水素ビジネスの分水嶺、事業継続が鍵を握る和田憲一郎が語るエネルギーの近未来(12)(2/3 ページ)

» 2015年05月11日 09時00分 公開

水素ステーションの普及に向けたビジョンと現状

 ここで日本国内における水素ステーションの普及に関する動きを整理する。大きな動きとして2011年1月に自動車メーカー3社、水素インフラ関連企業10社の合計13社が、FCVと水素供給インフラ整備に関する共同声明を発表した。その概要は2015年を目標に4大都市圏を中心にFCVの市販車両を投入し、それまでに100カ所程度の水素ステーションなどのインフラを先行して整備するというものだった(関連記事)。

 こうした民間の計画を受けて、2013年度から水素供給インフラ整備に向けた国の建設補助金制度が開設された。2013年度は18件、2014年度には24件の申請が採択されており、民間企業による商用水素ステーションの建設が進められている。水素ステーションはその計画から完成まで概して約1年以上要するが、2014年3月末までに18件が開業しており今後も順次開所が進むと予想される。2015年度も10数件程度の補助金公募が行われている状況にある。

 水素ステーションの商用インフラ整備に関しては複数の課題がある。これまでにない設備であることから建設コストがまだまだ高額であること、需要の高い都市中心部で適切な敷地を見つけることが困難なこと、FCVの普及台数が増えるまでの期間は水素ステーションの稼働率が低くなるため、事業収支で赤字が続くと予想されることなどだ。国が補助金を用意しているとはいえ、企業が建設に着手するには大きなハードルがある。

 しかし2014年末にトヨタ自動車がFCV「MIRAI(ミライ)」の一般発売を開始したことは市場にも大きな好影響を与えた。さらに2020年に開催が決定した東京オリンピック・パラリンピックに向けた水素社会の実現に関する提案も進んでおり、今後は水素インフラの建設に取り組む企業も増加してくるものと期待される(関連記事)。

水素ステーション設置のためのガイドライン

 FCCJは先述したのFCVと水素ステーションの普及シナリオは発表しているが、水素ステーションの建設推進に向けた標準仕様などのガイドラインは取りまとめていない。その理由として、国の推進施策が民間事業を支援する形態となっているため、個社がそれぞれビジネス戦略に沿って普及を推進していること、水素ステーションに関連する技術も開発途上であり、こうした技術開発も各メーカーの事業ベースで推進されていることが挙げられる。

 ただし、水素ステーションの仕様については、国の補助金支援事業の中で規模や構成といった大枠のガイドラインが規定されており、今後の技術展開、コストダウンなどの取り組みに向けて一定の方向性は示されている。一方、FCCJでは水素ステーションにおける水素充填を適切に実施するため、設備、水素品質、計量方法などの運営管理に関する自主ガイドラインを制定しており、FCVユーザーが安心して利用できる水素供給の仕組みの確立を推進している。

規制緩和への取り組みも推進

 水素ステーションに関しては、高圧ガス保安法をはじめ、多くの規制が設けられている。FCCJでは、FCVの普及に向けた水素ステーションの建設や整備の促進と迅速化、低コスト化などに向けて、規制の見直しに関する課題を抽出し、関係事業者の意見を集約して政府に規制見直しの推進を要望している。高圧ガスの安全に関する事項については、さまざまな試験結果のデータ収集や、研究による事象の解明が必要な課題も多く、これらについては新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に対して技術開発に関する要望や、国への支援提案なども進めている。

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