太陽電池の出力アップ、網目電極とセルの裏返しで実現蓄電・発電機器(2/3 ページ)

» 2015年03月05日 07時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

セルの層構造を改善

 3番目の工夫は太陽電池セルの受光面に従来とは異なるシリコン半導体を配置したことだ。一般的なシリコン太陽電池セルでは、わずかにホウ素を加えたp型シリコンウエハーを利用する。ウエハーの上部からリンをわずかに拡散し(ドープし)、p型半導体とn型半導体の対を作る。これで太陽電池として機能する(関連記事)。図5の左上の構造だ。

図5 結晶シリコン太陽電池セルの層構造(クリックで拡大)

 このような太陽電池セルを改善したのが、ヘテロ接合構造セルだ。パナソニックのHIT太陽電池などがこの構造を採る。図5の左下に示した構造だ。まず、n型のシリコンウエハーの上下に不純物を含まない(i型の)極薄アモルファスシリコン層を形成する。上面にはさらにp型のアモルファスシリコン層を、下面にはn型のアモルファスシリコン層を作る。上から順にp型−i型−n型−i型−n型と並ぶことになる。

 先ほどの一般的なシリコン太陽電池セルでは、p型とn型の界面で電荷(電子と正孔)が再結合して消滅しやすい。本来なら太陽電池の外部に取り出せたはずの電流が一部失われてしまう。ヘテロ接合構造セルでは不純物を含まないアモルファスシリコン層が再結合を防ぐ。

 長州産業は自社の太陽電池セルを「リアエミッタヘテロ接合構造セル」と呼ぶ。図5の右側に示した。基本的な構造は先ほどのヘテロ接合構造セルと同じだ。違いは2つある。まず、上面にn型、下面にp型のアモルファスシリコン層を配置した。次に、上面側のi型層にわずかにn型の性質を持たせた(ライトドープn型層)。上から順にn型−わずかにn型−n型−i型-p型が並ぶ。

 アモルファスシリコン層が再結合を防ぐ利点をそのままに、ライトドープn型層が電気抵抗を小さくするため、取り出し可能な電力を増やす効果があるという。

波長変換両面ガラスで光を改善

 同社は今回のGシリーズの性能をさらに高める技術を2つ展示した。波長変換両面ガラスモジュール技術と細線印刷技術だ。順に紹介する。

 波長変換両面ガラスモジュール技術は、波長変換と両面ガラスという異なる2つの技術を含む(図6)。まずは波長変換だ。波長変換技術により、モジュール変換効率が最大20.9%に高まり、セルを60枚用いた参考出展品ではモジュール出力が333Wに達したという*2)

*2) 波長変換両面ガラスを用いず、選別したセルを60枚用いた太陽電池モジュールの効率は19.9%、出力は325.6W。つまり、波長変換両面ガラスの効果は、効率が1ポイント向上し、出力が7.4W高まることだといえる。

図6 波長変換ガラスモジュール技術の概要(クリックで拡大)

 一般的な太陽電池モジュールは大きく3つの層からできている。表面の強化白板ガラス、EVA(エチレン酢酸ビニル共重合樹脂)中に封止された太陽電池セル、裏面保護樹脂だ。裏面の保護樹脂は耐環境性に優れているものの、有機物であるため紫外線がなるべく当たらない工夫が必要だ。そこで、EVA樹脂中に紫外線吸収剤を混ぜ込んでいる。

 この手法では太陽電池モジュールの寿命は長くなるものの、太陽光の一部である紫外線を発電に利用できていない。そこで、紫外線吸収剤の代わりに波長変換剤を配合した。紫外線を吸収し、可視光を放出する物質だ。

 両面ガラスは耐環境性を高める工夫だ。強化白板ガラス、EVA樹脂中に封止された太陽電池セル、裏面保護樹脂という組み合わせを次のような構造に置き換えた。反射防止膜付き2mmガラス、波長変換剤配合封止材、太陽電池セル、白色封止材、2mm厚ガラスである。

 このような工夫により、水蒸気が透過しにくく、耐荷重が高く、耐候性に優れた太陽電池モジュールを作り上げることができるという。

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