最新ソリューションを日本に展開する役割を担っている。


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